up:: Plot
――転生、超楽しかった。
私は自分の日記を、そう締めくくった。
今から二十年ほど前になるだろうか。私は、いわゆる異世界転生というものを経験した。
極々普通に年収一千万を夢見ながら、行きつけのカフェの新作を飲みながら歩いていた私は、背後から迫る一つのトラックに気付かなかったのだ。予想していれば避けられたかもしれないが、丁度横断歩道を渡っていた私の背後は当然歩道だったし、そこから公園を突っ切ってまでトラックが私を轢きに来るとは思わないだろう。普通。
もちろんそんな唯我独走トラックがまともなはずはなく、それは上位者とやらさまが遣わした迎えだったらしい。目が覚めたときに見えたのは、知らない天井どころか知らない体。既にガワだけ与えられた私は、裸電球が吊り下がるコテージで上位者の説明を受け、世界を楽しんでくるようにと頼まれた。外は霧で全然見えなかった。
その言葉通り、私は世界を楽しんだ。平原を走り、森を飛び回り、城を探索し、洞窟を探検し、渓谷を跳ね、列車に飛び乗り、飛竜と撃ち合い、駅で表彰され、首都で買い食い、開発区域へ赴き、悪と対峙し、大切な人と出会い――長くなるからいいか。色々あったのだ。
そして色々の結果、私は上位者になった。十二分に楽しんだ私は、この楽しさを同じく誰かに分けてやりたいと考え、そのために頑張って上位者になったのだ。支えてくれた人達には、感謝をしてもしきれない。もうできない。
……ともかく、今日は上位者私の初仕事だ。前の上位者のやり方はあまりにも不自然だった。だから上位者になる前に色々学び、これが最善だというやり方を予め用意しておいたのだ。新たに行きつけに加わったカフェの新作を飲みながら、私は片手で隕石を操作した。
30.3716606, 133.6956458。
私は、彼を招待する。
「……ここはどこだ」