全部揃ったらリネームします

 できました。

「早っ!? ええと、点検点検……よし! 出港できます!」

 といってもあの性格なので、沈む箇所をわざと見逃してる可能性があります。一応私の方からダブルチェック。

「待て。最終確認は私がやる。……問題無い」

 先を越されました。まあでも、ナズーリンさん達のチェックなら安心できます。統率の取れた数の暴力ですから。もしこれが全てナズーリンさんみたいに化けられる鼠だったらと思うと身の毛がよだちますね。

「おっけー! それじゃ、いよいよメインイベント! 川下り修行の川下り編よ! 雲山、船を浮かべて頂戴!」

 浮きました。岸に打ちつけた杭とロープで繋げ、係留します。雲山さんが。

 それまで暇なので、竹水筒に水を汲んでおきます。1/4ぐらいまで入れておき、残りは空気を詰め込みます。山の天然水と天然空気。然るべきところなら資本主義が微笑みかけそうなこの代物は、この後しばらく手に持ちっぱなしにします。
 理由はこの中でこっそり水魔法の修練をするためです。今回は滝行によって熟練度バフが付いてるので、第二危険地帯くらいで応用取得すると思われます。ガンガン|魔法キャンセル《まほキャン》していきましょう。

 ……あれ? 何で繋留に錨使ってるんですか。この船、別に錨を使うほど大きな船じゃないはずですが。ロープだけでいいじゃないですか。
 ああでも、今日の川は錨を使うほど速い流れなので適切で……

 速すぎませんか?

 あ、でもその流れの中から河城にとりさんがいらっしゃいました。少なくとも河童が川流れない程度ではあるようで……

 なんかリュックゴツくないですか?

「ちわー。いやぁ、助かったよ。点検したとはいえ、すごい急流なもんでみんな尻込みしちゃってさ。あのわかさぎ姫も断ったなんて噂まで流れて、益々来なくなって」

 ……死にませんか?

 おかしいな、このゲームを始めたばかりの頃はもっと穏やかだった気がするんですけど。皆が優しかっただけでしょうか。それとも目が衰えただけでしょうか。最近外の世界ルート構築してて気付いたんですけど、向こうは至る所に水力発電があるんですよね。なのでどの川も緩やかでして。

「とと、本題本題。改めて確認するよ。まずルートはこの通り。そして危険地帯はここ」

 数は決まって四ヶ所です。
 場所はこのときに決まるので、ざっくりペース配分等を考えておきます。

「で、うちの目的は下った際のフィードバック集めと、危険地帯の実践把握だ。そしてそちらの目的は修行。これでいいね?」
「ええ、問題ないわ」
「じゃ、これに基づいてこっちもサポートするよ。一つ地帯を抜けるたびに、成果に応じて修理する。そのための資材と修理人は乗っけてもらった通りだ」

 成果とは何ぞやって感じですが、要はスコアのことです。危険地帯の岩肌をグレイズするとより高スコアになります。ストーリー上は「その情報によって近づいても大丈夫な範囲がわかるから」とされています。これがゲーミフィケーションか。

「地帯内で制御不能になったら、緊急修理に移る。資材を多く使うんで気をつけてね。資材は足りなくなったら空輸するから、残量は気にしなくていい。そん時の費用もこっち持ちだ。臆せず調査してくれい」

 なお、緊急修理時は停泊します。当然遅くなるのでさせません。スコアも全く狙いません。とにかく素早く駆け抜けることを意識します。
 

「以上だ。なんか質問あるかい」

 そのリュックには何が?

「ん? これ? 水泳補助装置だけど。万一君等が川に落ちたら、助けに行くのは私等河童の仕事だからね。遅れてお釈迦になっちゃ、まだ困るだろ」

 そうですね。
 それはそうなんですけど。
 どの周回においてもそんなの聞いた覚えがないんですけれど。
 空中ならいざ知らず、水中はいつも生身で「河童舐めてんじゃねえぞ」って感じだったじゃないですか。

「早く行こうよ! 私、もう待ち切れない!」
「楽しみだー」
「よーそろー! あ、実際川に落ちたらどうするの? 何もせずとも助けてくれる?」
「そんなうまい話はないよ。そうさなあ、上に赤のクナイ弾でも撃ってくれ。救難信号として助けに行くさ」

 赤の……クナイ弾……?
 ……誰か撃てましたっけ? 

「……豊夏!」

 えっ、まあ、撃てないこともないです。通常弾幕をカスタマイズすれば。
 廃洋館で使ってましたが、何かしら科学以外のスキルを取得するとしれっと通常弾幕が撃てるようになります。これの弾種や軌跡は|CP《カスタマイズポイント》によって管理されています。
 で、CPはスキルの起点を覚えたり熟練度を上げたりしたときにおまけで付いてきます。ご存知のとおり今まで一切使ってないので赤クナイ弾くらいは余裕で買えます。
 
 というわけで安定のために買っときます。ほとんど衣服と同じオシャレ要素ですし、三日目くらいまでメニューを開くロスを考慮してほっとく予定だったんですが。必要なら仕方ないですね、落ちた瞬間にRTA終了なんてしたくありませんし。あ、どうぞどうぞ。皆様二本ずつ。並んで並んで。

「助かるわ。よし! これでもう憂いはないわね!」
「いよいよかい? おっけー。河端から幸運を祈ってるよ」

 
 そう言いながらも河に飛び込むにとりさん。あの方が躊躇なく飛び込みましたし、やっぱりただの杞憂だったんで……

「がっ! がぶ、ごぼぼっ!!」

 ……流されてますね。

 ……しょうがない。

「わふー……っ! にとり!? 何やってるのよ!」

 未だに陰陽玉を追ってた椛さんを呼び寄せ、救助させます。
 これで犬走さんを引きはがせるので、陰陽玉は迂回させて手元に戻しておきましょう。

「……さあ! 落ちるなよ、皆!」
「雲山! 悪いけど、サポートメインでお願い!」
「これは……」「そうだねえ、こころちゃん。ちょっと本気でやんなきゃね」
「豊夏! 先輩の側、離れないでね!」

 ついに皆さん、事態の重さに気づいたみたいです。ここで辞めるという選択肢がないのは実に幻想郷だと思います。まあ生きるか死ぬかで言うなら弾幕ごっこのほうがよっぽど危ないですからね。思考が修行から弾幕ごっこに切り替わっただけとも言えます。

「あっ、皆さーん! 出発するんですねー!」
「それじゃあ作戦を……ん? 巫女さん?」

 早苗さんがこちらに駆けてきました。あの、これ以上時間取られるのはちょっと辛いんですが。何でしょうか。

「良かったー。諏訪子様が是非にとおっしゃっていたので……皆様の船旅に、いい風が吹くように祈らせていただきます!」
「おお! ありがとうございます!」
「助かるわ!」

 あ、はい。どうぞどうぞ。皆様神にも祈りたい気分でしょうし、私としても良い風が吹けばタイムが縮まるので断る理由はありません。どーんとやっちゃってくださいな。諏訪子様っていうのが引っかかる? あの方は善神ですから大丈夫ですよ。心配ありません。

「それでは、抜錨したら同時に風を吹かせますので! よろしくお願いします!」
「よろしくー!」
「頼んだよー! ……さて。改めて、作戦を伝えるわ」

 そんな大仰なもんじゃないですが。まず、操舵手は水蜜さん確定です。次に全体のサポート、及び岩破壊等の緊急回避が一輪さんに雲山さん。事前の危険探知が響子ちゃんとこいしさん。残りは遊撃です。帆を畳んだり危険探知を代わったり無理矢理船の方向変えたりってそれ最後一体どうやってやるつもりなんですかこころさん?

「蹴る」

 なんか滅茶苦茶なこと言ってませんか?

「冗談だ。棹を使う」

 なんか滅茶苦茶なこと言ってませんか?
 この船、棹で動くほど軽くないですよ。

「質問は他に無いか! 無ければこれより、修行を開始する! 各員、生き残るためにベストを尽くせ!」
「イエスマム!!」
「散開っ!」

 水蜜さんと響子ちゃん、雲山さんが船首。こいしさんが見張り台。一輪さんは船尾。
 残りは胴の間にて棹を構えます。おいマジか。

「抜錨ぉぉぉぉーーーっっ!!!」
「来たれ大風! 奇跡……」

 さて、そんな事はともかく。諏訪子仕込みの早苗さんが漕ぎ出しをサポートする際、やっておかねばならない初見殺しがあります。普段は忘れても大丈夫ですが、今回は川に落ちたら助からない気がしてならないので忘れずこなします。おおっと揺れに足を取られて転ぶのにこころさんも巻き込んじゃったー。

「痛てて。おい、大丈――」

「『弘安の神風』!」

「ぶか゜っ」

 ――やっておかねばならないのは、風に備えて伏せることです。

「んなっ……!」
「きゃああ!」
「うわぁあ! びっくりした……あれ? 船長!?」
「おおーっ、とっ、とと。危ないや」

 この早苗さんは全力を賭して船を風で押し込んでくるので、立ってると問答無用でぶっ飛ばされます。丁度あの一輪さんみたいに。
 他のうち、こいしさんはサードアイコードをマストに絡め、響子ちゃんは探知のために伏せており、水蜜さんは船長なので平気ですが、こころさんは体幹を鍛えてるだけの芸能人なので平気じゃありません。平気なこともありますけど不確実です。
 なので一緒に押し倒しました。これが意外とうまく狙わないと倒れずただ寄り掛かるだけになりこころさんは豊夏ちゃんより上背があるので頭上から「おい、大丈夫か?」と声をかけられたりします。やだ、イケメン。

「た、助かったわ、雲山……」

 えっ、一輪さん? 高速航空の聖輦船でも散体しない雲山さんがキャッチするんで大丈夫です。

「っ! 雲山! 村紗も飛んでるわ! あっち!」
「……!」

 えっ、何で船長も?

「……届け! 錨符!!」

 まあ良いか。錨をぶん投げるスペル。錨符『幽霊船長期停泊』です。今回は鎖付きで飛ばしてますし、きっちり船体に刺して引っ張れば普通に助かりますね。よしよし。

「……っ」
 

 ……あの、なんで今勢い弱めたんですか。届きませんよそれじゃ!

 ちょっと! 初手船長脱落は流石に辛すぎますよ!? まだ危険地帯一つも抜けてないんですけど! 船長縛りができるのは一部の変態プレイヤーであってRTA走者じゃないんです! 待って、あんなに遠かったら雲山さんも間に合いませんし、えっとえっと、カンダタロープ! を、噛め! 陰陽玉! からの、船長捕まえてこい! の隙に、ロープの逆端を棹に……間に合わねぇ! いや、間に合わす!

「――《《掴んだ》》わね」

 ん?

「雲山! そのまま船首にぶっ飛ばせ!」
「え? 何を、ぉぉぉぉっおおおお!!!?」

 あ。
 きれいな、円弧……

「とらんすふぉーむっ。ネット!」

 を描いた船長が、サードアイコードのネットに引っ掛かって。

「せんちょーっ!」

 最後の勢いを、響子ちゃんが受け止めました。けど……。
 うわぁ、この船の甲板貫いてる……痛そう……。

「おーい。大丈夫かー」
「……きゅう」
「……ありがと……助かった……」

 でも無事ではあるみたいですね。ヨシ! さすが響子ちゃんです。ほらお二人とも、救急キットをご用意しましたよー。

「おおっ。お前、物持ちがいいな。手伝うぞ」
「よっ、と。皆! 無事っ!?」

 あ、一輪さん。ええ、無事ですよ。響子先輩は気絶してますが、水蜜さんは意識があるみたいなんで。ちょっと血は出てますけど大した傷は見当たりません。お二人が「とっさに鎖を掴んで」くれて助かりました。

「そう……! 良かったぁ……」
「休む暇はないぞ。一輪、しばらく代わりの船長を頼んだ。私は二人の怪我を診る」
「そ、そうね! わかったわ! いくわよ雲山!」

 こころさんは能楽やってるので、足首を捻ったりとかの気づきにくい怪我の対処法を良く知ってます。妥当な役割分担でしょう。ただこういう血が出るタイプへの対処法はどうなんでしょう。能楽で血が出る傷って特殊な小道具を使わないと無、

 ――あれ? この血、お二人からじゃない。この向きは……?

「上……!? うわ! こいしか!?」
「わー、ほーたいだー。ねー、ほーか。悪いけど、私を優先できるかな……?」

 え? あ、えっ!? こいしさん!? やばいやばい! 千切れたコードから血が!! 湧き出てドクドク!! 纏めてコード! 結束止血っ!!

「あはぁ……助かったよ……じゃあ、後、頼んだ……」

 ちょっ!? こ、こいしさぁん! しっかり赤クナイ弾ッ!! しっかりしてください! 何でコードにダメージ残ってたの言わなかったんですか! せめて救助が来るまでっ、ってこれ河童を呼ぶためのやつじゃないですか! 河童が来れない今、誰がこの高速船に乗り込めるんですか! 雲山さん! こいしさんを川岸まで運んで下さ

「ぬぅぅぅん!!」
「22,17,142,75,34,103,6,99,34,178,90,90,90,90」

 わぁお、めっちゃくちゃ忙しそう! 岩がガンガン砕けていってる! そうかっ、ここはもう一つ目の危険地帯! 本来なら水蜜さんが巧みな航河術で岩の隙間を縫うところ! それができない今は岩を破壊して進むしかない!
 

 これは不味味です! これを止めて雲山さんを運搬に回せば、即刻壊し損ねた岩で諸共座礁! かといって他の飛べる方がこいしさんを運べば、この速度です、その方は二度と帰っては来れない! その時の脱落者はこいしさん、運ぶためのこころさんか水蜜さん、現在気絶中の響子ちゃん、そしてこの岩破壊に全力を尽くして疲労困憊になる筈の一輪さんに雲山さん! 

動けるのは私と水蜜さんだけになります!

その時の脱落者はこいしさん、響子ちゃん、運ぶためのこころさん、そしてこの岩破壊に全力を尽くして疲労困憊になる筈の一輪さんに雲山さん! つまり動けるのは私と水蜜さんだけになります!

 こころさんを残すのは論外! いくら芸能人でもいきなり船の操作は不可能! ではいくら水蜜さんが船長でも、今の私と二人では船を守りきれない! そして守り切れないなら、運ばれない響子ちゃんと一輪さんが危ない! こいしさんは強いので今適切な処置をすれば治ります! しかしこの二人が大怪我すれば今度こそ修行中断の危機! 主に特に響子ちゃんが危ない!

 どうする、いっそ全員降りて修行中止!? 一輪さんに響子ちゃん、こころさんにこいしさん、水蜜さんに私を担いでもらって雲山さんのサポートで脱出……いや! そうだ、ここは《《その七人だけじゃない!》》 この船にはもう一人、船室内に《《修理人が乗ってる》》んです! 今の風で大体気絶してるあの方! これも探して運ばなければなりません! 
 しかし探して来たところで、運搬の手が空いているのは雲山さんだけ! 全員が運搬に徹するのは危険です! この高速船からの飛び降り、タイミングを間違えば岩に激突! 誰かはタイミングを取るために残らなければならない! それは物理無効、そして岩破壊が出来る雲山さんにしか出来ない仕事です!

 何より、その選択を取るならここまで時間かけて考えるべきじゃなかった! 既に雲山さん、ちょっとラッシュのペースが落ちてきてますもん! 疲労した雲山さんに乗り込むのは危険です! 急に足がかりが消えて落ちかねません! それに一輪さんもあの消耗具合、誰かを抱えて降りるのに十分なスピードを出せるかは賭けになります! 私が頑張ってどうこうなる問題じゃなくなり始めてる! だからこその不味味! 

 ……仕方ない……! かなり計画の前倒しですが、やるしかない! 魔力切れ上等! 竹水……

「あややや……取材時ではなさそうですね」

 ! 貴女は!

「ブン屋? どうやってここに」
「追いつきました。いやー、だいぶ頑張りましたよ」

 射命丸文! 幻想郷最速の文さんじゃないか! ちょっと運んでほしい方がいるんですけど!

「分かってます……が。私は頑張っても二人までしか運べませんよ。この岩場を抜けることを考慮すると一人が限界です」
「なら……こ」

 こいしさん一択ですよ! 知ってますからそんなことは! 早く早く! 雲山さんが持たない!

「そしてこの疲労感……おそらく、この船にもう一度追いつくのは不可能です。また、この速度の船。私の他に乗り込める天狗はいません」
「それって……つ」

 つまりこいしさん一人しか確定で救える方は居ないって話ですよね! 回りくどいな! 早く運んでくださいよ!

「まあお待ち下さい。だから私は全員を助けに来たのですよ」

 何を……!?

「風符。『天狗突風雨』!」

 えっ。ここでスペルカード!? 待ってください! 戦闘準備してないんですけど! 哨戒天狗をボコったことなら後にしませんか! 私まだ空飛べないんですよぉ!

「……大風を、帆に……! 天狗! 貴女まさか、この船を止める気なの……!?」
「無茶だ、ブン屋! この勢いは川だけじゃない! 山の巫女の風の力もあるのだぞ!」
「舵が乱れっ! に、20,48,16,77……!! うらっしゃあ! 金輪殴りぃっ!」

 ん? あ、そっち? あ、あー。良かったぁ……。《《イベントは予定通りに進んでる》》みたいです。こいしさんの派手な怪我で焦りましたが、こうやってスピードを調節してくれるなら問題ありません。暫く見ていましょう。

「それでも……安全に、降りられる程度にはなります。皆さん! 岸が近づいたら、飛んで降りてください! 早」

 ところで、妖怪の山で採れる木材はかなり強度があります。これは弱い木材は山の妖怪たちが暴れることで折られてしまうからです。自然淘汰ってやつですね。そしてこの船の木材はもちろんその木で作られています。人間にとっては加工しにくくて仕方がないレベル。だから響子ちゃんが甲板を貫いたのに驚いたわけです。

 ところで、妖怪の山に帆布のノウハウはありません。海が無いから当然です。だから帆を作れと依頼されたら衣服用の技術で作ります。天狗があの速度で飛んでも問題ない衣服なので確かに通常使用に問題はありません。

 ところで、射命丸文は9.8割位が天狗どころか幻想郷でも指折りの実力者です。元の風を操る力を日々使い込んでいるのに加え、何やかんやあって大天狗の団扇を持っているため、彼女の風はやろうと思えば人里を滅ぼせる域に達しています。そんな彼女は今、全力で帆に風を当てているわけですね。

 ところで、こちらの帆。
 ついさっき逆側から神風を受けたばかりです。

「「「あっ」」」

 そうだね、そりゃ破れるよね。

「……では! 私はこいしちゃんを運びますので!」
「え、ちょ……速っ!?」

 
 はい。こいしさんが文さんに連れられて脱落しました。
 これで船上にいるのは七名。

 健常:こころ、私
 疲弊:一輪、雲山
 軽傷:水蜜
 気絶:響子、修理人

 です。

 正直、進行中のイベントまで生き残れるかも怪しい場面です。が、もはや逃げ場はないので続行します。冷静に考えれば帆が破れただけで、つまり元々止まる気配のない船が確定的に止まらなくなっただけです。こいしさんを下ろすという目的自体は達したので脅威は去りました。そう、ただマイナスから始まっただけ。ここからは先は一方通行です。上へ行くだけなのです。

「……抜け……た……わ……」
「……ぐ……」

 幸い、一つ目の危険地帯はお二人の尽力、それと射命丸さんがスピードを僅かなりとも落としたことで越えました。残り三つを切り抜ければそこは勝利です。止まる気配がなくても、この河を下りきれば《《絶対に船は止まります》》。全く希望が亡くなったわけじゃないんです。大丈夫大丈夫。
 えっ、勝算? ははは、何を馬鹿な事を。《u》イベントの詳細は決まってない《/u》のです。この先にどんな脅威があるかなんてざっくりしか知りません。

「……お疲れ、二人共。ゆっくり休んでて。後は――私がやる」

 しかし幸いはもう一つあります。船長がいる事です。この川下り修行、船長がいるかどうかで難易度が激しく違います。法界の妖精と後戸付き狂化済みクラウンピースくらい違います。まあそれ以前に河のせいで基本難易度が上がってるみたいですけど。
 でも居ないわけじゃないんです。これなら或いは勝てるかもしれない。今ここに道端の雑草並みの希望が芽生えています。

「こころ、緊急回避役を」
「任せろ」
「豊夏、見張りをお願い」

 ええ、勿論。

 そして一輪さんが倒れたことで、水蜜さんがガチモードに移ります。
 今更と思わなくもないですが、今は反目も反省もやってる場合じゃありません。生きねば。

「そして、私が舵を取る。総員。私達の背後に、守るべき者がいることを忘れるな」

 忘れるわけがないですよ。だって、修行続行不可はリセットですから。もちろん私が死んでもリセットです。それなら誰も死なせません。死なせるわけがないでしょう。今は。

 さて。深呼吸を――……ひとつ。

「行くぞ! 目指すは最終地点!
 『大蝦蟇の池』である!」

 第二ラウンド。切り替えていきましょう。

弘安の神風
 他の風系、弱いやつか台風しか持ってない早苗さん。