「これ、私の発明品じゃないですか」
「ドライバー持ってますから。余裕ですよこれくらい」
「分解っと」
「まずい!船が落ちちゃうどうしよう!」
「ワクワクしてんじゃないわよ村紗!」
「クク……こちらは五人、あちらは九人と雲。しかも全員が実力者だそうよ」
1正邪2フラン3こいし4ぬえ5みとり6聖7村紗8一輪9マミゾウ
(響子ナズ星あうん小傘)
「フフフ……神綺様、クライシス」
「諦めるのが早すぎるだろ」
「……これは、戦力を出し惜しみしている場合じゃない。トランプキング」
「はっ!何ですかな」
「鍵を貸す。法界の妖精をすべて呼べ」
「はっ!わかりました!はっ!皆のものー!はっ!法界に向けて出陣ぞー!」
「大丈夫なの、あれ」
「知らん。呼べたら御の字よ」
「あら、あなたも戦いたい相手がいるんじゃない?」
「――ッ!」
背筋を汗が伝う。
こいつ、まさか知っているのか?あいつとの関係を。
まずい、ここで知られては計画のすべてが台無しだ。私は他との戦闘で消耗したところを叩いて、確実に奴を消さねばならない。そのためにはまだ、知られるわけにはいかない。
「そう警戒するな。我々には全てお見通しだ」
なのに。
なのに、私はこいつらを侮っていたのか?愚かだから何もできないと。
莫迦め、愚かなのは私ではないか。こいつらはとっくの昔に、無視できる存在ではなくなっていたのだ。
辺りを見回し、逃げ場を探す。しかしここは地上1079階だ。外に出たとして、逃げきれる保証はない。
「ん、花でも摘みたいのか」
「けどわかるわぁ、あれほんといいわよねぇ。」
「そうだよな。あのモフモフに一度突っ込んでみたい」
「あんなに気持ち良さそうな尻尾がついてるの、本当うらやましいわー」
「……」
前言撤回。こいつら、ルビを使いたいだけだ。やはり愚かだった。
「神綺に頼んだほうがすぐ済むかもしれません」
「だがそいつは忙しいかもしれん。旅行会社は必ず暇があるはずだ」
「旅行会社へのアポを神綺から取れるかも」
「二部隊に分けましょう。神綺のもとへ行く組、旅行会社へ行く組」
「通信はどうするの?」
「ここに飛倉があります」
「それと私もいますね」
「なんで……私が、解りやすいインターフェースなんて作らなきゃいけないのよ……」
「そうよね……最初から、暃んでいればよかったのよ」
「……なんて?」
「えっ、暃ぬって方言なの?」
「……これで、よかったのよ」
「ハッハァ! これでテメーもお払い箱だクソ強者!」
「わーい! お盆だ収穫祭だクリスマスだぁ! ほらほら行くよお姉ーちゃーん!」
「……ほんとに? こわれないの?」
「……」
「さあ。共に行きましょう、みとり」
「……」
「隣を歩んでくれるかしら?」
「ていっ」
「思わぬ欠陥を見つけてしまいましたねぇ」
「言ってほしい言葉と、言うと思ってる言葉は違うものですよ」
「あれ、もうおしまい? ちぇー。もうちょっと遊びたかったー」
「……そうね。壊れないものなんてないわ」
「騙された……? この私が? 天邪鬼の私が、あんなどこの骨かもわからない奴に……?」
「意外だな、早かったじゃないか」
「スパイはうまく行っているようだな、封獣ぬえ」
「ん?知り合いか?」
「騙されるな!あいつは敵だ、さっさと殺すぞ!」
ん、んん? なんか様子がおかしい。妙に切羽詰まってんな。封獣のこんな声初めて聞いたぞ。
……これは、面白くなるのでは?
「ほう、信頼も得ているようだ。面白いな」
「気が合うな、私もそう思うんだ」
「正邪ちゃん!?」
「そいつは!古明地こいしを騙した、裏切り者なのだぞ!!」
「違う!私は私の意思でああなった!ぬえちゃんは悪くない!」
「私、は……違う!違うのよ!あれは……!あんたの指示でしょう、トラツグミ!」
「ほう?この上人に責任を押し付けるとは、恥知らずも極まったものだ」
「フランドール、無論お前は封獣ぬえを信じるのだろうな。しかし考えてみろ。そいつが大事な自分のお友達を傷つけたのは変わりがない。何よりそいつには動機があるのさ。なにせ」
「やめろ……」
「そいつは」
「やめろ!!」
「お前のことが、好きなんだからなァ」
「マジで!?最高じゃん!」
「は?」
「今まで誤解してたよ……お前はただフランドールについてって、要領良く仕事こなすだけのつまらないエリートだと思ってた。けど違った!まさかこんな近くに同じ志のヤツがいるなんて!」
「この際理由なんて関係無えよ!安心しろ、封獣ぬえ!私はお前の共犯者だ!一緒にフランドールぶっ倒そうぜ!」
「離れろ気色悪い!あんたから信頼されても何も嬉しくないのよ!」
「そうね」
「理由なんて関係ない」
「私は怖かったんだわ」
「もう大丈夫。観測したものを、私は信じる」
「黙れ」
「鬼人正邪。お前のことは聞いている。ただの一般妖怪のくせに、ここに並び立つ身の程知らず。だが貴様さえいなければ、地底共々貴様らを消せたというのに」
「お前は一番の不確定要素なのだ」
「好機だよ。墓は立ててやるさ、天邪鬼」
「呪いのデコイ人形。アーンド、四尺マジックボム、違法改造版」
「墓は立ててやる? あっははは! お先にどうぞってなあ!」
「フランドォォォル……貴様のことは知っているよ。私の分身から全て理解しているのだ。次は何をする?禁断の果実か?亜光速の終着か?波紋を跳ね返すために、雲で壁を作ってやっても良いのだぞ?」
「違う、違う、違うよなぁ。全て割れているなら、一度も使ったことのないものを使えばいい。そうだろう、お前なら出来るさ、私も保証してやろうじゃないか。さあ、その羽の魔法を解放するんだ、フランドール!!」
「――迷ったな。ならば貴様の負けだ、フランドール・スカーレット」
「フードが割れ……」
「フハハハッ!浅い浅い!何だその隙間だらけの軌跡は?亀でも抜けられるぞ!?」
「くっ!」
「おや……悔しいか?ならば、すぐに終わらせられる方法があるぞ」
「ほぅら…使ってみろ、破壊をなぁ。この『封獣ぬえ』の死に様をしっかり脳裏に焼き付けてみろよぉ!」
「できないか!?そうだろうなぁ!お優しいフランドール様は仲間を殺すなんてできないだろうなぁ!」
「お前の破壊は絶対だ。喰らって生還する可能性など無に等しい。どう無効化したものか悩んでいたが、まさか死んだはずの分身がきっちり仕事をこなしていたとはな!まったく、手前味噌ながら素晴らしい働きだ!賞賛するよ!ハハハハハ!」
「ああ、ぬえちゃんが正邪ちゃん嫌うわけだわ。そっくりよあれ」
「……何あの煽りスキル。羨ましい……」
「正邪ちゃん!?」
「なんかあれ見てるとあんた思い浮かぶからやっぱ殺してくる」
「一人だけ怒りのベクトルが違う!ってちょっと待って待って!今のぬえちゃんが出たら死んじゃうよ!」
「あいつはもともと私よ!あいつを吸収して私は生きる!」
「希望に溢れてるのは結構だけど、どうやって近づくのさ!?もう五千人ぐらいはいるよ!?」
「そうでもないわよ」
「……なんだ、それは?」
「コインいっこ」
彼女の手に握られていたのは、ついさっき破壊した、塔の屋上の瓦礫のうちの一つだ。
「巫山戯た真似だな。大方、それを打ち出すというのだろう?しかし杖も使えず羽も失った貴様が、たかが金属片で私を倒せるだけの威力など出せるものか」
「違うわね。想像力に欠けてるわ」
「何を」
「あなたが、コンティニューできないのさ!」
「貴様っ……まさか!」
「パチュリーが言ってたわ。どんな魔法にも、どんな科学にも、必ずトリックがある。だから魔術じゃなく科学で魔法なんだってね。魔界の魔法なら、なおさらさ!」
轟音と共に、塔にヒビが入る。
きっと魔界の栄華を象徴していただろう、千何十階ほどの塔の全てに、蜘蛛の巣のようにヒビが。
「馬鹿な、血迷ったかフランドール!?貴様はこの魔界で最も多くの魔人が関わったものを破壊したのだ!一体何百万人を犠牲にするつもりだ!?」
「ええ、今までの私ならやらなかったでしょうね」
「迷いは晴れた。覚悟はとうに決めた!」
「大丈夫……大丈夫に、する!」
「よくも、よくもよくもよくもよくもォォォォ!!!貴様等!楽に死ねると思うなよぉぉッッッ!!!」
「……なんてなァ」
「私が、この私がぬかりなどあるはずもない」
「いやあるだろ、こいつはどーなるこいつは」
「そいつを殺すのも私の予定だ」
わあお、堂々とした殺害予告。
「だめっ!フランちゃん、ここが限界だよ!」
「ああ……やっぱり?じゃあ、私も制御に移るわ……」
ええっと、こいしとフランは破壊の制御にかかりっきりで、封獣は使い物にならず、胡散臭い赤河童は夢子と戦闘中。命蓮寺の妖怪僧侶どもははるか地上で別に戦っている。
ん?じゃあここで戦える人材って。
まさか。
「……私だけ?」
「魔界でも通じるんですかね?もしもし冴月さん。ちょっとよろしいですか」
『はいこちら冴月……きゃあ!何この状況!』
「お、行けましたね。禁止結界張ってるんで、このペースなら三分は持ちますよ。というわけで、三分で打開策を出せますか?」
『クソ上司かあんた!っていうか、自分で立てられるでしょう!?』
「戦場での浅知恵より、司令室の悪巧みです。俯瞰視点でないと見えない物がある。お力添え感謝いたします」
『んぎぎぎ……!』
『もうこういう時には呼ばないでよ!さもないと……』
「あ、やっぱ三分も持ちませんでした。それじゃあありがとうございました、標識様」
『お前ぇぇぇええ!!!』
「うおおおおお!!!ふざけんな撤退じゃあああぁぁぁぁ!!!!」
「逃がすか!私の正体を知った以上、ここで死んで朽ち果てろ!」
「ちぃぃ!『逆転』!「気体を液体に」!「位置エネルギーを運動エネルギーに」!そんでもって輝符「逆針撃」ッ!」
「そんなものが通じるか!ここにいる私は百番台が二十人!全員が聖白蓮と同程度だ!貴様の小細工でどうにかなるほどヤワではないぞ!」
「そいつはご高説ありがとさん!フランドール!レーヴァテイン貸せ!って何じゃこれ!?重い!妖力消費が重い!!」
「――てめぇ、科学を知ってるか?」
結果、無傷。
「ちくしょおぉぉ!!!さっきの台詞返しやがれぇええええ!!!」
「何、あいつ、何なの! 私にだけやたらと対策立ててねぇか!?」
「いや、今のあんたが弱すぎるだけだから」
「切り札│悪手なら、一つだけあるわよ」
「源三位、頼政の弓……あいつが退治されたわけじゃないから、どこまで効くかは解らない。なんなら、全く効かないかもしれない。当たったとしても、たった一人しか倒せない」
「でも、意味はある」
「あぁ?」
「合わせ鏡なのよ、天邪鬼。フォーオブアカインドとは訳が違う。必ずどこかに本物が居る」
「有るだけ無駄な程度の希望だな……それで? お前、私に何をさせたいんだ」
「あいつに打ち込む隙を作ってくれればいいわ。ほんの……そうね……三秒くらいかしら」
「……何回、死ねるかな」
「魔界にも……地獄は、あるわ。だから安心なさい」
「そりゃいいな……そんときゃ、先導はよろしく頼むぜ!」
「まさか、あの天使以外にも、私の脅威がいるなんてね……」
「んもう。鵺って言ったかしら? ちょっとお仕置きしなくっちゃ」
「忘れっちまったかよ?」
「嘘は私たちの得意技よ」
「ふざけんじゃねえよ」
「てめーのそんなチンケな命が、こいつに釣り合うとでも?」
「何をしている、鬼人正邪!私は死ぬべきなのだ、そうすれば神綺様は助かるし、ぬえは解放され、貴様らは幻想郷に帰れるのだぞ!気でも狂ったか!?」
「なーんもわかってねえなァ。堂々と『私はどうなってもいい』だなんて言う奴の命なんざ価値がねえよ。逃げて逃げて逃げ惑って、挙句捕まっても『命だけは』だなんて言い出す小心者のほうが、よっぽど価値が詰まってる」
「だからてめーは死なせない。そんなスカスカの命渡されても、償いにゃ程遠いからよ」
「殺すなら、ここにいない誰かだろう?」
「あいつの話術って一体何に極振りしてるのよ?」
「もちろん弱者を救うためさ」
「それも強者に潰されるような脆く儚いやつ、ね。まったく、怒るに怒れないのよねぇ」