「おはようございます!457862!ただ今到着しました!」
 会場の庭に向かって元気よく挨拶!けれどなんだか、人があんまりいない。庭はとっても広いし、椅子やテーブルやそれにつけるパラソルなんかがいっぱいあるのに、働いているメイドさんは二人しか見えない。あれれ?
 「まだ早い!一時間前行動だ!」
 僕がそのことについて考えこんでいると、青い髪の女の子は鋭い突っ込みを入れてきた。うんうん、この子も元気が出てきたみたいで何より!
 「あら?あららー。もう来ちゃいましたかー。おーいワンドット、どうしますー?」
 場所についてすぐ、テーブルを立てていた妖精のお姉さんが、おっとりとした声で人を呼んだ。薄浅葱色の長髪をおでこが見えるように分けていて、笑顔からわかる声と同じほんわかとした雰囲気!それにとってもメイド服が似合う!ああ!あれが僕の憧れ、妖精メイド!
 「かわいい!かっこいい!」
 「あらあらー、素直な子ねー。うふふ、あなたも可愛いわよー」
 「あ、ありがとうございます!」
 た、大変だ!妖精メイドさんに褒められてしまった!どうしよう、顔がついつい緩んでしまう!
 「にへら〜。」
 「やばい、そろそろ朝日が……。お前、もしかしてあのシーアか。ちょうどいいわ、パラソルを一つ貸してちょうだい」
 「どうぞどうぞー。って、おはようございます、レ――何とかさん。どうしてここにいるんですかー?」
 「……成り行きで私も受けることになったのよ。まあ、抜き打ちテストということにするわ。私もあなた達もね。誰にも言うなよ?」
 「はーい、わかりましたー。後悔しないでくださいねー」
 「わかっている……いや待て、後悔ってなんだ、おい」
 「ふふ〜、今のうちにそのひらひら、着替えたほうがいいですよ〜。ここにいる間は受験生様〜。はい、パラソル」
 「……お手柔らかに」
 「にへら〜。」
 「しつこいな、こいつは」
 うう、早く元に戻さなきゃ。ここでいつまでもにやついているわけにはいかない!アピールしなきゃ!
 「あの!何か手伝うことはありますか!」
 「その意気や良し!」
 「ひぃ!」
 気づけばそのおっとりお姉さんの横には、腰に木刀を差した妖精メイドさんが立っていた。
 同じメイド服だけど、印象が全然違う。少し焼けた肌で、手を前で合わせているお姉さんとは逆に、腕を組んで堂々と立っている。顔はとっても笑顔で、つり目でなんだか驚いているような目。真っ赤な癖っ毛を頭のてっぺんで適当に纏めている。なによりびっくりするのが身長で、ここにいる誰よりも高い。机に付いているパラソルと同じくらいだ。
 僕がまじまじと顔を見上げていると、つり目がぎろりと動いて僕らのほうをにらんだ。な、なんだかこの人、こわい……。
 「ワンドットー、あんまり怖がらせちゃダメよー」
 「分かっているさ!それにしても驚いたな!まさか妖精メイドになる前からこんな殊勝な心がけの妖精がいるとは!よろしい、ついて来い!貴様に労働の喜びを与えてやろう!」
 「うぁ、は、はいぃ!」
 勢いに飲まれそうになりながらも、なんとか耐えて返事をする。気をしっかり持て!これもアピールポイントだ!
 「上官殿、私もついていってよろしいですか?」
 僕が必死で耐えている横で、青髪の女の子は普通に妖精メイドさんとお話ししていた。い、意外と度胸あるなあ、この子。
 「む?構わんぞ!好奇心は大切にしろ、というのは我が主の意向だからな!」
 「……そんなこと言ったっけ。まあ、いいか」
 「それにどの道!そんなふわふわした服では試験は受けさせられん!私の服を貸してやるから、一緒に来い!」
 「恩に着ます。……え?あなたの服?」
 「ゆくぞーっ!」
 赤い髪のメイドさんは、そういって会場を出る方向に一目散に駆け出していった。
 「えっ、待って下さいー!」
 「ねえ!あなたの服ってサイズが……ちょっとー!」
 僕達も慌ててその後をついていく。あのメイドさん、すっごく早い……!頑張ってついていかなきゃ!これもアピール、アピール?ポイントだ……!
 
 
 
 「ふー、行ってしまいましたかー」
 ……
 「それにしても、あの人と仲良くなるだなんてー。これは今回も面白そうですねー。」
 …………
 「そう思いませんかー?チーシャーナーさぁぁん?」
 「……ワタシ、シラナイ、アイム植え込みぃ」
 「ていっ」
 「ひぎゃあ!目が!指の感触がぁ!ん?いやでもこれもありかも新感覚ぅ!もう一発プリ……ぎゃー!」