飴うめぇ。
 こころさんに切り取ってもらい、アイテム「元帆布」を手に入れました。水と風魔法の触媒になります。そんなに必要じゃないですが、念の為。

「来た! 第二危険地帯……水木群生地!」

 浸水した林です。すっかり見た目はマングローブ林ですね。これ、もし雲コンビがいたらこれをバキバキ破壊する絵面になっていましたね。休んでいてくれて本当に助かりました。
 えっ、増水した川で川下りしてる時点で相当やばい? ははは、現実と幻想の区別がつかない人がそんなに居るわけないじゃないですか。

 それと何だかそろそろ戦闘しそうな気がするので、改めて陰陽玉に糸を噛ませます。よーしよしよし賢いぞー。もーちょっとだけカバンに入っててくれなー。

 
「木の薄い箇所を狙う! こころ! 船体にぶつかる太い木はすべてぶった切れ! 豊夏! どの木を狙うかサポートしろ! 仕留め損なった木はお前が切れ!」

 と言いますが、現状私が扱えるのは変哲ナイフのみであり、これで切れる木なんてたかが知れてます。というかそういう木はこの船体なら余裕で耐えるので必要ないです。
 それにそもそも片手は竹水筒で埋まってるのでナイフを振る暇がありません。というわけで、正確に指示を出してこころさんに100%お任せしましょう。

「分かった。頼んだぞ、豊夏。……なに? 右? !! あれか!」

 本当は一輪さんのように方角を数値で言えれば早いんですが、あれを一瞬で理解できるのは歴戦のコンビだけです。
 私達はそうじゃないので右三本、左一本、水面下10cmみたいな感じで指示を出していきます。もちろん補助で指差しも欠かさず。

 ちなみにこの区間の練習中で、そもそもその枝が見つからない! という場合にはエアサイトを駆使すれば少し楽になります。私は魔力量の関係上素でやっています。夢中でチャート組んでたらそうするしかなくなった。

「しっ! ふっ! くぅ、人の指示を聞きながらは難しいな……!」

 能楽は書物という先人の指示を反芻し、自分なりの答えを舞台上に表現するタイプの芸能です。こうやって反射的に指示を反映する物とは逆に位置するでしょう。特に師匠がいないこころさんは。
 やり慣れないことを頼んでる自覚はありますが、師匠がいなくても芸能を昇華させたこころさんならすぐ慣れます。なので大丈夫です。

「く……ふぅっ! は……ああぁ! うぅっ……! 伏せて!」

 気が散る。
 それはともかく、処理しきれない小枝が大量に来ました。こういうやつは船長がアンカーでぶち抜いてくれます。こころさんは勝手に避けます。こころは能楽やってるからな。

「……なるほど、ああすればいいのか。豊夏! 本数指定はいい、方角だけ頼む!」

 こころさんが二〜三本同時にぶった切るようになりました。こころは能楽やって……いや強くね? イケメン度が留まるところを知らないんですが。

「……いいわ! 良いわよ! この調子で行けばすぐ抜けられる! 皆! もうちょっとだけ耐えて頂戴!」

 この調子で行っていいのは、相手がその調子を保ってくれる保証がある時です。この林がそうかというとそんな事はありません。
 だって妖怪の山だぞ。あの傲慢オブ慢心な月人連中が地上探査機を投入した場所だぞ。まああれは月側も切羽詰まってたからかもですが。

「! 水がうねって……渦巻!?」
「何かいるぞ、村紗! 渦の中心だ!」

 林の中。渦巻く水。棚引く赤いリボン。回転。
 はい、あの方ですね。このままだと船諸共沈められますので先手を打ちます。渦自体は問題なくとも、それに舵を取られて木に激突するのはノーサンキューだ。えんがちょ!

「人!? 救助しないと!」
「待て、村紗! 私が行く! 五秒でいい、船を持たせろ! 私が飛び出したら、渦の中心近くの木にアンカーを刺せ!」
「了……解っ!」

 あ、大丈夫です。えんがちょしたので。五秒くらいなら厄は吸われるだけで、向こうから飛んでくることはありません。
 このスピードで何事もない時間が五秒もあれば、水蜜さんは船を持たすどころか渦を抜けられます。なのでこの五秒間だけは快適な船の旅を楽しみましょう。平和じゃー。


「あー、危なかった。いくら流し雛って言っても、溺れて沈んじゃったら厄が貯まるばかりだものね。咄嗟に渦で流れを作って助かっ……え? むぐっ!?」

 頭のリボンを掠め、鉄の塊が突き刺さる。それに驚く間もなく、彼女の体は空中へ飛び出し、鎖をなぞって船へ向かう。

 それが誰かに掴まれたからだ、そう彼女が結論付けられたのは、ずっと後の話。木に刺さったアンカー、そこから伸びる鎖、その全てが自分の《《居た》》場所と逆に流れ、《《アンカー型の穴がいくつもの木に開いている》》と認識した頃の話だった。
 
 木が川へ落ちる。

 飛沫は届かない。


「戻ったぞ! もう大丈夫だ、そこで伏せていろ!」
「ぷは! えっ、何事!? ここどこ!?」

 はい、平和は終わり終わり。こころさん、あそこを切ればここら一体の枝はまとめて落とせると思います。水蜜さん、タイミングを合わせて枝をふっ飛ばしてください。

「命蓮寺の修行船に……ようこそ! お茶でも出したいけど……っ! そういうわけにはいかないんだ!」
「修行船!? あの、説明が、説明にならない……」

 言葉で言うより、行動で示します。私達が何をしていて、貴女は何をするべきだと思いますか。ちなみに私は伏せるべきだと助言します。

「どういう……きゃああ!?」

 あっ、ほら。小枝がバチバチ飛んでくるんですよ。この中を平気でいられるのは能楽やってるこころさんと舟幽霊の水蜜さんくらいです。よって我々は素直に伏せるのが賢明なのです、鍵山雛さん。
 

「分かっ、分かった! 伏せる! 伏せるから! 起きていいときは言ってよ!」

 良いでしょう。よし、人手が増えました。厄神様の雛さんです。必要になったら働いていただきましょう。厄がとてつもなく不安要素ですが。

「人手が増えたな」
「人手が……増えた!」
「何でそんなに人手を気にしてるの!? 怖い!」

 大丈夫ですよ。今は働かなくていい青春を謳歌する時です。いつか訪れる労働のために五体投地で精神を統一してください。案外そういう時期ってあっという間に終わりますからね。

「……! 村紗!」
「どうしたの!」

 二時方向、ざわざわと木々がさざめいています。まるで、あまりに早い物体が船の進行方向と垂直に進んでいるかのような。

「誰か……近づいてくる!」
「近づく!? そんな馬鹿な! この船はあの天狗以外乗れないんじゃ! あれ、嘘だったの!?」

 嘘じゃないですよ、その点は。音がより近づいています。間もなく交差点でしょう。
 あ、ほら、見えましたでしょ、あの黒い翼。あれは文さんです。

 ん、文さんから何か白いのが落ちてきた? ああ《u》空挺兵《/u》ですね。山の中でも特に選抜された方だけがやる特殊戦法です。高速の烏天狗から高火力な鼻高天狗等を投下して攻撃させ、敵を撹乱するんですよ。

 簡単なようでいて、息が合ってないとバランスを崩し木に激突したり、あらぬところに投下したりして、撹乱効果が落ちてしまいます。だから今回のように真っ直ぐ落ちてくる天狗は熟練の戦士と言えます。

 この戦法を成功させるには、少なくとも運ぶ側が予測できる場所を投下地点にする必要があります。移動する船なんて論外ですが、本イベントにおける文さんにとってはむしろ理想。

 なにせ調整したのは文さん自身です。その方向へ、そのスピードで、そいつを抱えたままにその曲がり角をショートカットすれば、疲労した状態でも追いつけるようにと。コンディションさえ整えてやれば、人工物の上は木が生い茂る山肌よりよっぽど楽な投下地点ですよ。保証できます。

 まあ、その調整を帆に当てる大風一つでやるとなれば、その楽はほぼ帳消しだと思うんですが。それは私の感想なのでしょう。

「お前が無傷で居るということは……」

 さて。
 さっきぶりですね、椛さん。

「あの二人には、手に余る相手だったようだな。どうも、私は力量が測れない」
「白狼天狗! 良かった、怪我人がいるんだ。運んでやってくれるか?」
「怪我人?」

 響子ちゃんと修理人さんですよ。二人とも強く体を打って意識不明で、いつ目覚めるかもわからない状況で……

「はっ! わ、私、寝ちゃってた!? 皆! 無事っ!?」
「損傷箇所、補修完了。――まったく。関係修復の機会かと思えばこれだ。山は分かってて割り当てたのか」
「……私は……違うわ。……ただ、休んでるだけよ」

 あ、起きました。

「どこに怪我人などいるんだ? 船員は皆無事じゃないか」
「え、……それなら、私を岸まで連れてってほしいなー、なんて……」
「それより、私は用事があって来たんだ。――貴様だ、侵入者」
「あ……うん。もう少し、お世話になるわ……」

 厄神様をガン無視とは……対処法をばっちりわかっているようですね。雛さんの厄は結構強力でして、ちょっと雛さんについて書くだけでも墨が切れてしまったり筆が固まったりなどの不幸に見舞われます。
 もちろん会話も例外じゃないですし、体に触れるなんて以ての外。対処するなら関わらないのが一番です。二番は厄を全部かわすこと。
 

「侵入者? そうか、あの時の。…いや待て、それにしてはしつこ過ぎないか。白狼天狗の任務は哨戒だろう」
「ああ、任務としてはもう終わっている。天狗の縄張りから出て、公道に戻ったんだ。哨戒の役目は果たした」
「なら、何しに来た」

 まあ、哨戒の為じゃないですよね。だって剣も盾も持ってないですもん。たとえこの船に追いつくためだとしても、勤務中の証明にもなるあの武器を置いてくるとは思えません。
 それを踏まえて、なんで今上着脱ぎ捨てて構えたかっていったら。
 もう、やる事は一つしかありませんね。

「哨戒天狗ではない――山に住まう者として。
 あの不埒な玉を操る者を許しはしない!」

 《s》山に住まう者として舐め腐った人間を矯正しに来《/s》
 いや、私怨だこれ。身体強化!

「はぁっ!」

 ここっ! ギリギリ、皮一枚で! 躱すっ!
 それがっ! 椛さん相手の、基本戦術っ!

「……! やはり、実力を隠していたか……!」

 隠してたんじゃなくて、出せなかったんですけど。
 まあ外から見たらどっちも一緒ですね。これがカプセル化ってやつですか。

「ちょ……ちょっと! あんまりそこで暴れられたら、舵が……」

「おい」

 はい。何でしょうか、こころさん。

「闘うなら……船尾でやれ!」
「うわっ!?」
 

 こころさんに投げ飛ばされました。

 ……強すぎじゃね? 二人まとめて投げるって、貴女本当にただの芸能人ですか。いよいよ私の違和感も鎌首もたげて振りかぶります。まあ山道ダッシュで気づくべきだったんですが。

 いやしかし、リアル芸能人にも無人島を開拓できるライフインフィニティな方がいらっしゃいます。それに比べれば二人投げるくらいわけないか。わけないなら普通に全員抱えて岸に上がれた可能性が微粒子レベル着地。

「……ふ。これで、一対一だ。
 その竹水筒を置いてくるなら、今のうちだぞ」

 問題ありません。片手で十分です。
 というか、今この竹水筒から手を離してはいけません。水魔法の修練してたのは事実ですが、そこから繋げる予定の技があるからです。

「えっ、やばいやばいやばいって! 闘うの!? あの揺れもっとかましてくんの!? きっ、響子! こころへの危険指示役をお願い!」
「危険指示役! つまり元々の役割ね! わかった!」
「おっ、おかしい、おかしいわ。どうして私はここにいるの? そんなに最近厄がたぷたぷだったっけ? 私自身が厄くなるほど? ……そういえば、そうだったかも……」

「言ってくれるわ、ただの人間風情が。
 ……しかし、虚勢ではないようだな。
 貴様からは、あの時よりも強い力を感じる」

 身体強化切りましたからね。威嚇用の武器を捨てた犬走さんはスピードに特化します。身体強化で目も強くしないと捉えられません(1敗)。
 いくら最近はその上のスピードの烏天狗も素で見切れるようになってきたといっても、無くても良いやとはなりません(1敗)。そんな慢心で死にたくはない(1敗)。何せ、初のまともな戦闘ですから。

「何、やばいのか! 村紗! 舵と小枝と、両立できるか!」
「出来るかどうか……だいぶ怪しい! せめて、どっちか任せられる人材がもう一人、いれば……」
「…………」
「…………」
「いつから? ……昨日の朝からだわ。あれから急に人里の厄が濃くなりだして……頑張って吸って吸って……漂う分が……私は無事でも……周り全てを押し潰せば……ん? 何か、静かになった……?」

「だが、それだけだ。
 ただそれだけでは、私一人にも勝てはしない。
 山を侮った罰だ! 惨めに引き裂かれろ!」

 数の利を捨てた孤狼よ。己の幼さを呪うがいい。



「いやぁぁ! 解いてぇ! 無理無理! 私は神ってついてるけど木っ端妖怪の一種なの! 前線なんて張れっこないって! 待ってぇ! 止めてぇ!」
「残念だが、もう逃げられない。お前は|十字架《そこ》から弾幕を放つしかないのだ」
「来る! 三時の方向、枝多数です!」
「行くわよ! 準備はいい!?」
「では頼んだぞ! たぁっ!」
「あああぁぁぁあああ!!!」



「……貴女……仕事が、早いのね……こんなに大きな十字架を、一瞬で……。ねえ、修理人。……名前……なんて、言うの?」
「教えてもいいが……覚えられないぞ。そういう契約だからな」
「契約……? 貴女、一体……」
「『まずは成果を挙げよう
  皆はお前を知らないから恐れるのだ
  なら示せばいい、ほんの些細な利益だけを
  そしたら、残りは勝手に暴いてくれる
  それが河童の好奇心だろう?』」
「…………その……物言い、修行の……契約のときと……」
「まぁ、気になるなら暴いてくれ。縁起にも私のページはあるから。……じゃ、私はもう一度全体をチェックしてくる。厄神様が乗ってるんだ、綺麗にしないとな……」

「……忘れるわけ、無いでしょう。
 あなたのような、赤い河童は」

《hr》

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