、主従の契約を確認する。数瞬あとに、契約している小悪魔たちの名前がずらりと並ふ。
 もし、もしもインが消滅したというなら、契約は解除されるはずだ。つまりこの名前群から、インの名が消えているはずである。恐る恐る下へ下へとスクロールしていく。
 A、B、D、ああ、頼む。無事でいてくれ。F、H、K、初めてちゃんと対面して、初めて頼みごとを聞いて。何もかもこれからだったじゃないか。私のせいでもう会えないだなんて、そんな、そんな――N、S、X、そして、
 
 『Y:yin(銀)』
 
 「い……た?」

それはきらびやかでありながら、同時に教会のような厳かさを持つこの雰囲気による。金と赤を効果的に使って豪華さ、絢爛さを前に出しつつ、細やかな白と黒の装飾によりその印象を整える。一見相反しそうなその二つの要素を、日本様式の建築で上手くまとめることにより、けばけばしくなく静かで、例えるなら心地良い威圧感のようなものを見る者に与えるのだ。
 ちなみに、魔法的に見た場合このままではあまりよろしくない。五行的に青が畳の端っこくらいしかなく、均衡が取れないのだ。だから普通の城は池や堀などを掘ることで青を補うのだが、逆さ城ではそれは容易には実現できない。だからかわりに窓を大きく取り、青空が見えやすいようにしているのだろう。なるほど、面白い。

 目が覚めたら、目の前には美女が土下座していて、その上に親友が座っているという目が覚めるような光景。こういう時ってどう声をかけたらいいのかしら。なるほど、テンプテーションならぬイミテーションってわけかい、美鈴。あら、新しい趣味?なかなかエキセントリックね。で、カメラはどこ?うーん、どれもしっくりこない。
 
 「すまない、パチェ。私の使用人が迷惑をかけた」
 「……あ、うん。まあ手くらいなら別にいいけど」
 
 悩んでいたら、先に言われた。しかも一旦美鈴から降りたうえで、深々頭を下げられた。やべえよ、物腰静かなくせしてレミィがカリスマ全力モードなんだけど。吸血鬼異変の時ぐらいの威圧感あるんだけど。たかが親友の手の骨を使用人が砕いただけじゃないか、そんなに怒ることじゃないわ。なんて言葉じゃ納得しなさそうね。
 
 
 
 
 
 「申し訳御座いませんでしたァァァァァアアア!!!」
 「足りない。誠意がまるで足りないよ。そうは思わないか、パチェ」
 
 いや、じっくり考えてる暇ない。
 
 「そうねえ、減給じゃ済まないわねえ。もっともっと恐ろしい罰を与えなくちゃ」
 「ひええぇぇ!!」
 
 言葉尻に悪人顔で笑みまでつけると、面白いぐらいに美鈴が怖がる。っていかんいかん。ここで優越に浸ってはコアと同レベルだ。ちゃんと何かちょうどいい身の丈サイズの罰を考えなくては。最近困ったこととか……
 あっ。
 
 「……とりあえず、コアの手助けでもお願いするわ。まだ輝針城の探索をしてると思うから、それ手伝ってやって」
 「」
 
 
 
「魔本、魔導書、魔術書、魔法書、魔冊子、これらは厳密に言うならどれも別物よ。ペンを貸しなさい、コア」
コアから太マジックを借り、白板に二本の線を交差させて描いて、その線の先に説明をつける。上に自立、下に従順、右に詳細、左に簡素。
そして右上に魔本、右下よりに魔導書、更に右下に魔術書、魔本より右に魔法書、魔冊子を左上に描く。左下には大きく『普通』の文字。
「だいたいこんな感じね。本と書、魔法と魔術の関係を押さえればそれほど難しくはないわ。まず」
「それ長くなりますか、パチュリー様?」
「コアの疑問を解消しましょうか。ええ、長くなるわよ。本気でやればね。でも私が断腸の思いで魔道書の歴史をカットすれば十分の一にはなるわね、うん」
「じゃあカットでお願いします」
「わかったわ。本当にカットするのね?」
「はい、もちろん」
「……ショートカット?ロングカット?」
「往生際が悪いですよパチュリー様。全カットです」
「ぐぬぬ……」