自分の居場所確認ついでに窓開けてて、本当によかった。
 そうでなければ、多分こいつらは窓を突き破ってきた。そう確信できる。

「あれ? 左ってお茶碗持つ方だよな。右は箸を持つ方なんだよな?」
「箒ないと制御できないなら飛ばないでくださいよ! あ、あああ。まだ隠蔽考えてないのに」
「魔! 理! 沙! 怪我人の居る部屋に飛び入るなんて何考えてるの! 恥を知りなさい!」

 窓から入り、壁に激突した泥棒とコア。
 その後ろを追って入ったレミィが、二人に対して説教をしている。
 私の目の前にあるのは、そんな状況だった。

 ついでに言うと、妖精メイド二人は口をぽかんと開けて硬直しているし、インは私に手を向けて防護魔法を発動している。うん。あなた達はそうなるしそうするわよね。

「く、曲者! メイドどもー! 出会え、出会えー!」
「ぇ、えっと、黒白が入った! 応援求む!」

 しかし、メイド二人が止まっていたのは僅かな間だった。すぐさま二人は叫び、侵入者に対するマニュアルをこなし始める。ここでいきなり戦い出さないあたり、どうやらこの二人はなかなか賢い方の妖精メイドらしい、と無駄な思考が回る。

「……ご無事ですか、パチュリー様」
「ええ、問題ないわ。ありがとう」

 インが手を下ろすと、防護魔法が解けた。中級魔法『塵不入壁』。塵一つも入る場所がないと称する壁を作る魔法だ。細かな魔力の編み合わせが必要な魔法を、この一瞬で出す。さすがインね。

「おや、おやおや? 問題が発生してしまったかなぁ?」
「パッショーネさん! すごい音しましたけど大丈夫ですか!」
「ちょっと、勝手に死なないでよ! まだ契約してないじゃんかさ!」
「遅くなりました、読み聞かせの本を持ってきましたよー。……げふぅ。ん?」
「……パチュリーが図書館を出たがらないの、何となく分かった気がするわ」

 メイドの呼び声に答えて、ドアから次々とメイドや小悪魔が入ってくる。よく見たら最後尾にフランもいた。しかしその目は心配よりも呆れが大きいような。私、何もしてないのにな。だって魔法もなしに大胆なこととか……したら危ないし。

「あー、その、小悪魔。私らが飛び込む前って窓は閉まってたよな? でも今、あの窓は傷一つ無いまま開いてるよな、何でだ」
「この状況下でよく訊けますね!?」

 泥棒の周りを、やって来たメイド小悪魔連合が取り囲む。もちろんインや仲の良い二人の妖精メイドもそれに加わっているし、しかも全員臨戦態勢だ。
 なのにその真ん中でひっくり返っている泥棒だけは、あっけらかんとした顔でコアに質問している。時々思うが、彼女、本当に人間か。
 ちなみに、もちろんレミィもセットで囲まれている。あそこにいたら仲間みたいだな。

「聞いているのか、人間」
「まずい、呼び名がワンランク落ちた。時間が無いぞ。答えてくれ」
「……閉まってましたよ。でもすり抜けてました。これでいいですか」
「うん。最高だ」

 そう言うと、泥棒は足を振り下ろし、反動ですっくと立ち上がった。エプロンドレスを軽くはたいて、良く通る声でこう言った。

「いやあ、すまんな皆。あんまり騒ぎにするつもりは無かったんだが。パチュリーが怪我したって聞いてな。居ても立ってもいられなくなっちまった」

 ……こいつ、顔色一つ変えずに嘘をつきやがった。私よりよっぽど魔女じゃないか。だからって図書館の主譲ったりはしないぞ。あそこを離れるのは私が死ぬときだからな。

「パチュリー様が心配で急いできた……」
「つまり我々と同じ……」
「へえぇえ。心配ならずかずか踏み込んだって良いと。喘息気味のお客人に埃を吸わせたって良いと?」

 おい、チョロいぞうちの小悪魔。たった一言で騙され絆されかかってるんだけど。口は悪いがあっちの妖精メイドのほうが公平だ。私に近い分私に甘くなるのはわかるが、それはそれとして公平な視点を持たせるのが急務ね、これは。

「それについては本当にすまない。つい騙されちまったとはいえ、病人の家を訪ねる態度じゃなかったってのは謝る。こいつはその詫びだ」
「まったくですよ゛っっ!?」

 泥棒がコアの背中と膝に手を回し、そのまま小悪魔たちのもとへ投げ込む。それを紅っぽいベストを着た背の高い小悪魔が同じ体勢で受け取る。今更だが、コアって意外と小さいんだな。自分も身長は低いほうだからあんまり自覚できないのよね。

「しゃあしゃあと……騙された? 何によ」
「どうも窓に魔法が掛かってたようでな。右と左の窓が入れ替わってたみたいだ。嘘だと思うなら、今引き渡した小悪魔に確認してみてくれ」
「えっ、私!?」
「……ふん。同じ窓を通ってきたのよ。嘘だなんて思わないわ」
「そうかい、そりゃ助かる」

 あら、あの一瞬で見抜いたのね。やるじゃないの、魔理泥棒。これ仕掛けたの私じゃないけど。
 だって私には利点もなければ意味もない。じゃあ誰かというと、まあ、その、うん。仕掛けるところから一部始終気づいてたし知ってるんだけども。というか泥棒じゃないなら容疑者が一人に絞られるまであるけども。

「それで? これがどう詫びになるのかしら?」
「そいつ主を盗み撮りしてましたぜ」
「ああああああああああ!!! もう少しで有耶無耶にできる気がしてたのにぃいいいい!!!!」
「はいはい。もういいわ、こっちに渡してちょうだい」

 紅ベストの小悪魔から、コアを投げ渡される。随分ぞんざいな扱いだな。もしかして、他の小悪魔からもこいつは信頼を得ているんだろうか。それなら納得はいってしまうが。
 そのまま水球の中へシュート。水符『ジェリーフィッシュプリンス』。外側ではなく内側の攻撃を防ぐ、捕縛用魔法のシンプルなものだ。ちなみに極めると吸血鬼を捕縛できたりもして意外にもポテンシャルは高い。今から不殺系吸血鬼ハンターになろうとする人におすすめ。

「この功績でチャラに出来ないか?」
「……それはそれ、これはこれ。って、言うところなんだけど」

 水球をちらりと覗く。