すごい話の滑り出しだ。探し人だったらここより良い奴が命蓮寺にいるぞ、というところなんだが。探され人ときたらもう何も言えない。
 「探されないようにすることって出来ますかね?」
 「それなら簡単だろう。おい、封獣」
 「いや、私じゃ無理よ。私ができるのは見つからないようにする事だけで、探されないようにするのはできないわよ?」
 「それもそうか。じゃ、どうすっか」
 「探してくる奴を消せばいいじゃん」
 「ありだな」
 「無しですよ。別に危害を加えたいわけじゃないんです。」
 「どっちみち探しを止めたいなら、アプローチすべきは貴女じゃなくて探し人よ。みとり、そいつのことを教えて頂戴」
 「教えられるのなら、ここに来ていないと思いませんか?」
 
 
それらだけなら幻想郷にもよくいる程度だが――
 「……ッ!?」
 全身が怖気だつ。
 たったコンマ数秒だけ感じたのは、違和感。
 けれど、ただの違和感じゃない。
 十日余りで身につけた警戒心は判断していた。こいつは、敵だ。日で表すなら、七日目程度の強敵。無意識に一歩、後ずさる。
 しかし。私は、さっき妖精メイドたちが言った特徴を思い出した。
 鉄板。尻尾。胸に鍵。残念ながら、全て一致する。冷や汗を拭い、試しに聞いてみる。

「和服の方です」
 「いや誰よ、それ」
 「紅魔館のお知り合いだそうですが」
 「私は聞いた事ないわね」
 「何サラッと交じってんだ、メイド長。仕事ねーのか」
 「今は昼休みよ。貴方達にも後で振る舞って差し上げます。とにかく、私がここに就いてからその風貌の方は一人も来ていません」
 「つまり、主様の旧友ってとこか。七曜魔女以外にもいたんだな、知り合い」

「さて。みとりさん、もしかしたらその教えてくれた人を退治してしまうかもしれないけれど、いいかしら?」
 「お好きになさって結構ですよ。もとより早いか遅いかの違いですし。」
 「ほう」
 こいしは口の両端を釣り上げた。おい待て、私達も探そうって言い出すんじゃないだろうな。
 「そんな事は言わないよ。私だけで調査するさ」
 「水臭いこと言わないでよ。私も一緒に調べる」
 「「…………」」
 「……マミゾウに聞く」
 「そんな目で見てもやらねえぞ!やらねえからな!」
 私の目的はヒエラルキー逆転って言ってんだろ!何でわざわざ危険を犯すんだよ、そういうのは一回で充分なんだ!紅魔館襲撃で満足しただろ――
 「あのう、そろそろ依頼していいですか?」
 「「「「あっ」」」」
 ……そういや、すっかり忘れてた。まだ依頼を聞いてない。まずいぞ、私達の業界は信頼が元だ。別に悪評が広まるのは構いやしないが、客が減って日々の最新情報が入ってこないのは地味に困るな。
 取り繕うだけ取り繕うぞ、そう目配せする。
 「ええ、大丈夫よ。我々はどんな依頼も受け付けています」
 「お昼の献立から派遣一面ボスまで、あらゆる悩みはここで解決」
 「人妖霊神問いません。顧客の笑顔は私どもの笑顔」
 「さあさ皆様、手を伸ばせ――」
 「「「「萬屋クレイジーカルテットは、いつでもその手を掴みましょう」」」」