「ああ……!この香りの強さがたまらない!さすがは紅魔館の紅茶!飲み飽きないわ!」
「うるさいな、静かに飲めないのか」
「でもいつもより苦いわね。隠し味?」
「あら、鋭いわね、ぬえ。ちょっと加熱しすぎたの」
「素直に失敗したって言えよ、そこは」
まったく、こいつらといたら私はツッコミどおしだ。
現在地、紅魔館屋上。私、鬼人正邪は今日は紅魔館の屋上でいつものメンバーと共に紅茶を飲んでいる。
本来なら今日も元気に反逆活動に励むはずだったのだが、「偶然」封獣に見つかり殺し合いが始まり、「偶然」通りがかった古明地に諌められ、どこからともなくみとりが「偶然」やって来るという三連コンボを食らい今に至る。運命を操る神がいるなら滅べばいいと思ったのはこれで何百回目だろうか。
ともかく、遭遇したからには逃げられないので素直にここまで来た次第である。今日も春風が優しかったが私の周りは厳しかった。紅茶が何故かしょっぱく感じたなんてそんなことはありえない。私は天邪鬼だからな。
「でも、この苦さが軽食と相まっていい感じですよ。特にこのキュウリサンドイッチ」
後ろで機械をいじくりながらみとりが言う。なんでも、自動で掃除をしてくれる機械らしい。準備良すぎないか。散らかすつもりで来ただろお前。
「それは分からんでもない……ってテメェ!それ私のサンドイッチだろ!」
みとりに飛びかかりながら言う。私の皿の上にあったはずのサンドイッチは、いつの間にか奴の手のひらの上にあった。容赦なく口に吸い込まれていくサンドイッチ。
「口の中に入ったからには私のものなのです。」
「論理的に正しくても倫理的にダメなんだよ!返せ!」
二つ目のサンドイッチを運ぼうとする腕を必死で止める。私は地獄のようなあの十日間で理解したことがたった一つだけある。私にとって食料とは限りなく貴重な物なのだ。だからここで譲るわけにはいかない。
「はいはい、分かりましたよ。返しますって、ほら」
「キュウリだけ抜けてるんだけど!」
「本能には勝てませんでしたよ……」
「もー、そんな怒らないの。ほら、二人とも。私のスコーンあげるから。」
こいしがそう言って、束ねたサードアイのコードの上に自分の皿を乗せて差し出した。おおよそスコーンとは呼べない、何かが乗った皿を。
「「……結構です」」
一気に食欲が減った。私の食欲が数値化されているならおそらくマイナス値だろう。今なら逆に食べ物が生み出せそうな気がした。これが本で読んだ、外の世界で横行している飯テロというやつなのか。恐ろしい世界だ。
「ぬえ、紅魔のスコーンに種はつけないでもらえないかしら」
フランドールが怒り気味に言う。お嬢様ゆえ、やはり食べ物には厳しい。だが、主犯は悪びれずに言った。
「くくっ。分かっているよ。皿に付けただけだ。」
こういう時に建物の屋上は不便だ。怒りを地面に叩きつけると抜ける可能性がある。それはそうと後ではっ倒そう。
テーブルにもう一度つく気になれなかったので、私は不機嫌がちに仕方なく動き始めた掃除機械を眺めた。機械と言っても、こうして見るとただの緑髪のメイドにしか見えない。背中のマークでようやく機械だとわかる。
「マスター、ご指示を」
「喋った!?」
「そりゃ喋りますよ、人型ですし。」
平坦な声が掃除機械から流れ出す。ここは幻想郷であり、何が起きてもおかしくない。分かっていたはずなのだが、それでも金属の塊が話し始めれば誰だって面食らうだろう。
「へえ、すごーい!こんなのまで作れるんだ!」
「ふっふっふ、すごいでしょう。まあこれは私の作品ではありませんが。」
みとりが胸を張っていう。私たちがそうやる
「あら、違うのね。じゃあ誰のなの?」
私はまじまじと機械を見つめた。
「やめてください、掃除したくなります」
「おい、日常セリフが組み合わせで恐ろしいことになってんぞ」
「そういやこのマーク、地霊殿でも見たな。お前のとこの印なのか?」
「え、あーそうですね。地霊殿ブランドなんですよ。」
「つまりお空は吸血鬼だったのね!」
なんか食い違っている気がする。
「このマークはハザードシンボルの一つ、放射能のサイ」
「おっと手が滑って機械の言語機能を司る部分を麻痺させてしまったあ!」
「むー。美味しいのに。ここで食べるのが尚更美味しいのに。のに!」
「あー、うるさい。」
私はため息をついた。
全部、大っ嫌いだ。
そんなことを考えていなければ、もしかしたら気づけたかもしれない。
遠くから私たちを監視する影に。
「…………なんという事なの。まだあれだけの戦力が…………」
「……とにかく、対策を練らなければ。私の研究が役立つ時が……」
「……フランドール・スカーレット。貴様を今度こそ……」
「今度こそ、殺す」
そして、影は消えた。