「おはようございます!ごめんくださーい!」
 「ほえ?はい、はい。なんでしょう、こんな朝早くに」
 まずは門番さんに元気にあいさつ!この時点で試験はもう始まってるから、どんどん僕をアピールしていかないと!
 「番号457862です!試験を受けにきました!」
 「ああ、そういえば今日がそうですか。まだ会場設営中ですがどうぞどうぞ」
 「ありがとうございまーす!」
 門番さんが鉄格子の門を何度かたたくと、大きな両開きの門は音もなく開いた。すごい!門番さんは門を押してないのに、どうやって開いたんだろう!面白い!
 「……気になるなら、触ってみますか。時間はまだありますし、何やっても壊れませんし」
 「いいんですか!いいんですか!」
 「ええ。減るもんじゃないので」
 「やったー!ありがとうございます!」
 門番さんにペコリと頭を下げてから、門をなでてみる。不思議だ、どう触っても鉄の手触り、何も変わったところがない!すごいすごい!
 「ふふ、面白いでしょう。たたき方で動きが変わるんですよ、ほら。」
 門番さんが中に入り、さっきのように右の門をたたく。すると今度は門が右だけ閉まった。
 「おおー!」
 「ふふん。なんだかちょっと嬉しいですね。門番として門に興味を持ってもらえるのは」
 僕も左の門を同じようにたたいてみたが、なぜだか僕では動かせない。なんだろう、手の大きさが違うのかな?
 「ああ、いきなりは動かせませんよ。同じタイミングと同じ強さでたたく。これができなければ、門は動きません」
 「タイミング?」
 「私とまったく同じようにやらないとダメってことです。まあもともと、右と左の門ではタイミングが少し違うので動きませんが」
 「なるほどー!」
 ということは、僕は左の門は動かせないということだ。じゃあさっき見た右の門は動かせる!
 僕は右の門に近づき、さっきの門番さんのように叩いてみた。こっこっこっ、こっこっこっ。かしゃん。……何も起きない。
 「ははは、普通はできませんよ。私だって三週間ほどかけたんですから。もしできたら、何でも一つ言う事を聞いてあげてもいい」
 「むー!」
 その言葉で僕はやっきになって門をたたき続けた。……動かない。まったく、少しも。
 「ははは。『閉めるやり方』では閉まってる門は動きませんよ。……まあ、今さっきあなたが叩いた叩き方、全く狂いのない『鍵をかけるやり方』なんですけど……」
 門番さんがぽそりと呟いた。やり方?なるほど、それなら最初に門番さんが使ったのは『開けるやり方』のはず。つまりあれを真似すれば!
 えーっと、あれはそう、この辺をこんな感じにたたいてたような……
 「……ん?あの、そのリズムは、あのちょっと」
 こーんこ、こーんこーんこ、こんこんこんここ……
 「こん!」
 「ちょっ!ああ!」
 ためしに門番さんと同じようにたたいてみると、門が鳴り始めた。けれどその音はとってもうるさくて、まだ日が登ったばかりの幻想郷には合わない感じ。
 「あれ、もしかしてまずいことしちゃった?」
 「てい!」
 門番さんは急に左の門も閉めて、何が起きたのか考えていた僕を門の中に取り残してしまった。それと同時に音も聞こえなくなって、とても静かになった。
 「えっ!どうしたんです、門番さん?」
 「あはは……何でもないですよ!ところであなたは何番でしたっけ?」
 「えーっと、457862です!」
 「457862ですね。そうですか、私は紅美鈴といいます、試験頑張ってくださいね!」
 「ありがとうございます!ところで美鈴さん、どうしてそんなに汗をかいてるんですか?」
 「いいいいえ、お気になさらず!会場までは迷わないはずですが、もし迷ってしまったら近くの人にお気軽に聞いてくださいね!それでは私は門番の仕事がありますので!」
 「え、あっ!」
 そう言うと美鈴さんはさささっと壁の向こう側に行ってしまった。一体どうしたんだろう?まだお別れの言葉も言ってないのに。
 「ありがとうございました!って、聞こえてないだろうなあ。ならせめて、帰りの時には言わせてくださいねー!」
 僕はそう言い残して、館の方を向いた。
 右手には静かな庭。左手には騒がしい庭。目の前には館。なるほど、美鈴さんは会場までは迷わないと言っていた。つまり、一番目立つこの館の中が会場に違いない!とりあえず館の中に入ればわかるはず!
 「ふっふっふ。待ってろ、面接官めー!」
 そう言いながら、僕は館の方向へ走り始めた。