人は良く知る誰かが活躍しているのを見ると嬉しくなります。
そう考えると、オリ主という題材は難しいのだなと思いました。
誰も彼女を知らないのです。

筆が止まるときは、いつだって複雑か、冗長か、つまらないとき。

 拳がぶつかり、轟音が響く。
 その音を聞きつけた者がいた。

「……豊夏っ!」

 紫幹翠葉はですね、実在する四字熟語でして。山の木々がみずみずしく青々としていて美しい様子を指します。「紫幹」は暗褐色の幹、「翠葉」は緑色の木の葉のこと。「紫翠」と略すこともありますね。出典、四字熟語オンライン。
 翻って、このゲームにおける紫幹翠葉。それを元にした気力スキルの大技となっております。まず吹っ飛ばした相手の軌跡を幹に見立て、次に追撃の緑弾幕と枝状のレーザーでフィニッシュします。傍から見るならとても綺麗。

 では問題、どうやって吹っ飛ばすでしょうか?
 

「……まだ……」

 答えは単純、右ストレートです。

「……まだ、抗う力があるのか……!? 信じられない……!」

 さてこの技、弱点がございまして。吹っ飛ばして挟むという流れ上、吹っ飛ばないように右ストレートを受け止めると追撃が来ず、絶好のカウンターチャンスになります。だから受け止める必要があったんですね。予防の大切さを教えるゲームの鑑。

 え? 躱せばいい?
 無理です。躱せるタイミングで大技撃つ方、山に居ません。あの慢心の烏天狗ですらそうなんですから、山の戦闘ガチっぷりが覗えます。大技は切り札なのでそもそも撃たないともいいますが。

 普段の椛戦ではこれで奥義を無血突破、余裕の勝利で心を折る。そして次回以降の戦闘を回避、というのがいつものパターンでした。ええ全く、そのとおりなんですけど……

「だが……浅い!」

 悲報。
 身体強化、出力足りません。

「吹き飛べ!」

 椛さん、止まりません。
 
 いやまあ、当たり前なんですよ。何か強そうな感じに出しましたが、これは《《竹水筒の蓋を開けた際に回収》》した水魔法の残骸で発動した『身体強化』です。お見せしたように、竹水筒が開いていたのはほんの一瞬。その程度の量で出せるスキルはこの程度に過ぎません。受け止められる道理など無かったのです。あ、残骸に関しては後で解説しますよ。

 じゃあやる必要も無かったかというと、そうでもない。これにより、『紫幹翠葉』初めの吹っ飛びに四つの調整が加わりました。

 『根性』による方位角。
 ロザリオダメージによる威力。
 『身体強化』によるタイミング。
 小ジャンプによる仰角。

 そう、これはもはやただの吹っ飛びではありません。この完璧な|射出《テイクオフ》なら船の近くに落ちる上、《《滞空時間が五秒以上》》になります。あとは分かるな。

「……私は、お前を殺す立場にいない。天狗としても、妖怪としても……私としても」
 

 ――五秒!
 この挟み込んでくる追撃に五秒耐え、そこから『空紅』でカウンターします! 法壁(小)っ!

「けれどそれは、私が本気を出さない理由にはならない」

 ……!? おっ、オイイイィィィィ!? 何で今の流れから壊れてんのお前ぇぇぇ!? 人間用の護り特化アイテムですよ? 妖怪の攻撃に負けてちゃ駄目なんですよ!? 1/3も進んでないじゃないですかァァァ!!

 ちっきしょう! 法鎧珞! 退治屋の札! ロザリオ! 一か八か法力で攻撃を柔らかく包み、札を貼ったロザリオでぶっ弾いてみる! おっ一つずつならこれで対処できるんですねよぉし! 今更死んでたまるか一列に並んでかかって来いやオラァ!!

 あっやべ、後ろ……ガード!
 おいおま、右下……ガード!
 舐めんな、正面……ガード!

 は? 頭上?

 …………なんてなるかよぉ! 露西亜ガード!

 何度も想定を上回れると思うなよ! 何回試走したと思ってんだバーカバーカ! 基礎はバッチリやってるんですぅ! 特に椛さんは序盤の鬼門なんですからね! ここでリセットがかさむんでそりゃ上手くもなるってんですよ! まあ回数だけで言うなら一番最初の妖精以下ジュなんですけども札が焼き切れちゃうのは流石に初めての経験かなぁって。

「落ちろ」

 これ死

/

「せい!」

 青い光が閃き、枝を切り飛ばす。
 落ちていく枝を蹴り、船へ落ちない軌道に変える。
 そして、こころだけが船に着地した。飛沫が樹冠の葉を濡らす。

「左に曲がるわ! 合わせなよ、皆!」
「応っ!」

 船長の言葉に遅れ、船体が傾く。木の幹をガリガリと削りつつ、かつての獣道を無理矢理に曲がった。やがて見えてくるのは、網のように絡み合った枝。ハンモックの残骸だった。河童の若手衆が仕事の合間、コツコツと作り上げていたものである。崩れ道を塞ぐそれには、もはや誰かが気付けるほどの面影は残っていなかった。
 
 ちら、とこころは後ろを覗き見る。そこには傾きに必死に抗いながらも、真っ直ぐ一つの場所を指さしている、先輩山彦の姿があった。視線を戻し、深く沈み込み、その場所を目掛けて跳ぶ。

「飛ばしきれん……頼んだ!」
「ぜっ……はっ……ぁああっ!」

 再び青が空を薙ぐ。塊が弾け飛び、船を襲う。その一つ一つが弾幕によって焼け、砕け、その勢いを失う。特に、船の中央にそびえる十字架へ向かう枝は、塵も残さず消え失せた。こころが十字架に張り付いた雛に叫ぶ。

「やるな! 見直したぞ!」

「……そうだけど……私も意外だったけど! 納得行かない!」
「……そうね……私の力は、厄の力だし。これくらいは、できるのね……」

 よく茂った枝へ着地し、こころは反動で船へ戻る。顔を上げた先には、ほとんど枝が無くなっていた。若手衆はこの一帯からかなりの量の枝を集めていたらしい。軽く鋭く息を吐き、少しだけ緊張を緩めた。

「意外だと? 元の力じゃないのか」
「そんなわけないでしょ。昨日、人里でやたら濃い厄を回収したのよ。まさか、今日まで残ってるなんて思いもしなかったけど」
「なるほど、頼もしいな。響子、あまりこいつに近よるなよ」
「……どこで聞いたのよ。全部」
「これくらいなら縁起にある。響子も知ってることだ……響子?」

「ああもう! 何でそんなに私の対処知ってるのよ!」
「人里で噂は聞いているからな。……響子?」

「量が増えてきたな……気を引き締め直せ、厄神、響子」

「……っ」
「……響子?」

「ぜっ……はっ……」

「……こころ……さん、私……振り向いても、良いですか」

「さっきから……チリチリ、するんです。……何かが、背中から私を、削っているみたいな……感覚が」
「……」 

「豊夏は……大丈夫、なんですよね……」

 枝を指す指が震える。

こころは答えられない。

「…………らぁっ!」

「厄神!?」

不安になるでしょうが!」

「響子、少し休んでいいぞ……響子?」

「縛った側のくせに……なんて顔、してるのよ!」

「私は今縛られてるの。どうなるかは貴方達次第なの! こんなとこで怖がってんじゃないわよ! 不安になるでしょ!」

 

「……その優しさ、ちょっとでいいから私に分けたり……」

「待て、響子」

「あいつ、まだ――楽しんでる」

 古杣は消えた。
 些細な違和感に、気づけなかったから。
 少しずつ弱る自らを、おかしいと思わなかったから。

 彼女が消えてから、椛は考え続けた。なぜ、消えなければならなかったのか。彼女のやったことが誤っていたから。確かにそうだ、それは彼女自身も認めていた。気づくのが遅かった。例えばまた場所を移し、《《初めからやり直せて》》いたのならば、消えることは無かっただろう。
 
 そうしなかった彼女は、やってきたこと全てが過ちだったのか?

「……ぁぁぁぁぁ」 

 否。椛は、彼女の正しさを知っている。
 共に考え、共に助け合い、共に生きた椛は、古杣が生涯培っていた「音」が、古杣の願いを叶えたことを知っている。
 

 その正しさは、生きている者にしか分からない。
 その正しさは、生きている者だけが証明できる。
 その正しさが、生きている者に主張する。

 ――己が信じる道で、歩みを止めてはならない!

「くたばれ椛ィィィィ!!!」

 

 牙が交差する。その中心から光が閃き、空を切る。
 その最中にあって、彼女には――犬走椛の瞳には。
 
 光の隙間をすり抜け、腕を振りかぶる百瀬豊夏が。
 朝日を反射し、眩く輝くそのブロンドが。

 この世の何よりも、美しく焼き付いていた。



「はぁ……はぁ……」
「よし! もう少しよ!」

 先程まで、けたたましく

 そう言いながら、船が動かないように舵を支える船長。
 その後ろでは、十字架に磔にされた雛が息を切らせている。

「やるな。見直したぞ、厄神」
「……そうね……私の力は、厄の力だし。これくらいは、できるのね……」

 青く輝く薙刀を支えに、悠然と立つこころ。
 その目の前では、水木群生地の出口が朝日を反射し、燦然と輝いていた。
 

「とんでも……ないわね。荒魂信仰が生まれるのも、頷けるわ」

 そこへ一輪と雲山が、十字架が立っている船室に上ってくる。
 雛は必死に左右に首を振っている。

「おおう、一輪? もう平気なのか」
「大体はね。豊夏の方を見て、それから前に出るつもりよ」
「そうか。まあ、こうなればしばらく水蜜の十八番だ。……急がなくていいぞ」
「もちろん」

 

 焦った様子
 髪に反射する光

「すごい……! 外への道が、一瞬で! あのっ! 先輩って、呼んでもいいですか!」
「やめて。たぶんこれ、今日一日だけだから。昨日、やたらと濃い厄を回収したのよ。きっとそのせいだから」

「濃い厄? 無縁塚にでも寄ったのか」
「それが違うのよ。私が行ったのは……って、その前に下ろしてよ」
「今は人手が要る時期だ」
「……何かできるなら、逃げたりしないわよ。頼むわ」



 
 

 決着ゥゥーーーーッッッ!!!

「教えてくれ……私は、いつから負けていた」

 ――私の右腕を打ち抜いた時。
 一度目で『仙充籙』を見抜けなかった時です。
 
 本当は最後まで死ぬと思ってましたが、なるべくそれっぽくして教えます。互角だったと伝えるとイベント『ライバルアライバル』、教えておかないと何かの拍子でイベント『ご教授願う』が発生します。絶対にそれっぽく教えておきましょう。

「……ありが、とう。……やはり……私は、力量が……測れ、ない」

 教えると気絶します。すぐに伝達に行かねばなりませんが、ちょっと一息。こちらもこちらで感想戦ですね。言いたかったことを言います。
 といっても、きっとみんな同じ気持ちですよね。恥ずかしがらず、遠慮せず、さあご唱和ください。

 ……お前のような……下っ端がいるかぁぁぁぁ!

妖怪なんてなりたくないですよ、他人が自分を覚えてくれてるか、ずっとそればっかに怯えて生きてくとか地獄じゃないですか。
そんなことで強くならなくても、ここには人間にも使える豊富なスキルがありますからね。妖怪化のメリットなんて確定的に妖怪に食われなくなるくらいで、わざわざこのルートを選ぶ理由は分かりかねます。

私は私を覚えています。その過去も、選んだ理由も。
それでは十分じゃないですか?

「貴女がどうして居なくなったのか、私は知らない」

「それでも私を含め、幻想郷は貴女を忘れなかった。語り部を受け継いだ人間がいたのです」

「戻りなさい、冴月麟。博麗の巫女が、貴女を呼んでいました」

だ  か  ら ?

「……」

呼ばれたからと、そうあるべきと規定されて。
私がこの歩みを止めることはありません。

寅丸さん。警告は一度です。
消えなさい。