死にたいと思ったので、詳細に遺書を書く

 死にたい。

 それは人々の根源的欲求の一つである。

 いかなる記者クラブだろうと、その欲求が『生きたい』という欲求の裏をめくり、バックスタブを決め込んでいる事に議論の余地はない。かく言う僕もその一人であり、昨日の夜唐突にふと頭に浮かんだ一条の流星の如き思考であった。

「死にたい」

 東向きの寝室で、横顔を埋め尽くす朝日にひとりごちる。

 だが言うは易く、行うは難く、生きることは常にその中道を流れている。その水を嘘で包み固めれば人生一つが出来上がるほどに。洗面台に役目を終えたフッ化ナトリウムを流す。
 それでも、易いままではいられない。言うは真実だが、行うは事実であり、それは何物にも代えがたく心を揺さぶる出来事となる。それが一番始めに伝播するのは、他でもない僕だ。答えを導いた1200gを、僕は腰から大きく振り回した。
 死出の旅の土産話としてはありふれている。地の底にせよ雲の裏にせよ、完全な無にせよ次の生にせよ。死ぬに至る経緯など、僕が向かう場所では聞き飽きるほどに聞ける話だろう。フライパンが、じゅう、と音を鳴らす。
 それでも僕は、信仰した。これからの歴史は、これまでの人生の一分一秒一須臾を足し合わせたとして到底届きはしない輝きを、価値を付した体験になるのだ。そうするのだ、と。キッチンの窓から覗く、燃え上がるような空に掛けた期待は、そんなところだった。

「どうしようか」

 フレンチトーストを焼き上げ、シナモンをかけてかぶりついた頃。そんな言葉が口から溢れる。期待はそれほどまでに大きく膨らんでいたらしい。いくつもの着想が浮かんでは、そのどれもが墜落していく。それを繰り返すうち、心は期待の残骸に満ち溢れ、もはやその悩みは行き場を失っていた。外に捨てるより、他になかった。

 銃殺。絞殺。斬殺。轢殺。圧殺。

 どれも《《現実的でない》》。ただの一つでさえ、その先に死はない。つまりそれは、不可能なのである。
 想像できないことは、出来ない事だ。短い人生、否、『これ』に気づいてからの時間で理解できた数少ない事実である。それは幾多の行動から導いた正解であり、さらには『これ』も首肯したという墨に塗れた称号までが付いている。

 餓死。焼死。水死。失血死。

 コーヒーを一気に呷ると、その成分は僕の心臓を突き動かした。皿を洗い、一片の曇りもなく磨き上げ、指紋を付けて戸棚に戻す。僕が何をしようとしているか、そうすれば何が起きるのか。ふやけ溶かされ、脆く罅割れた心は、今日も『これ』を頼っている。

 薬物。感染症。多臓器不全。悪性新生物。

 今日の服を選び、パジャマから着替え、カバンを手に取り、トレンチコートに袖を通し、ドアを蹴破り、閉じ直して鍵を締め、11階と外を区切る鉄の塊に足をかけ、一息で、

 体を、

 押し上げ、

 僕は、

 私の友人は、自殺志願者だったらしい。

「おは……酷い顔してるわね」
「その言葉ほどじゃないって、願ってる」

 それはひとまず、私だけが知っている真実になった。

「風邪でも引いてた? 肌がカサカサよ」

 通学路で会った友人は、その細胞一片に至るまで、何故だか知らない他人のように思えた。

「ちょっと血を流した。それかも」
「それかも、って。どこを怪我したのよ」
「ここ」

 指差した場所は額の横端。髪の生え際で隠れるように、そこには大きな瘡蓋があった。

「うわあ。良く生きてたわね」
「うん。不思議だった、生きてるとは思わなかった」
「他人事な」
「他人事だよ」

 

主人公
 頭の中に『現実世界』のコピーを持つ。
 ここで好きなだけ実験できるため、実質死に戻り主人公。鮮明な想像を書き出す。
 やりすぎると現実がどれかわからなくなる。鮮明な想像にはあらゆる感覚が混じってるので。もちろん死ぬ事も織り込み済みのはずなのだが、それだけは想像できない。そして現実でも達成できない。
 時間変化にもバッチリ対応しているので、もしも解剖したらヨタバイトでも足りない。
 
ヒロイン
 心が読めちゃう系。
 ほぼ唯一、主人公に対してこいつやべえと認識している。

世界観
 生きたいといったら生きる手助けを、
 死にたいといったら死ぬ手助けをしてくれる程度の世界。
 個々の人間なんかより、人間の価値観が一番狂ってる。