旅するものよ、今や捨て去った全てのものよ。
歌われるべくしたその幻想は、かくしてここに顕在する。
我らが望むまま、我らが願ったあの時のままに。

からからころり、かんからり。
未来占う劇場晩稲、ささやかながらにこれにあり。
連れ出す夜は少女のごとく、連れ引く

緑の木々、香る草花、遥かに霞む絡繰の城。
史実の過渡にまつろうは、偉大な最期を遂げた騎士。
殉ぜよ、果てよ、彼を讃えて。
その目に宿した呪いをともに。

二の足を踏むは、かつての亡骸。
栄華を極めた鉄塔たちは、腹に心を抱えて落ちた。
刻まれるは風の音、時の音、炎の音。
それら全てを飲み込んで、一つの躯が夜を征く。

果てより懸かる、アマの分け目。
一つは明けて、一つは暮れて、一つは太陽を奏で合う。
けして二人を合わせるな。
けして二人が交わるな。

「勝手に死ぬな」「勝手に死ぬな」
神と機械、願いが作る理想郷。
「責任を取れ」「対処しろ」
人は乞う、身勝手極まる結末を。

熱に浮かされ、夢をたゆたう。
ここは宴と祭の美しき世界。
何を祝うか、何を祀るか、何が為にと祈るのか?
あなたは一歩、ただ進むだけだったのに。

視界を埋める一面の緑、そこに浮かぶ白き錐体。
幸も不幸も吸い上げて、願いを運ぶ未来船。
願えば叶う、望めば適う、いつか憧れた姿へと。
けれど、それは、誰が持っていた輝きだろう?

鏡よ鏡、どうか繋がれたつまらぬ幻想が、
私であることのないように。

命は私を裏切った。約束はきっと反故にした。

町中一つ、誰も顧みぬ開かずの宮殿。
折り重なった部屋部屋が、いつか拉げて基礎になる。
臨めよ空、そして時を手にかけよ。
臨めよ星、そして奇妙を絶ちわけよ。

どうか魔法よ、そこにあれ。

メッセージを受けたな。走れ。
もう、電話は必要ない。

偉大な裂け目、静かな裂け目。
その底めがけて降りしきる、黄金色の細雪。
街の喧騒も報われますように、
明日が明日でありますように。

そよ風よ、電線さざめかす青さよ。
捨ててしまった昨日も、すくすく膨れた入道雲も、皆皆超えてゆけ。
やがてふわり降りゆく場所を、
見上げる向日葵が咲き誇らんことを。

恐れるな。
いかにお前が嫌われようと、
いかにお前が忘れられようと、
お前が残した爪痕を、轍を、声を、
これから残す姿を、名前を、言葉を、
私は死んでも守る。
だから、行け。やるべきことが、
やりたいことが、あるのだろう。

陰陽択一、されど両側の大奇化術師。
人の笑顔を求めて究め、
ついに波間で立ち上がる。
揺らげよ揺らげ、くゆれよくゆれ。
いつかどこかで、また逢えるよう。

すこし立ち止まって、それから商店街を見て回った。
どこかの国の名産だとか、あの人も認めた逸品だとか、
橋の下を抜けていくカヤックで昼寝していたりとか、
ちょっとだけ飛び出た屋根裏の窓で歌っているとか。
何でもなかった一日は、きっといくつもあって。
だから今日は、特別な休日になっていく。

ぎこちなさと、ためらいと。
雪からのぞいた春の顔、ほおを桜色に染める照り返し。
ととん、ととんと列車は歌う、
次の始まりを告げて回る。