誰かの中にいるものしか外には出られない。
 それは私もそうだった。意識的にやらなければならない。
 役に立つものだけを側に。

 ざわ、と木々が鳴る音で、私は白昼夢から覚めた。
 今でも尚、その中に居るような気がする。ここにいてはいけないのだ、私は異物だと、そう見える。気づけば走り出していた。材質と釣り合わない整備が成された石畳。一歩踏むたびに戻る、まるで大理石を触るかのような感覚。凹凸はそこにない。

 やらねばならない。
 その使命が胸を焦がす。

 でも、何の目的で?何を求めて?
 パチュリーは知るため。豊夏は殺すため。カルテットは個人の問題を解決するため。一応、少しは書けた奴らはきちんと最初に目標を提示していた。茶樹はただ流されている。目標がなければ動かない。RTAにはタイムが、強烈な目的があった。書く練習よりも目的。

 形を取らなければならない。
 一体この都市は何なのか。誰もがそれを知ることなく消えた。ここは合法的な処刑場だ。そして僕もそうなる。
 大きな枠組みを作るべきだ。

 ディスクリは……梛のスポンサー。スポンサーとしてはやってることを知るべきだが。じゃあこの話建築の観点で都市を俯瞰する話?

 というかクズがいないから話が進められない。
 クズがいなくても粛々進めることはできるが、それ始まるのやることが決まってる時だけなんだよ。演目見るとか。

 カナリアルはただ中央向かうだけだから。

 情報を、状況を、ちゃんとまとめて処理して返さないと面白くない。

 24°、縦向き、0.6秒。
 放り投げられたペットボトルは、そのスピンの安定感のままに専用ゴミ箱の穴の縁に弾かれる。
 ぽん、ぽぽんと空気を吐くペットボトル。ごっ、ととんと傾いては戻るゴミ箱。一つ飛ばして、頭を抱えて膝をつき、そのまま肘を地面に90°。

「…………不調だ……!」

 とどのつまり四つん這いである。
 世界きっての天才少年たる、このディスクリートがやる事じゃない。

 でも今だけは許す。僕が許す。何せ穴にも引っかからないなどという不調は初めてだ。いつもなら縁にも、内壁にも触れずそのまま中へ入る。悪くてゴミ箱の中で横に倒れるくらいだろう。それだって音でわかる。

 だが現実はコレだ。ボトルはコロコロ箱はガタガタ目はクラクラ。朝の検温はいい数値が出ていたのにこのざまである。もうさっぱり解決法が見当たらない。思い当たるセクションはなく、箸にも棒にもノータッチ。藁をも拝む勢いでこの地域の神社を探す、それが現状の僕だった。生温い風がボトルを転がす。

「あれー? ポイ捨てあかんでー、しょーねん」

 その声の方向に顔を上げる。と、頭の上でぽんと音が鳴り、後ろのゴミ箱ががこんと鳴った。見ずとも分かる、入ったのだ。ボトルではなく、その隣の缶のゴミ箱に。

「あ、やば。ちょい待ってなー」

「……梛さん、こっちの道でしたか?」
「めっちゃ朝に急ぎのんあってなー。その続きからやね」
「それは……ご苦労さまです」

「ほんまに不調なんやねえ。けっこー服も汚れとるんに」