僕に乗ってください。
えっ。……
……どうしたんですか?
あ、大丈夫ですよ。僕、女ですから
いや、それは骨格で分かってたけど。
肩車でお願いします。
背負うとブースターに引っかかるし、持つと武装に引っかかるので。
私は志鳥。新米の分隊長だ。
前の紛争から命辛々帰還したら昇進していた、ほんの少し前まで新兵だったウイングダイバーである。
正直、覚えがない。死にたくなかったので、殺される前に壊すしかないと判断したところまでは覚えている。あとは戦場の熱に浮かされたようなもので、次に同じ事ができる気がしない。
なのに私の戦いを見たスカウトからの押しが激しかったらしく、あっという間に分隊長になり、あれよあれよという間にまた紛争が始まろうとしているらしい。
正直、不安でしかない。覚えがないということは、戦場でどんな判断を下すのか私にもわからないということである。隊長につけるには不安のある人材だと、自分でも思う。
加えて今回は謎の怪物が相手だ。どう戦えばいいかは誰にも分からない。皆が同じような不安を抱える今、必要なのは明確な指示と的確な判断で兵士に安心を与える上官だ。私には務まらない。
このまま戦場に出ていいのか?
分隊長のミスは、兵士の死に繋がる。
その上今日は街での戦闘。私のミスは、民間人の命にすら関わる。
私はそれを防げるのか。
あの時のように、私一人が生き残るのではないか。
私は――――
「あのー、すみません。ウイングダイバーの兵器ラックって、ここですよね」
その声ではっと現実に戻る。そうだ、迷っている暇はない。軍曹から話を聞いた。民間人の武器の変更に付き合ってくれと。何を言っているんだと思ったが、あまりに真剣な声で言うので了解するしかなかった。ラックの場所を知らない辺り、きっと声を掛けてきたのはその民間人だ。失敗した、さっさとパワーランスを選んで応対しにいくつもりだったのに。
「ええ、そうです」
向き直った先には、ピンク色の衣装に身を包んだ飛行ダンサーが居た。その手に持っている兵器は見慣れないもので……えっ。
「何か御用で…………!?!?」
待って。何でこれがここに? どうして民間人が持っているんだ? 命懸けでベース228から脱出した軍曹に、力を貸した民間人が、これを持っている。おかしい。道理が合わない。これは民間人どころか、ベテランのダイバーでさえ敬遠する実験武器。
「この兵器の置き場所を探しているんですが、見つからないんです。ご存じありませんか」
「はっ! これは特別な兵器なので、こちらに置き場所はございません。情報部より先進技術研究部宛で送り戻すのが良いかと思われます!」
「え、は、はい。……すみません、情報部って……」
「西階段より3Fに登り、右手突き当たりに窓口がございます! 良ければ私めがお運びいたしますが!」
「
入隊したのでフェンリルの話を聞かないわけがない
巨船破壊作戦までのミッションといえば駆除
ここにはマグブラダイバー隊がいるのでうってつけのはず
でも何でもないミッションだから、やりたくない
かといって夜間奇襲までフェンリルそのままはなんかモヤる。
アサルトライフルとして
300m先まで秒間13発強無減衰で叩き込めると考えたら、まあ
V3ラッシュコアだと秒間20発弱になる
勘違いするほど誘導を使わなかったという事は、三次元空間で一番近い相手を見つけるレーダー認識力と近距離エイムが化物
それってパワーランス適正では?
人が死んだ。
「そう緊張しなくていいよ。この扉の奥が……え?」
世界最高峰の軍事組織、EDFの基地内で。
「うわあああぁぁああ!! たっ、助けっ……か゜ぼっ」
一つの命が、呆気なく潰えた。
街から山を挟み、谷を超えて十五分。トンネル無し。
世界有数の軍事組織、EDFの基地のうちの一つ――ベース228は、そのアクセス性を除けば、最高峰の軍事力を誇っていた。
ウイングダイバーは背負ったフライトユニットを自在に扱い、空を駆けながら戦う兵科だ。求められる技術故その数は少なく、また重いアーマーを着られないため死亡率も高い。この片田舎の基地で、また演習場からも遠い倉庫に、武器があっただけマシなほどであった。それでも素人にそれを持たせる理由にはならないが、今は緊急事態だ。贅沢は言えなかった。
ここの倉庫に目当ての武器は無いみたいだ」
「何だと? くそっ、無駄骨かよ」
「けど、今から他の武器庫に向かう時間はない。残ってる武器で何とかしてもらうしかないな」
「俺たちゃダイバー隊じゃねえんだぞ。ロクに教えられない武器持たせて、生き残れって指示を出すのか。正気じゃねえ」
「軍曹か、あいつがこの武器について知ってるのを願うばかりだ」
私の前で死にそうな誰かを、生かすことができると確信できる。
それは重苦しい決意というより、天気の良い草原で寝転がるような、そんな静かで晴れやかな気分だった。
M4レイピアという刃を発射する武器と、アサルトライフルのような武器。
軍曹は強い人だ。目の前で人が死んで、呆然としていた私に武器を渡してくれた。
訓練を受けていない民間人だ、ヤケになってそれで兵士を撃ち始めてもおかしくない。
それでも軍曹は私を信じて武器を渡したのだ。それが嬉しかったのと、少しばかり気恥ずかしかった。ついつっけんどんになってしまい、軽い自己嫌悪に陥る。地上に帰ったら謝ろう。そして感謝しよう、二度と会えなくなっても、後悔しないように。
「足音だ……いるぞ!」
「撃て! 撃てーっ!」
「くたばりやがれ!」
そこは夥しい数の怪物で埋め尽くされていた。三つに分かれた黒い体、真ん中から生えた細い六本の足。怪物と呼ぶに相応しいそいつらが、通路をくまなく黒い海へと変えていた。隔壁が開ききる。鈍い音が鳴り響く。海がうねる。
「な……何だ、こいつら! 一体何匹いやがるんだ!?」
驚く隊員を横に、私は引き金を引いた。銃口から飛ぶ弾が、
「こんなのキリがないぞ!」
「訓練を思い出せ! 一匹ずつ、攻撃を集中させて仕留めろ!」
敵の攻撃を全て最小限の動きで避けながら、隊長が指示を飛ばす。隊員たちはそれに従い、隊長が撃った敵に的確にとどめを刺す。あまりにも早いその反応には、民間人の私はついていけない。
それなら、他にできることをやればいい。引き金を引く。
「ちっ、上まで面倒見きれないぞ!」
「民間人!
背中に武器をしまう。M4レイピアという名前らしいこの銃は、弾の代わりに刃を大量に放出する。リロードできない状況でも撃てる優秀な武器だが、何分射程が短い。もう一つの武器を構える。守られる立場の私には、隊から一歩引いても相手を撃てる方がいい。
Earth Defence Force。地球を守護する超国家軍事組織、通称『EDF』が結成されてから15年。いわゆる「構造的問題」が露見し始め、同時にEDF主催のイベントが増え始めたころ。私はイベントに出演するダンサーとして、EDFの所有する基地の一つ、ベース228で先輩の指示を聞いていた。
――新人てのは君か――さあ、始めよう――
私の細かな操作を褒めたり、危機感というものを全然抱かなかったり、見ていて不安になるけれど、でも不快じゃなかった。良い先輩だった。
――そう心配しなくてもいいよ――この扉の奥が……
『軍曹』と呼ばれている彼は、私の恩人だ。先輩ともども殺されそうなところを助けてもらった上、民間人の私に武器を渡してくれた。彼の前で無様は晒せない、そう考えると
三人は前に出て火力を担当。一人は遊撃兼私の護衛として後ろに回る。民間人の私はもちろん後方だ。誰に言われるでもなく、彼らは自然と私の護衛と攻撃を両立していた。
何言ってんだ軍曹! 車で飛ばして引き離せねぇ相手だぞ、降りてどうなる! やられるだけだ!
この車は持たん!
砲台横のカメラで確認した。
奴らが飛ばしているのはただの糸じゃない。
分かってる。こんなことをしても先輩が帰ってくるわけじゃない。
先輩は私を庇って死んだ、それが事実だ。
あの時も武器を持っていれば、助けられたかもしれない。ほんの僅かでも足止めできれば、彼らの隊が間に合ったかもしれない。怪物の死体を見ると後悔ばかりが浮かぶ。それでも少しだけ、そんな物思いと引き換えに気が休まった。
敵が噴き出す。
三つに分かれた体。胸から生える六本の足。神話生物のような体躯を持つそれは、
空は空軍のもの。
けれど、宇宙は私の物なのよッ!
マザーシップにマザーシップぶつけて回転させる