「……探してはみるけどさあ。期待しないでね」
「ありがとうございます!それでは私はこれで!」
深々と頭を下げる天狗が一羽。と言っても羽はしまっていて、服は人里の女性によくいる楊梅一色の着物だ。髪も軽く結わえていて、言われなければ彼女がアイツだとはわからない。
「もう帰るのん?」
「私がここにいたことが上にばれると大変なのです。その封筒には口止め料も含まれていますので、どうかこの件はご内密に」
「組織って苦労すんだな」
「取材として来ればいいのに」
「やだなあ、公私混同なんてしませんよ」
どの口がおっしゃるのやら。焼鳥屋に私情増し増しで取材するくせして。第一個人印刷の天狗の新聞に、公も私もないだろうに。
「何なら外まで送りましょうか?一般人さん」
「結構です。私を片手で捻れてしまう妖怪さんたちの隣なんて、恐れ多くて歩けません!」
「なんかすごいハマってんな、お前の演技」
「もっと大根どころかカブぐらいだと思ってたわ」
「突然のカブ差別!?」
「フランスの話はそこまでよ」
何故にフランス。まあいいや、私もあまりこいつを部屋に置きっぱにはしたくない。このまま出てってもらおう。
「おやおや、仲がよろしいことで。ではでは依頼内容のお間違えなきよう、お願いしますよ」
天狗がドアを開け、拍子に一陣の風が吹き――いやそれだけじゃない、風で灯りの炎を大きくして運んで――そして、壁に焦げ跡と僅かな火を残し、天狗は消えた。……こんな派手にやっていいのか、大丈夫なのか。
「バレたくないんじゃなかったのかよ、あいつ」
「だからだろーねー。万が一ここに来たことがバレたら、『取材を試みましたが、悪魔の妹さんに炎剣で炙られただけでした』とか言い張るつもりでしょうな」
「自分の信用の無さも使うのか……」
何というか、本気なんだな。私はこんな依頼にそれほどの価値があると思えないんだけど。
「さっ、突っ立ってないで仕事よ。咲夜、初期消火」
「もう済んでおります」
フランドールが掠り気味に指を鳴らす、よりも前にメイド長はそこに居た。はえーよ。お前、トラブル起こるって予見してただろ。
「焦げ跡きっちり残すってことは、話聞いてたのかメイド長」
「誰があなた達に会うにしろ、監視はすることにしています。今回は風の流れが読める天狗相手だったので、隠密が少々大変でしたが」
「……あなた、ずっとこの部屋にいたのかしら」
「当然ですが何か?」
「……」
おっ、封獣の顔が曇った。なんかこいつ、何か始まるときはいっつも不機嫌な顔してんな。もっと笑ったほうが人生楽しいぞ。
「もっと笑ったほうが人生楽しいぞ」
「余計なお世話よ」
「こいしぃ? お前本当は第三の目開いてんだろ? なあ?」
「気にしすぎですぜオヤビン。ほら、それより依頼のプラン練りましょ!」
私の疑念を吹き飛ばすように、勢い良く依頼用紙を机の上に並べるこいし。やめろ、そんな速度で広げたらどっか飛んでくだろ。あ、ほら早速一枚。
「おっと。もう、そそっかしいわね」
しかしそれは無くなる前に、フランドールの手に収まった。ふとその紙を覗き見てみる。
「おい、これ依頼内容じゃねえか。飛ばしてんじゃねえよ」
「え? じゃあこの紙は」
こいしが手に握っているのは、フランドールのものと同じ依頼内容が書かれた用紙。ただし右下に判子がない。これは……
「……依頼人用の控えおいてくなよ……」
どんだけ焦ってんだ、あの|射命丸<<アホ>>は。