「ふわぁ……」
 こぼした欠伸が、寝室の空気に溶けていく。ぼんやりとした頭で、私は時計を一瞥した。
 現在時刻、辰の四つ。太陽がそろそろ暑さの本領を発揮する頃だ。こんな時間に布団にくるまっているなど、暑さ的にも人間的にもいただけないだろう。
 しかし私は魔法使いである。暑さぐらい魔法(一円、香霖堂、リモコン付き)でなんとかなるし、人間じゃないとは流石にまだ言えないが、人里の人たちとはもうすでに少々生活リズムが違うのだ。
 だからこうして、白昼堂々睡眠を貪っても問題ない。何せ昨日は丑三つ時まで起きてたんだし。魔本の筆者がいけないんだぜ、調合時間の目安を書くインクをケチるから。
 そんな不満をつぶやきつつ、私はまたベッドに倒れこむ。
 やはりまだ疲れていたんだろう、一分と経たずにふわりと体が浮くような感覚を味わう。同時に、四肢から力が抜けてゆく。
 そして思考が鈍り、意識は夢の世界へと誘われる。……いや、今回はそっちじゃなくていい。
 今は夢は見なくていいのだ。疲れを忘れられるなら、それで……
 ……
 …………
 がちゃり。
 ……
 すたすた。
 ……
 「すぱーん」
 「ふぎゃあ!?」
 忘れてた。
 幻想郷にとって平穏は、貴重な物だ。
 
 
 「……叩き売りとは、こういう事ではないのですね」
 「当たり前だろ!押し入り強盗が押し売る物なんて誰が買うんだよ!」
 人間が妖怪を叱りつける。