空を飛ぶということは、空を飛ぶということです
発言者を除くならば、やるべきことはやらないと終わらない事を示してくれる名言だと思います。
この小説、そういうRTAを見る人向けにそもそも作ってない気がしてきました。
じゃあ誰向けなんだ?
「まずは軽く。見定めるぞ、貴様の強さ」
というわけで、イベント戦闘。VS. 椛(無手)です。
美鈴さんに勝るとも劣らない気力スキル、種族由来の爪と牙、補助とはいえ侮れない火力の妖力スキルでガンガン攻めてくる強キャラです。お前のような下っ端がいるか。
なお一番強いのは身の丈に合った刀を持ったときだったりします。
原作からは想像もつかない強化っぷりですが、これには訳があります。
このゲーム、条件を満たすと原作でいう弱キャラもやたらと強くなるシステムがあるのです。有名どころでは札を外したルーミア、記憶を完全にしたエタニティラルバですね。マイナーどころでは力の使い方を知った清蘭、心を蝕む毒メディスン。
っとと、あっぶね。攻撃の合間を見て、竹水筒を杖代わりに水魔法で牽制しておきます。忘れるとこだった。
椛さんの条件は見ての通り『威嚇を止める』です。誰だってそうでは?
さしものZootheraもその通りだと思ったのか、アップデートで『部下が傷つけられる』『射命丸に使われる』『暇である』などの条件が追加されました。これら条件を満たせば満たすほど、強化の入る確率が上がっていきます。
ちなみに、いくつかは満たしても確率が上がらない条件になる可能性を持ちます。性格が悪い。
今回は大半の条件を踏み抜いているので、《u》予定通り《/u》性格関係無しに強くなります。フラグスタンド絨毯爆撃。
もちろん、強キャラが条件を満たすともっと強くなります。やったな、平等だぞ。
「どうした! 動きが鈍い! 貴様というものはこの程度か!?」
ところで、そろそろ良くない点を見せておかねばなりません。
山岳と戦闘は後でたくさん入れてもらうためにちょっと失敗するというのは前に言いました。
現在、個人技である山登りではかなりいい成績を収めてしまっています。いい成績を狙わないと全員手を抜いて遅くなるのでこれは想定内。ぶっ倒れるまで走ったのは想定外。
これをカバーするため、団体技たる急流下りで失敗していく予定でした。こちらで失敗すれば個人技の成績など軽く吹っ飛ばせます。
「右腕だけでは防戦一方だぞ! 貴様はそれで満足か、侵入者!」
また、そろそろ霊力スキル『空紅』を覚えて空に出る必要もあります。やる事まみれだ。
このタイミングで無理して覚える必要があるのかというと、それがあるんですよ。
今更ですがこのゲーム、空を飛べるのが前提で敵の攻撃が作られています。基本攻撃は弾幕ですからね、そりゃそうよ。今のままでは敵の通常攻撃が不可能弾幕になりかねません。
特に今日の夜は外に出る、というかこのチャートは毎夜敵エンカ地帯を駆け抜けるので、早めに取って鍛えておかないと最悪死亡からのリセットコンボになります。
例え妖精相手でも侮れば死にます。それが幻想郷の掟。というかたまに集団でやってくるのが十割悪い。
ところで、零日目夜でもやったように七里長靴と樹木か壁があれば躱せることは躱せます。これだけ見れば『空紅』は要らないように見えますね。
が、不思議と樹木も壁もない平原でいつか戦う気がするので結局早めに鍛え始めます。それにあった方が躱しやすいですし、移動にだって使えますからね。通常プレイでは飛び立つまでがチュートリアルと言われるだけあります。
「ならば私から本気を出す! はぁっ!」
陰陽玉を手首に当てて逸らします。
分かってれば間に合うので心配なし。
となると、誰もが考える効率アップは失敗しつつ『空紅』を取得することです。言葉にすれば簡単ですがこれが難しい。
なにせ『空紅』にかかっている起点ロックは「上空100m以上で五秒間滞空すること」。
それができないから覚えようとしてんだろ、と言いたくなるスキル堂々一位です。一体どこの天才向けなんだ。
「ち! またこいつか。ならば! 牙符っ!」
牙符『咀嚼玩味』。陰陽玉を噛み砕きに来ました。
博麗の巫女が使う養殖陰陽玉ならともかく、ナチュラルボーン天然陰陽玉は限界を超えると普通に壊れます。あの牙の鋭さで1t2t余裕で出されたら当然が過ぎる。
もちろん破壊は許容できるロスではありません。くいっと。
「なっ! 貴様……糸使いか!?」
普通の操作に加え、陰陽玉に噛ませていた糸を引っ張り、咄嗟に避けさせます。クリーンヒットしなきゃ陰陽玉は生きるので焦らずに。
「せっ! はぁっ! やっ! ふっ、見えてきた……!」
段々と対応されるんですが、それ込みでギリギリを演出しましょう。次の攻撃に向けて油断させていきます。
「――これなら、問題無いだろう。……しっ!」
一瞬のスキを突かれ、陰陽玉が蹴っ飛ばされてしまいました。私の方に向かってきます。
そこで身体強化の強度を活かし、下から掬い上げて上に反らします。そこから糸を掴み、更にピンと張った糸に竹水筒を押し当てます。
こうすることで、竹水筒を支点にして陰陽玉を回転させられます。利点は手を怪我させず、かつ勢いを活かしたままに、突進してきた椛さんに陰陽玉を叩きつけられること。加えて竹水筒から水魔法を撃っていたので、この使い方は予想されにくいはずです。よし。
「……!」
お手本のようなカウンターヒッ……あれ? 何で躱されてるんですか?
あの、甲板に思っきし陰陽玉叩きつけちゃったんですけど。卵の殻を割るような音声入ったんですけど。言い忘れましたが欠点。狙いを読まれると簡単に躱されます。
あ、これ無理ですね。反応が無い。しばらく動かせません。陰陽玉、脱落となります。
いやでも、狙いは読まれないはずですよね。だって今の完全に死角だったじゃないですか。戦闘中、しかも攻撃で距離を詰めてる最中に上を向く馬鹿が何処にいるんです。実際上なんて向いてなかったのに何で見えて……
「これで、一つか。次!」
右に行く素振りを見せ、ガードしたところをさらに右から回し蹴ることでほぼ背中を打つ技。
気力スキル『転廻駆身』です。まともに食らえば呼吸が乱れ、否応なく動きを鈍らせる確保用スキル。一切左のフェイントを挟まない、頭脳プレイに見せかけた脳筋スキルともいいます。
分かってれば問題なし。タイミングを合わせて伏せ避け、体全体のバネを効かせて軸足を狩りに行きます。
……!?
なっ!? 死角への軌道曲げ……かっ、カウンターに、カウンター!? おまっ、そんなの試走じゃ一回も……っ! 露西亜ガー……
「遅い!」
……くぅ! 右腕まるごと……いいのを貰いました。念の為根性を使わず体力を温存していましたが、その対策が功を奏した形です。いやほんと、こういう事があるからリカバリーって大事ですよねー……。
「……なるほど、読めてきた。貴様……格闘の経験もあるのか。魔法使い、玉使い、糸使い、そして格闘経験。在野で遊ぶには勿体無い」
……何で?
いや、心当たりはあるんですけども。椛さんは『千里先まで見通す程度の能力』者です。いわゆる千里眼ですね。普段は哨戒に使ってるので影が薄いですが、この能力は戦闘で使うと360°死角が無くなる凶悪スキルと化します。
盲点も無ければ、遮蔽物も機能しません。効果範囲内全てに集中して見てるのと同じ画質を提供します。これなら上からも下からも攻め込めないのは説明がつきます。
ただこれ、かなり身体への負荷がかかる行為です。慣れてなければ二分使用でも一日丸々寝込むくらいの負荷です。頭痛吐き気熱目眩、マジで内臓って裏返るんだなって感じの寝込みです。
それをこの序盤で切ってくるとか、どう考えてもただの侵入者への警戒心じゃありません。
加えて私は一般人です。軽く強さを見定められるような一般人ですよ。一体何を恐れるところがあるんですか。山への侵入に天狗への危害程度、普通の魔法使いだってやってますよ。あれは射命丸さんが仕事してるっていうのもありますけれど。
……本当は、何しに来たんですか?
「? 聞いていなかったのか。私の精神を弄んだ貴様を懲らしめるためだ」
誤解を与える表現は……事実だったわ。けどどうも本当のことを言ってないようには見えません。というか椛さん、言いたいことをはっきり伝えるタイプだったはずです。把握してる性格内では。
まさか、まさかですが。ここに来て屑運ですか。
懲らしめるのにも全力をかける獅子精神とか、平然と嘘をつける真面目系クズとか、そんな超レア性格引いてwikiを充実させちゃうあれですか。
いいんですか。そんなことして。泣きますよ。
「新たな神が現れた今……我々は、貴様に負けている場合ではない。あの二人がなぜ負けたかは分かった。次は、私が勝つ番だ」
ん?
今
なんて?
「……新たな神が現れ」
は?
「えっ。何だ。変なことは言って……あぁ。新たな神が戻って来た。再び力を付けて帰ってきた。すまない、配慮が欠け」
名前。
「何?」
そいつ。名前。特徴。
「天弓千亦。虹色の服装に青空の外套、変な立ち姿で、決め台詞は『お前の命を|無《かみ》に返そう』。やはり、知り合いか」
……いいえ。
《《知りません》》。
「……嘘だろう。顔が真っ青だぞ。おい、大丈夫か。船医に見せたほうが――」
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・
豊夏と椛の織りなす、激しい近接戦。
「……」
「……大丈夫よ、雲山。だいぶ回復したわ。見届ける分には、差し支えない」
雲居一輪、そして雲山だ。極度の疲労により休息を取っていた二人は、結構暇だった。
なにせ川下りだ。体を動かせないなら、何もできない。一応呼吸を整えて回復を促進してはいたが、それももう無意識にできる。唯一の話し相手だった修理人も、厄神が乗ったことで修理に本腰を入れるようになり、いよいよ危険の予測しかすることが無くなったのである。
そこで、船尾に二人が投げ込まれた。
つまり船の制御組と、戦闘組に船が分断されたのだ。
暇を持て余した二人は、自然とその間の通信役を担おうと――マストへ向かっていた。
「おう? よう、一輪。もう大丈夫なのか」
身体をよろめかせながら、船室の船尾側の壁へ向かう。
その言葉の終わりを待たない。
すかさず豊夏が、椛に竹水筒を突きつける。
ついさっきまで牽制に使っていた水筒だ。椛は、警戒せざるを得なかった。
今までの水流から計算し、最小限の動きで避けられるよう、瞬時に身体をよじる。
「!」
だが躱す瞬間、彼女はふと小さな違和感を抱いた。
彼女の目に映るのは、竹水筒の先に開いた黒い穴。
牽制していたときまではあったはずの水筒の蓋は、そこに無かった。
開かれた竹水筒からは、当然、たぱたぱと水が零れる。汲んだばかりの新鮮な水が、惜しげもなく甲板に打ち付けられ、夏の大気へ溶けていく。何も知らなければ、それは単なる不法投棄だった。
けれど、違和感の正体は《《そのどれでもない》》。
開く竹。漏れ出る水。転がる蓋。加えて見えた、『それ』。
記憶が過る。魔法使いを相手にした時、何度も受けた感覚。
それら全てのどの過去よりも、遥かに濃く粘ついた気配。
瞬時に判断する。
何が起きるのか。
何をするべきか。
緊張が肌を灼く。
そして理解する。
――遅い。
発動したまま、ずっと警戒していた千里眼。
そこに豊夏の小さく呟く姿が映る。
ぜ、ん、しょ、う。
その言葉の意味を考えたと同時。
椛の視界は、青に染まった。
・
・
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「はぁ……はぁ……」
「よし! もう少しよ!」
そう言いながら、船が動かないように舵を支える船長。
その後ろでは、十字架に磔にされた雛が息を切らせている。
「やるな。見直したぞ、厄神」
「……そうね……私の力は、厄の力だし。これくらいは、できるのね……」
霊力で形作られた薙刀を支えに、悠然と立つこころ。
その目の前では、水木群生地の出口が朝日を反射し、燦然と輝いていた。
「すごい……! 外への道が、一瞬で! あのっ! 先輩って、呼んでもいいですか!」
「やめて。たぶんこれ、今日一日だけだから。昨日、やたらと濃い厄を回収したのよ。きっとそのせいだから」
そこに僅かに残った枝が自重に耐えかね、
「濃い厄? 無縁塚にでも寄ったのか」
その身を空へと投げ出して、
「それが違うのよ。私が行ったのは……って、その前に下ろ」
水面を叩くより――
「!! 伏せて!」
ナナメ「しっ」
――早く。
船が、枝を轢く。
・
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・
何故失敗する必要があったのでしょうか?
山岳をたくさん入れてもらうためです。
山岳を入れてもらうと何がいいのでしょうか?
色んなスキルを身に着け、タイムを安定させられるからです。
その安定と、この天弓千亦という、『得体の知れない神』が居る山とこの先も関わり続ける不安定。どちらが上でしょうか?
「――がぼっ!!?」
前言撤回。
山岳、完全クリアします。
「にっ……二度目はな、あ。あーーー!!」
「しまった! 響子!」
というわけで撃ちました、《u》水魔法《/u》。魔力を水に変え、流れを与えて撃ち出す基本的な魔法です。単純ですが、それに「竹水筒内に溜まった大量の魔力」を足すと、このように《《船の加速》》と相手の押し流しが両立できる強スキルと化します。使い終わったらちゃんと止めましょう。
いつ水筒に魔力なんて溜めた? となりますが、これは水魔法の練習と一緒に溜めていました。
本来、魔力を溜めることは簡単じゃありません。魔理沙さんリスペクトの廃棄物法は対策が無いと猛毒、魔力だけを撃つスキルはレア上級スキル。
そもそも、魔力はより薄い魔力に希釈される性質があるので、魔界以外の空気中に置くとコンマ秒単位で蒸発します。なので何らかの方法で密閉容器を用意する必要もありますが、RTAにそんな時間はありません。
この詰み状態を解決したのが最近実用化された技。
『Collect ZIMP』です。
「あーー……あれ? 止まって……っ! 豊夏!」
タイミング合わせて跳べば、響子先輩はキャッチ可能です。焦らずに。
特定フレームで魔法をキャンセルすると、魔法に使うはずだった魔力の一部がその場に残ります。非公式名称は『Zero Index Magic Power』。性質として、少ない魔力でも魔法を撃てる、空気に触れてもある程度蒸発まで猶予がある、といったものがあります。
つまりは、反応させやすく自然に消えにくい魔力。それが通称ZIMPです。
というわけで、これを集める魔法キャンセルが『Collect ZIMP』です。消えにくいので適当な容器でも問題ありません。簡単に集めて好きな時に使えます。かなり革命。
ただし、この技自体は意外にも難しめです。元々これRTAで使えるんじゃね、という話はありました。
しかし反応のさせやすさ故にこっちを消費してしまい一向に集められなかったり、自然に消えにくいが故に漏れに気づかず環境を汚染したり、《color:red》もう一つの性質《/color》により激しく練習が面倒臭かったりで実用化までは時間がかかりました。
それでも練習すれば出来たので、これから走る皆さんも出来ると思います。私もやったんだからさ。最後の性質については影響を受け始めたときに解説します。
ちなみに、熟練度が貯まる魔法キャンセルの猶予フレームとは3fほど被っています。何だ余裕だな。
「何だ、今の急加速は! おい、船長! 何した!」
「ごめん……修理人! 私じゃ、ない!
「……」
「分かってるわ、雲山。……豊夏! 聞こえる!?」
さて、撃ちっぱだと体に悪いし、暴走を疑われるので止めて。
「自分の力に負けないで! とにかく落ち着き……凄く落ち着いてる!」
「やばい! 来た! 第三危険地帯! 河床浅帯!」
やってまいりました、第三地帯。河床浅帯は川底が浅く、それゆえ水の勢いは強く、正解ルートを瞬時に見抜かないと容易に座礁、転覆する場所です。どうしたもんでしょうか。
「えちょっ、今!? えっと、豊夏! 問題無いのね!?」
当たり前ですとも、と返して余った魔力を身体強化に全注入。前方斜め上にジャンプします。
うーん、いい眺めですね。ここから水の流れより水深を見抜き、通常弾幕で正解ルートをマーキングします。水蜜さん、ここ通ってください。
「分かった!」
「すっごい元気……だけど! 雲山! 86!」
落ちるギリギリまでマーキングに勤しみ、点を稼ぎます。
最後は
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幻想郷をゲーム化するにあたってのオリ設定が多すぎて、稀に「あれ? この設定は原作にもあったよね?」となります。
失礼なのでやめようね。
なんでコイツラこんなに余裕なんだと思ったら、そういや飛べるんだ。
空気中でも機能するライフジャケットを常時付けてるようなもんだからだ。
余裕だな(60fpsとは言っていない)