「これで今日の買い物は終わりですか」
「ええ、お疲れさま藍ちゃん」

「それにしても珍しいですね、紫様が直々に買い物するなんて」
「珍しくないわ。こんなに買い込むのはたまーにだけど」
「そうですか? いつも私に全部買い物を頼んでませんでしたっけ」
「藍ちゃんじゃ買えないものもいっぱいあるの。今日買ったもの、ほとんどそうよ」
「嘘ですか」
「嘘よ」
「どれくらい嘘ですか」
「半分くらい」
「半分は買えないものなんですね」
「教えないわよ。気づきなさい、それが一番の学びだわ」
「そういうのは気づかせるだけのヒントを播いて欲しいんですが」
「……藍ちゃん、ずっと荷物持って疲れたでしょう。あそこで休まない?」
「播き忘れですか?」
「播き始めよ」

「いらっしゃいませ!」
「藍ちゃん、家まで保つかしら」
「余裕です紫様」
「ちょっちょ! 待ってくださいよお客様! まだ何も言ってないじゃないですか!」
「何もも何も無いわ。何をしているのアナタ」
「え? 商売」
「紫様、『怪奇! 魔法のないマジックショー!』だそうです。表の看板にありました」
「何、もしかして看板も見ずに入ってきたの? それならむしろ好都合かも! せっかく日銭を稼ごうと思って準備したのにさ、誰も入ってこないんだもの。ちょうど周囲の反応が気になるところだったのよ」
「そりゃ、ショーじゃ来ないわよ。とりわけマジックショーなんて馴染みが無いもの」
「うぇ、マジかぁ。薄々そうじゃないかと思ってたけど」
「やるなら里の大舞台でやればいいじゃないか。適当な吟遊詩人か誰かに音楽を任せて。なんでこんな里の裏通りなんかに構えるのよ」
「紫さん、この人どうして心を抉ってくるの」
「私はお客だからわからないわ。早く始めて?」
「ずっる! 都合のいいときだけ!」
「……見ていくんですか?」
「ええ。私を引き止めるなんて本当に無害みたいだし、暇潰しに見ていきましょう」
「……潰せるほど暇はありましたっけ?」
「帰ったら暇づくりに邁進ね」
「過程と結果が逆です、紫様」

「レディースアンドガールズ! 宇佐見菫子のスーパーマジックショー、開幕だぁ!」
「お客を待たせない、花丸っと」
「ステージに立つと人が変わるなあの子」
「まず取り出しましたるはこちら。至って普通の中世の剣」
「どっちかというと近世ね。小さいし」
「前フリもなくテレポートで出したけど、いいんですかね?」
「私はこれが大好物だから食べてしまう」
「えっ」
「えっ。どうされましたか」
「い、いや、私、スナッフビデオの耐性はなくって」
「………………これ、ショーですからね。邪魔しないで下さいね」
「わかってる、わかってるけど」
「いっふ、ふーはーはひっふひょー!」
「タイミングがおかしい、│#《ハッシュ》」
「ひひゅうはふ!?」
「ふぅっ……」
「紫様。大丈夫ですか、お顔が真っ青ですよ」
「え、ええ。まだ行けるわ、まだ大丈夫」
「うーん、この濃厚な鉄分! 17世紀のハンティングソードと見た!」
「こいつまるごと全部行きやがった」
「あわわ……」