「今朝のあれは、上空の空気が乾燥していたかららしい。天気予報を天気予定に変えようとした邪教信者が人里にいたんだとよ」
 「夢も希望も身も蓋もないわね、天邪鬼」
 容赦もない意見が帰ってくる。でもまあ、いつものような煽りを挟まないだけ少し機嫌はいいらしい。いや、私が慣れたのか。
 「『邪教を支持するわけではないが、これをきっかけに広大な青空に思いを馳せるのも悪くはないだろう。空の変わらなさ、果てしなさは、時として安心に変わるのだ』だとさ。はん、説教臭え記事だな」
 椅子に片膝を立てて座り、紅茶を飲みながら批評家を気取る。ん、茶葉変えたのか。何も入れてないのにすでにちょっと甘いぞ。
 「空に五分も見惚れてた妖怪の言うセリフ?」
 「うっせぇ!お前だって目頭を押さえてただろうが!」
 「私はいいのよ。素直に感動してたから」
 そう言いながらそいつは、私の返しになんて興味ないとばかりに本のページを繰る。
 こいつの名前は封獣ぬえ。何故か私を嫌っている大妖怪だ。私からすれば煽りばっかしてくるわけのわからん奴という認識だが、これでも八雲紫に並べられる程度には力のある妖怪らしい。とてもそうには見えないし、そう見える日が来ても関係性が変わる気は欠片もしないが。
 「……きゅーに素直になりやがるからなあ。本当、気持ち悪い」
 「私に言わせれば、少し煽る程度でころころと態度を変えるあなたのほうが気持ち悪いわ。自分の意見は無いの?」
 「その都度の最適を採ってるだけだ。第一煽らなきゃいいだけの話だろ」
 「無理よ、面と向かって整形しろだなんて言えないもの」
 「顔か!私の顔が悪いのか、あぁ!?」
 「態度も悪いわ。敬意が微塵も感じられない」
 「誰が原因だと思ってんだ!これで敬意を評するのはマゾヒストだけだっつの!このサド妖怪!」
 「……?マミゾウなら寺にいるわよ」
 「『佐渡』じゃねえよ!そこで不思議そうな顔すんじゃねぇ!」
 「よく一瞬で気がつくなあ、って思うよね」
 「ええ、ほんとにね」
 後ろから吹き付ける熱気。振り向けば、そこには頭にタオルを巻いた二人の姿が。ようやく朝風呂から上がってきたのか。
 「やーっぱお二人、できちまってんじゃあねーですかーい?」
 「テメーはホントいい空気吸ってんな」
 重力にしたがって、彼女のコードが床に垂れる。よく見ればただ垂れるのではなく、奇妙なうねりとひねりの付いたシンボルを象って垂れている。見てるだけで気分が悪い。
 そのコードの持ち主が古明地こいし。