「おはようございまーす!457862番です!試験を受けにきましたー!」
ドアを開けてまず一声!本当ならノックして呼ばれてから入るべきだけど、この広い館ではノックしても誰にも聞こえないだろう。だからあえて突撃!状況に合わせていけるところも見せていかないと!
「おはようございまーす!……まーす、まーす……」
おおっと、これは予想外だった。見せる人どころか妖精一匹いない。うーん、どうしよう?聞く人がいないんじゃ迷ってもどうにもできないや。
いや、もしかして館が広すぎてこっちに来ていないのかな?なら少し待とうっと。幸い館の中はとっても綺麗で、見ているだけでも飽きが来ない。エントランスを見回すだけでも退屈しなさそう!
「うわー……!この花瓶とか、作るの何日かかるのかなあ……」
僕はとりあえずエントランスを飛びまわってみた。
まずは目の前にあった階段周り。その次に入り口の左右、二階とつながる通路、窓の近く、正面の壁の上にある通路、壁にかかる大きな絵の裏側、……ああ!どこも面白くて見切れない!
目に飛び込むもの全部にぐるぐるやかくかくした飾り?模様?のようなものがついている。でもよく見てみると、その模様の中にまた模様があったりして、いくらでも眺めていられる!
「すごいすごい!……あれ?」
そんな像や柱の中に、不思議なものが一つ。
普通の時計だ。このいろんなふうに飾り付けられている館の中で、唯一何もついてない、月白色のただの柱時計。それが階段の近く、目立たないところに置いてある。なんだろう、これは?
「うーん?……」
いつもの僕だったら、気になって触ろうとするんだけれど。なぜだかその時計の近くには、近づいてはいけない気がした。なのに目は離せない。寒気がするような白だけど、不思議となんだか懐かしいような……
「気に入ってくれて何よりだよ、457862」
「うひゃあ!?」
夢中でぼうっとその時計を見ていると、急に後ろから話しかけられた。驚いて後ろを振り向く。
そこにいたのは……女の子?青い髪の小さい女の子が、ひらひらのたくさんついた服を着て立っている。身長は僕と同じくらいだ。羽はないけれど、……もしかして?
「くく。驚くのも無理はない。そう、私こそがレ」
「もしかして、一緒の試験受けに来た人!?」
「……え?」
「そうよねそうだよね!良かった、誰もいなくて困ってたの!もし良かったら、試験会場を教えてくれない?」
「いや、私はこの館の……というか、会場ならここじゃないわよ。庭が騒がしかったでしょう?外でやるのよ」
「ああ!なるほど、そういうことだったのか!」
僕がぽんと手を打つと、女の子は頭を抱えた。具合でも悪いのかな?
「どうしたの?大丈夫?」
「……問題ないさ。ところで、その時計をどう思った?」
「え?うーん、近寄りがたい感じ?」
「そうか。」
女の子はそれだけ言って、黙ってしまった。もしかして本当は、あんまり喋らない子なのかな?それとも、試験に向けて緊張してるとか?
それなら、僕が言う言葉は一つだ。ずっと昔に言われたのと同じ言葉。
「……なあ、もし試験に受かったら」
「ねえ、僕と一緒に行こう!」
「少しぐらい私の意見も聞いてくれない?」
「もー、つべこべ言わずにさ!ほら!」
僕は女の子の腕をつかんで、ぐっと引いた。女の子は少しつっかかりながらも、一緒に歩き始める。
「きゃっ!とっ、と、おい待て、まだ話は終わっていない!」
「歩きながら話そう!そのほうが気分も晴れるし、一緒にいれば緊張もほぐれるよ!」
「私は晴れたら死ぬんだよ!」
「またまたー、そんな言い訳しちゃって。肩の力を入れたままじゃ、うまく行くものも行かなくなっちゃうよ?」
「それはそうだが……ああ!もういい!457862!試験に受かったらもう一度ここに来い!いいわね!」
「もちろん!一緒に頑張ろうね!」
「なんか違う受け取り方されてる気がする!」
僕達二人はそんなふうに話しながら、館をあとにした。