第三章 有頂天

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有頂天
彼岸
魔界←
博麗神社
マヨヒガ
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 日傘をさした八雲紫の正面に、黒い魂魄に包まれた少女が対峙している。
 「危険な子」紫が言う。「直接私を探しに来たのは、私が博麗大結界を張った内の一人だと、そう聞いたから。違うかしら?」
 「ああ、噂に違わぬ賢妖怪だなァ。それなら、あんたが辿る命運もわかってるのだろう?」
 「……ふふっ。」紫は僅かに微笑み、「独善的な陰謀家ね。でもあなたも駒の一つに過ぎないわ。あなたに一つ教えましょう、ゲームを遊ぶときは、必ず罠に気をつけなさい。引っ掛かったら、すぐさまひっくり返されるわよ。」
 「ああ、お前は実に素晴らしい奴だよ。尊敬するね、はは、本当に尊敬するよ。それでも、命運の輪は、私が動かさなければならなかったのさァ。」

 パン!!!!!
 霹靂!霹靂の音で、私は再び耳を鳴らす。目の前がまた紫色の強い光に覆われ、まるで震えているような感覚。
 何っ!?今度は何が起きたの!?

 眼前には映像があった。けれど揺れている、あたかも地震のような映像。いや、違う、この感じは地震ではない。まるで……壊れたテレビのように、映像は何度も閃き、とても不安定だ。

 明滅。
 神社の中の巫女が、湯のみを落とす。
 「……なんの冗談の始まりよ……」
 明滅。
 魔法の森で、魔理沙が驚く。
 「おわっ!なんつー強さの雷だ!ん……何だ、このすごい嫌な予感は……」
 明滅。
 三途の川。
 「わっ!なんてこった、あの辺にあんなでかい雷落ちたら、誰か打たれたんじゃないか?」

 映像の揺れは段々とひどくなっていく。空間は変わり止まず、どうやら時間も変わっているような。
 明滅。
 神社内。魔理沙が肩で息をしている。「おい!霊夢、全部は無茶だぞ……!」
 「結界は弱まりだしている。紫は、具合が悪くなる一方で……」
 「えっ? !!!」
 明滅。
 小町の乗せた客がため息をつく。「……ゲームは始まった。希望は私の賭けがうまく行くことだ。一つ、また一つと悲劇を乗り越え、厄運の歯車を分解すれば、この世界は平和に戻る。ただ、あの歯車を外しさえすれば……」

 映像はさらに乱れる。もはや判別は不可能だ。それぞれの音を聞くことしかできない。

 「そんな!?あんたは!……どうしてあんたが……魅魔!」

 泣き叫ぶ声。「死ぬなよ、お願いだ……死ぬな、頼む、頼むから……」

 ああ!頭が割れそうに痛い、心がグルグルとかき乱されている。うあ、あ……もう、耐えられない……悪夢、これは悪夢か!?クソが!あぁ!
 鮮血。凶暴な黒の魂魄。氷と炎。白い羽根、紫の雷。
 映像はとてつもない速さで切り替わり続ける。それに付随する叫喚、怒号、笑声、咆哮。
 そのすべてが渦となって私を取り囲む。痛い、苦しい、ああ!!!!
 私は泣き叫びたくなった。けれど、声が出ない。あるいは、自分の声が聞こえないのか。
 くそっ!早く止まれ!もうたくさんだ!う、ぁあ――――――

 『外せ、厄運の歯車を。』

 渦の速度はついに極限に達し、眼前には、もはやもう何も見えない。
 静かだ。ああ、丁度いい、私はため息をついた。いや、ため息?
 瞼の力を抜く。いや、瞼?

 そして、私はその目を開いた。
 私は知る由もない。目を開いたその瞬間が、この話の本当の始まりであることを。

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