ある人が言った。
“なぜ、研究は自由ではないのか”と。
ある人が言った。
“なぜ、研究だけで生きていけないのか”と。
だから、ある人は叶えた。
『では、その理由を学んでみよう』と――
「これが……ナカリア」
質素ながら確かな豪華さ
扉と比較すれば豆粒
「……これからの故郷、か」
記憶が疼く
「移住はおすすめしないわよ」
「あなたは?」
「入都管理局よ。おはよう、新入りさん」
人形のよう
万年筆を取り出す
「いや書類書けってことじゃないわよ。橋の向こうで書いたので全部だから」
しまう
「珍しく新入りが来るって聞いて、早起きして見に来ただけよ。単なる好奇心ね」
「それほど注目される覚えはありませんが……」
「……ま、まあ普段より一時間早くするだけだもの。それで珍しいものが見れるなら、あなたも起きてみようって思うでしょ?」
「確かに。私もおかげで、この景色が見られました」
「……それで、どこに行きたかったのよ」
「え?」
「景色を見るにしては、視線がずいぶん地面寄りだわ。道を探すのが主目的だったんじゃないかしら」
「……驚きました。流石は管理局」
「え、あ、うん。そうね」
「もしかして、私が行きたい場所も既に分かっているのでしょうか」
「それは無理」
「アヤマならともかく、ここはちょっとね。素人が入れば遭難もあり得るわ」
「人が暮らす街ですよね?」
「それは事実だけど。危険度はほとんど山みたいなものよ。だから普通は住人と待ち合わせたりとか、ガイドがいたりするはずなんだけど」
あのジジイ……
「……今なら帰れるわよ?」
「すみません、そういうわけにも行かないのです。この街の中で会う約束があるので」
「は?」
「いやいやいや。この中に? 初心者を単独で? それもう殆ど暗殺よ?」
「学生時代の恩師です。そのようなことはありえません」
「……待ち合わせの時間を決めたのは?」
「恩師です。12時にここで会おうと」
シャシン
「常識的な時間と場所です。怪しくありません」
「状況で全部飛んでるわよ」
「それに、あなたさっき道を探してたわよね。……それって、待ち合わせまでの道を聞いてないからじゃないかしら」
はっ
「仕方ないわね」
「あなたを見たら、ゆっくり珈琲でも飲むつもりだったけど。ついて行ってあげるわ」
「それはありがたい。しかし、管理局はいいのですか?」
「いいのいいの、代理がいるから。それにちょうど砂糖も切れてるから、そのついでよ」
「行きましょ」