絶対終わらない(確信)
ちょっと改行を増やしてみました。
RTAは確定的に一歩引きますからね。
冷静なんですよ。
それに敵自身も飛ぶのが当たり前なので、このままだと敵の通常攻撃が不可能弾幕になりかねません。反則? 犯したいなら正邪へ。
『潮盈つる願わくは今一時を』
……帰ってきませんよね? よし。
さあ次のことを考えましょう。我々もずっと空を往けるわけじゃない。そろそろ着陸地点を見なくてはですね。
わー、緑鮮やかな平原だー。青々と染まっててとても綺麗……ん? 誰かいる……?
「どうだべ。うちの張った結界は機能しとっか?」
あ、坂田さんですか。良かったあ。坂田さんくらいなら着地点にいても問題ありません。こんなに大きくて隙だらけな船、軽々避けてくれることでしょう。
……誰と話してるんですか?
坂田さんといえばとにかく閉鎖的、必要以上に誰とも関わらない孤立キャラクターです。
その無縁さたるや、急に居なくなっても暫く誰も気づかないほど。
攻略サイトでは鬼人正邪に並んで大人気のお方です。
そんな彼女があんな親しげに交流する相手がいるのでしょうか?
「ああ。助かったよ、ネムノ。浸水しなくてよかった」
…………。
………………。
……へー。意外、だなあ。
坂田さんって、《《依姫さん》》、と、仲が良いんだぁ。
つまり山と月って交流があるんですねえ。金属蜘蛛を差し向けたくらいだし、蛇蝎のごとく嫌い合ってるものだと思っていたんですけれど。へー、そういうことするんだあ。山の懐って大きいなあ。
「これで今年の煙草も安泰だ」
いやプラスですこれは僥倖、山の関係性だの何だのややこしいことを全部無視して目の前に集中すればこれは間違いなく私の望んでいた未来でした。依姫さんは強い方です。避けることも容易ですしなんならこの船をまるごと破壊することだって可能でしょう。そして私は船の破壊を望んでいたのですから利害の一致。どちらに転んでも私の勝利。
「……なあ、ネムノ」
「なんだ?」
「お前の結界、あれも止められるか?」
「あー? なーに言っとう。ありゃさすがに無理だべ。はっはっは!」
「笑ってる場合じゃない! ……煙草は惜しいが……避けるぞ!」
「はっはっは……いんや、その必要はねえべ。それより、茶の準備だな。あとは包帯も必要だ」
「は!? 何を……」
「……すまないな、皆」
えっ。
「こころ、先輩……?」
「私はここまでみたいだ」
「そんな! どこか痛めたんですか! 見せてください、包帯巻きます!」
「違う、そうじゃない……」
そうじゃなかったら何ですか。どうして縁に寄る必要があるんですか。おい、やめろ。このまま行っていいんです、死者なんて出ません。あの二人なら避けてくれます。貴女が何かする必要なんてない。我々にはあなたが必要です。
「そうじゃない。このまま、着地したとして……あの草はどうなる。あの二人が育てているらしい、あの草は」
草がなんだって言うんですか。あなたの命の方が大事ですよ。
「悪いな。時間切れだ」
「私は正直者だからな」
こっ………こころさぁぁぁぁああああん!!!
あのアマァ! 草と人間比べて草を取るやつがあるかァ!!
私等の命は草以下か、それともさっきまでの大立ち回りは誰でもできるから大丈夫だとでも言うつもりかテメェェ!!
次なる新キャ……えっ、あれっ!?
見間違い……ですよね! そうですよね! 誰かそうだと言ってくれ!
ちょっ、ばっ、馬鹿じゃねえの! 何でこんなとこにいるんですか!
「これで今年の煙草も安泰だ」
よっちゃんさん!?
あーもうめちゃくちゃだよ
口の中に魔力を溜め込み、吐き出すと同時に火魔法に変える火遁
魔力ループ
魔法キャンセル、魔力残る、残った魔力で魔法、さらにキャンセル
これで熟練度荒稼ぎ、とはいかない
非正規魔力では熟練度は上がらない、他人の魔力なのでバフがつくだけ、むしろ変な癖がついて普段の魔法が上手く行かなくなる
というか非正規魔力、実は内部で魔力の質として博麗霊夢のデータを参照している
博麗霊夢はインデックス0だから
そして霊夢の質は退魔、そりゃ使えんわ
といってもあくまで支障であり、リセットではありません。これを見越したチャートも組んであります。だってこのショートカット、体感成功率70%くらいですもん。そりゃ上手くいかなかったときのことも考えたくなります。
勿論、それは成功を狙っていったときの話です。
今回は確定で失敗するので気が楽。
なぜなら、今回は想定よりかなり早く飛んだからです。
失敗すると保全作業やらなんやらで山から蹴り出されます。また、次に山に入ったときにガチで命を狙う奴が出てきます。遅かれ早かれそういうのは出るんですけども。
成功したほうが熟練度も多く、また大蝦蟇の池で取れるとある魔法の起点ロック解除もできます。出来るなら着水した方が良いでしょう。
……しかし……しかしですよ!! そんなこと、山から一刻も早く出られるなら些細な違いッ!! こんな、何も分からない、得体の知れないモノが居る場所になんていられるか!
幸い、この平原ゴリゴリは本来「竹水筒が魔力を入れ切れないほど小さい」などのリカバリーにも使うルート!
着地点が平原であるため、本来の着水ルートよりも飛距離を稼がずに済む省エネ設計!
故に余る魔力をふんだんに使用して! この先のチャートはちゃーんと組んでありますともッ!
だからいける!! 私は帰る! こんな修行、とっとと終わらせて! いつものRTAに帰るんだ!!
「休憩は済んだわね? 雲山! そこよ!」
「あーー……あれ? 止まって……っ! 一輪さん! 雲山さん!」
「な……何? 危うく、置いていかれるところでした……おい、修理人。無事か?」
「ああ、ありがとう。……もう離していいぞ。私も、そんなふうに甲板に突き刺すものは持ってるから」
「そうか? はい」
しかしわずかに逡巡しました。
何故なら、滅多に拾えない『穢那の火』を拾っていることを思い出したからです。
リセットするのは、この火がどれくらいタイム短縮効果を持っているか確かめてでも遅くない。
そう思うと、手が止まりました。
「く……ぅっ! 逃すか、侵入者ッ!」
椛さんが咄嗟にマストにしがみつきました。
ちなみに、現在マストには十字架があり、十字架には雛さんがいます。
つまり必然的に抱き合うことになります。
「待って! ……ぉ、お腹は今駄目……もうちょっと、別のところを……」
「ん!? と、ここか!」
「んっ……」
水魔法で滑り降りつつ、雛さんを磔にしてるロープに狙いを定めて。
「え?」
「え、」
火魔法。アンド、懐からの変哲ナイフ。
これでロープを切ってやれば、雛さんに掴まってる椛さんもセットで落ちて行きます。
先程までのスピードの比じゃなく動いているのは、余った魔力を全部身体強化に打ち込んだからですね。目にも止まらない速さで手足四箇所のロープを切ります。
肉体がついてってないので代償として体力が減りますが、いつものことだな。
「――っ! 雛!」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから付いてこないで! やっ、やることが、あるんでしょ!?」
雛さんも飛べるので問題ありません。
その事を思い出した椛さんが、再び船に戻らんと向き直り、全力で飛んできます。
しかし焦りが見えます。一直線でとても狙いやすい。
「!? ……かっ……壁……!?」
法壁(小)。
たとえ見えていても、回避不能なスピードで投げれば問題ありません。
肉体がついてってないので今度こそ右腕が逝きました。後で吊っておきましょう。
しこたま顔を打ち付けた椛さんが落ちていくのを確認。怒り心頭な物凄い形相ですが、流石にここからもう一度来ることは……船が止まるまでは不可能です。もうすぐ止まりますけど。
さて、次のことを考えましょうか。我々もずっと空を往けるわけじゃありませんし、そろそろ着陸地点を見なくてはですね。これを見誤って大蝦蟇の池に辿りつけなかった走者を私は何度も見てきました(n敗)。辿り着けないと後で船の解体を手伝わされてタイムロスになるのでこれは重要な仕事です。チャートはサボらずやっていきましょう。
「……しん……にゅう……しゃぁ……!!」
では、ごきげんよ――
うっ。
――あ、
――!?
・
・
・
犬走椛は幸福な妖怪である。
「先輩!
青々と生い茂る
「
科学スキルは効くくせに、物理という科学は効かない
-
目で見て怪我だとわからなければ、怪我として発現することもない
ギャグ漫画の適用。打撲が軽傷。また腱をぶちきってうごなくなることもない。 -
傷つけるという意志が傷をつける
精神メイン。ゲーム的には一番ぽいが、使い古されてる。 -
科学と物理は別物
お前は何を言ってるんだ -
響子ちゃんは特別頑丈
何故? ただの山彦である。現象に名前のついた妖怪であるが、そんなもん他の妖怪もだいたいそうだ。木霊とかヤマタノオロチとか鎌鼬とか空亡とか。……強くね?
他は鼠に傘に船幽霊にお面に元人間と元獣と……あれ? 1番あり得る?
だ、だとして、科学スキルであっさり殺されるのは……そんなもんか。
……帰ってきませんよね? よし。
さあ次のことを考えましょう。我々もずっと空を往けるわけじゃない。そろそろ着陸地点を見なくてはですね。
わー、緑鮮やかな平原だー。青々と染まっててとても綺麗……ん? 誰かいる……?
「どうだべ。うちの張った結界は機能しとっか?」
あ、坂田さんですか。良かったあ。坂田さんくらいなら着地点にいても問題ありません。こんなに大きくて隙だらけな船、軽々避けてくれることでしょう。
……誰と話してるんですか?
坂田さんといえばとにかく閉鎖的、必要以上に誰とも関わらない孤立キャラクターです。
その無縁さたるや、急に居なくなっても暫く誰も気づかないほど。
攻略サイトでは鬼人正邪に並んで大人気のお方です。
そんな彼女があんな親しげに交流する相手がいるのでしょうか?
「ああ。助かったよ、ネムノ。浸水しなくてよかった」
…………。
………………。
……へー。意外、だなあ。
坂田さんって、《《依姫さん》》、と、仲が良いんだぁ。
つまり山と月って交流があるんですねえ。金属蜘蛛を差し向けたくらいだし、蛇蝎のごとく嫌い合ってるものだと思っていたんですけれど。へー、そういうことするんだあ。山の懐って大きいなあ。
「これで今年の煙草も安泰だ」
いやプラスですこれは僥倖、山の関係性だの何だのややこしいことを全部無視して目の前に集中すればこれは間違いなく私の望んでいた未来でした。依姫さんは強い方です。避けることも容易ですしなんならこの船をまるごと破壊することだって可能でしょう。そして私は船の破壊を望んでいたのですから利害の一致。どちらに転んでも私の勝利。
「……なあ、ネムノ」
「なんだ?」
「お前の結界、あれも止められるか?」
「あー? なーに言っとう。ありゃさすがに無理だべ。はっはっは!」
「笑ってる場合じゃない! ……煙草は惜しいが……避けるぞ!」
「はっはっは……いんや、その必要はねえべ。それより、茶の準備だな。あとは包帯も必要だ」
「は!? 何を……」
「……すまないな、皆」
えっ。
「こころ、先輩……?」
「私はここまでみたいだ」
「そんな! どこか痛めたんですか! 見せてください、包帯巻きます!」
「違う、そうじゃない……」
そうじゃなかったら何ですか。どうして縁に寄る必要があるんですか。おい、やめろ。このまま行っていいんです、死者なんて出ません。あの二人なら避けてくれます。貴女が何かする必要なんてない。我々にはあなたが必要です。
「そうじゃない。このまま、着地したとして……あの草はどうなる。あの二人が育てているらしい、あの草は」
草がなんだって言うんですか。あなたの命の方が大事ですよ。
「悪いな。時間切れだ」
「私は正直者だからな」
こっ………こころさぁぁぁぁああああん!!!
あのアマァ! 草と人間比べて草を取るやつがあるかァ!!
私等の命は草以下か、それともさっきまでの大立ち回りは誰でもできるから大丈夫だとでも言うつもりかテメェェ!!
かわいそうな厄神
しかしタップタプの厄を弾幕として放出したため、人知れず山の滅亡フラグは消滅した。
それを知るのは厄神だけである。
現に地底に居る《《妖怪》》を、山の妖怪として縛るのは如何なものか。
当時の山はそう考え、彼女を追放処分とした。
上がそう考えるなら、下も然り。
ここで下手に顔を出せば、赤河童は山が自分を信頼していないと考える。
信頼するなら、まず信用せよ。
彼女は、そういう取引にまつわる信心には一家言を持っていた。
それが慢心となったのだろう。
向き直った彼女は、気付いていなかった。
自分の後を続く典。
その顔が、笑っていたことに。
この天狗と狐はほっといて、再度舳先へダッシュ。水魔法に専念してたせいでもう身体強化は出せません。自力で走ります。間に合うかはちょっと怪しい。
「えっ。……なるほど」
……っと、間に合いました。
「一輪。村紗。響子。百瀬。――頼みたい事がある」
いえ、それでもいいですね。
「……頼んだぞ、みんな」
一倍頑張れば二倍の成果が出るというユートピアな――
ん、
で。
――!?
悪事には一日で千里を走ってもらいます
出会わなかったので幸運ですが、彼女はこれで足を壊しているので割に合わない大怪我です。
山の上層部は関係の交通事故
なお、明文化はされてませんが特定のキャラから明言はされます。有名なのはやっぱりフランドールさんですね。初見時の「意味が分からんけど聞いちゃいけない話を聞いた」感は本当に楽しい。
この方法はタイミングが重要になります。早くても遅くても着水できず、平原で座礁して個人成績どころか今後の修行構成に支障が出ます。具体的には精神メインになって戦闘できなくなる。
まあそうですよね、誰にも話してない、仲間を危険に晒してる、調査の名目は吹き飛んでいる。これは誰だって精神を鍛え直したくなります。
それでも着水すれば、一応上手く行ったとして厳重注意だけで済みます。しかし平原ゴリゴリ座礁ルートはそれもありません。さらなるタイムロスを引き起こす確定的悪手でございます。
え、それよりさっきの水魔法が気になる?
それは後で説明しますね。今は余裕が無い。
だって今から起きるのは、確定的悪手の方。
座礁ですから。
これは公式チートと呼ばれる霊夢&紫コンビにすら効く最終手段だったりもします。
だからこそ飛んだ! チャートよりも手前、練習の最中で見つけた、《《確定的に座礁する》》ポイントで!
それをわかっていてやるのは普通大ガバと称されます。
本当は……本当は、このチャートは使う予定などありませんでした。手段問わずの
いや、はい。ええ。そうですとも。失敗しながら空に行くなら、この水魔法で自分だけ飛びでもすれば良いのです。船ごと飛ばしてしまうと、調査の名目が消え去るので失敗どころでは済みません。大失敗となります。
大失敗にはデメリットがあり、今後の修行が精神メインになります。すると戦闘の経験が減るため、熟練度が足りず聖戦が厳しくなります。
こんな後の説明が面倒くさそうなことはしなくていいのです。
しかし
これのどこが失敗なのか? ちょっと列挙してみましょう。誰にも話してない、仲間を危険に晒してる、調査の名目は吹き飛んでいる。うーん、これは言い逃れできません。失敗どころか大失敗と言えます。
しかし「大失敗」してしまうと今後の修行が精神メインになります。すると戦闘の経験が減るため、熟練度が足りず聖戦が厳しくなります。それはつらい。
「な……何? 危うく、置いていかれるところでした……おい、修理人。無事か?」
「ああ、ありがとう。……もう離していいぞ」
「そうか? はい」
なるほど。もう少し有益な情報をくれ」
「地図で言うとこの辺に落下する」
「お前、頭いいな」
ただ、上が何を考えていても、龍がやる事は変わらない。
上層部から実働隊へ、その仕事を正確に伝える。仕事がしっかり終わるよう、彼ら彼女らの士気を引き上げる一言を添えて。
やった事は、変わらない。龍の仕事はすでに終わっていた。
故に顔を出す必要はない。ここへ来たのも、結界の調査の為である。
断じて赤河童の視察をする為ではない。
確かにそろそろ船が通ると聞き及んでいるが、あくまで偶然である。
断じて赤河童へ心配など抱いていない。
何故ならその心配は、容易く憐れみに変わる。
龍は許さない。たとえ山から追放された相手といえど、そんな目で技術のプロフェッショナルたる河童を見ることは。
下を率いる大天狗として、山に参加する一天狗として、それは許せなかったのだ。
ちなみに着水だと水魔法の熟練度が一瞬で応用までいきます。また大蝦蟇の池まで行けるので、そこでとある魔法の起点ロックを解除できます。
一方、着地すると保全作業やらなんやらで山から蹴り出されます。加えて次に山に入ったときにガチで命を狙う奴が出てきます。
確かに、遅かれ早かれそういうのは出ます。でも時期というものがありましてね。まともに空を飛べない時に来られては、こちらも不可能弾幕で磨り潰される危険が増えるというものです。
まとめるとこうですね。
着水
水魔法が応用になる
魔法の起点ロックを解除できる
着地
修行が精神メインになる
次に山に入ったとき命を狙われる
こう見ると、着地は何の価値もない大失敗にしか見えません。
見えませんが……、『あらゆるものを禁止する程度の能力』
「何だ? 知らなかったのか」
「分かるほど溜まったのは今日が初めてよ。逆に、何で貴女は知ってたのよ?」
「いや知らないが」
「知らないで磔にしたの!?」
川下りの調査とは、その限界を知るものです。
我々は限界を測ったのでしょうか。
我々は倒れるままの弱き存在でしょうか。
我々は、我々が倒れずとも。
川下りの限界を測る方法があったのではないでしょうか?
「水蜜さん。滝行の後、何を話しましたか?」
「わ、私の舟幽霊の癖が治ってないって……だから、私の」
『水蜜。あなたは、衝動に負けた』
「あんなに教えてもらったのに、できなかった」
『いいえ。教えてもらって、出来てることがあるわ。
だって、今まで出来なかった中で、今みたいに悔しかったことはある?』
悔しかった。やりたい事が、できなかった。
本当はどうすればいいのか、分かっていた。
それが、それすらも考えずに動けるようになれば、あるいは――
今日が、初めてだ。
今日が、始まりだ。
あなたは立ち止まってなんかいない。少しずつ、前に進んでるわ。
その過去を信じて、未来の自分に言ってやりなさい。
私があんたを変えてやるってね。
今日を忘れない。
擦り切れるまで、今日を使ってやる。
衝動じゃないか。
私は、それで船を沈めてしまわないか。
私は変われたのか?
全部テメェを納得させろ。
そうでなけりゃ、お前の頑張りってのは特に意味のねえサイコロだ。
あなただけが、変えられることなの。
ほら、よく言うでしょ? 諸行無常、ってね。
その決意は、無意味ではありませんか。
行動がない。中身が伴わない。
今のままでは、あなたは不誠実な嘘つきのままですよ。
私はまた、失敗した。
何も出来ないままだった。
自分を変えるなら、失敗に背中を押されるばかりでは良くありません。
成功に手を伸ばし、引っ張って貰えばより効果的だと思いませんか。
川下りの調査とは、限界を知るものです。
一つ、見せなければならないでしょう。
挫折だけでは、あなたが本当に成功できるか分かりません。
悔しいと感じた自分を見返してやりましょう。
全力を出しましょう。
限界を見ましょう。
あなたは、あなたが越えるべきハードルを見定めなければならない。
それは、この修行も同じです。
調査をするなら、その限界を知らねばならない。
何処までが許されるのか。今測らなければ。後に伸ばして大失敗では遅い、そう思いませんか?
存分に考えてください。
私は、それを助けます。仲間ですから。
水死体よりかは似合ってますよ、船長。
その問いに応えるように、豊夏は涙を拭い、声を張り上げる。
「この修行の意義は何か!」
突然突き付けられる質問に、
「川下りの実験調査、精神の鍛錬!」
頷く。
「それなら、限界を出すべきだ! 許容範囲を測るが調査、更にそれを超えるが鍛錬!」
頷く。
「故にこの船、加速させます! 舵、頼みます!」
首をひねる。
理屈はわかる、けれど加速? 初級魔法使いの彼女に、この大きな船の加速は出来るのか?
たった一言言い放った。
「何かに掴まれ」
最初の急加速により、船長が落ち、こいしが倒れている
さらにその関係で一輪達も倒れた
船長さえ落ちなきゃ、誰も倒れなかった
川下りの調査。普通にやればどうなるか、我々は身を持って証明しました。
一人が重傷、一人が気絶、二人が疲労。惨憺たる結果です。
なら、我々が次に証明すべきは、調査すべきことは何でしょう?
この川が許容する、限界ではありませんか?
本来であれば、こいしさんが落ちた時点で頼むべきでした。
一人が重傷になった時点で、修行は継続するべきでない。
それでも続けていたのは、船が心配だったからでしょう。
制御を失った船は、容易く座礁し被害を出す。
だからどんな犠牲が出ても、大蝦蟇の池まで運んで止めなくてはならなかった。
重傷者一名、疲労者二名、軽傷だったとはいえ、甲板を打ち抜いた方が一名。修行を続けるにしては、もはや犠牲を払い過ぎました。
しかし、途中で終わらせることはできない。空を飛べる方々が飛んで降りたとしても、船は止まらない。どこかで座礁してしまえば、その被害は甚大でしょう。
それなら、最後までやればいい。大蝦蟇の池、そこまで辿り着けば船は止まるのでしょう。よもや修行でありながら、止める術を持たないとは思えません。
あなたは一度、この船から振り飛ばされた。
伴って、一人の重傷者が生まれました。
船長であるならば、この罪は早めに洗いだほうが良いでしょう。
即ち、もう振り飛ばされないと言える、強い姿を見せるのです。
その行動を持って主張してください。
過去の自分とは違うのだと。
そして何より、終わらせてください。
この不幸を生んだ航海を。
船長。頼みがあります。
私に、この船を加速させてください。
川下りはタイムを競うものです。
なのに、我々はタイムを気にしていない。
それで本当に調査したと言えるでしょうか。
やってみなくてはわかりません。
ならば、この川下りの先達である我々は、やるべきではありませんか?
そして豊夏は再び、船尾へ跳ね戻る。二度目は慣れたもので、厄神がその抗議の言葉を止めることはない。
精々が行きと逆を通ったために、風に揺れる彼女のブロンドが、朝日をちらつかせるのに目を瞬くのみであった。
やがて十字架を過ぎ、喧騒も流れ。その向こうでは、一人の白狼天狗が待ち構えている。
――だが、椛がもう一度顔を上げ、確認したそこには。
同じく伏せ、変わらず竹水筒の《《銃口》》を椛に合わせた、豊夏がいた。
何故なら、豊夏の様子は先程までとは全く違っていたからだ。****
この竹水筒からのジェット水流に椛さんを巻き込んだのは、そういう理由です。
そのまま反作用でスピードアップ。
魔法になり切れなかった魔力が一部その場に残ります。
水魔法の熟練度を稼ぎつつ魔力を竹水筒内に溜めていました。
今回はこのZIM Powerを集めつつ、また熟練度も稼げる、更に狭いフレームを狙ってキャンセルを繰り返していました。
本来、魔法に「使うと魔力が溜まる」なんていう機能はありません。魔力だけを放つスキルが個別で存在する理由が無くなります。
そのためにはまともな戦闘なんかで消耗してる場合ではありません。竹水筒を開き、中身の《《魔力》》を水魔法に全変換。水流で加速と敵の排除を両立します。ずっと水魔法を練習していたのは、このジェット水流を確実に出すと同時、水流用の魔力を溜めるためでした。
これを集めるための魔法キャンセルが『ZIM Cancell』。元々あった熟練度稼ぎの魔法キャンセルの英名が『Mastery Cancell』。そして、今回の新技『Complete Cancell』はその二つを同時に行うものだったのでした。
魔力じゃなく水圧を溜めてもジェットは出せるんですが、容器が容器なのでそれは出来ません。
え? 水魔法に加えて魔力を溜める魔法まで使ったら、魔力切れを起こすんじゃないかって?
そうですね。真面目に魔力を溜めたら確実に切れます。その理想と現実のギャップを埋めるのが最近発見された技、『Zero Index Magic』です。
ここだけ見ると魔法使い垂涎物の魔力ですが、ちょっと考えてみてください。
使い方次第で何にでもなる、超不安定物質である『魔力』が、少量で反応する上に分解されず留まり続ける
この魔力は特殊で、《u》少ない魔力でも魔法を撃てる《/u》、《u》空気に触れてもある程度蒸発まで猶予がある《/u》、といった性質を持ちます。
その名も『Zero Index Magic Power』、通称|ZIM《ジム》|P《ピー》。つまりは、反応しやすく自然に消えにくい魔力です。
反応しやすいがゆえに自分の魔力ではなくうっかりこっちを使って暴発、容器を爆殺なんてことがよく起きます。そりゃ実用化されんわ。
また、ZIMPには《color:red》ある致命的な欠陥《/color》があるため、うっかり使ってもまた溜め直せばいい、とは言い難いです。
・
言い切るが早いか、
彼女が構える、
さっきまで水を放っていた竹の水筒の、
蓋が外れ、
私の目に映る中身は、
ただの水と、
どろりと溢れ出す、
「それ」は、
・
実際、焦ることはない。船上の妖怪達は知らないが、山は義理にとても敏感なのだ。それは今でも、卑怯なことやをすれば、どこからか鬼が来てこっぴどく絞られるのではないかという恐怖心を持ち続けているからだった。
そんな山には、修行の手助けはすれど、一線を越える理由はない。
豊夏がたとえ見るだけで分かる悪鬼羅刹の如き性格であったとしても、出会って精々一日弱。
彼女は、それ以上に取引相手として山を信用しているからだ。幻想郷の人間を殺せば、この楽園は潰える。
山登りの時、一輪は先輩に必死に追いつこうとする豊夏を見ていたからだ。一線を越えるつもりでいる相手に、負けることはない。
豊夏と椛の織りなす、激しい近接戦。
そこへ一歩一歩、近づく影があった。
「……」
「……大丈夫よ、雲山。だいぶ回復したわ。見届ける分には、差し支えない」
雲居一輪、そして雲山だ。極度の疲労により休息を取っていた二人は、結構暇だった。
なにせ川下りだ。体を動かせないなら、何もできない。一応呼吸を整えて回復を促進してはいたが、それももう無意識にできる。唯一の話し相手だった修理人も、厄神が乗ったことで修理に本腰を入れるようになり、いよいよ危険の予測しかすることが無くなっていたのである。
そこへ、二人が船尾に投げ込まれた。
つまり船の制御組と、戦闘組に船が分断されたのだ。
暇を持て余した一輪は、自然とその間の通信役を担おうと、身体をよろめかせながら、屋形の船尾側の壁へ向かっていた。雲山はその付き添いだ。
「……」
「それは……気にしすぎよ。山に話は通してあるんだから、一線を越えるなんて……」
そう言いながらも、一輪は足を早める。
ただ心配なだけなら、そうしなかった。山とは領空の関係などで何度か話し合っている。一線を越えることは無いと信用しているのだ。
仮に、豊夏がその線を越えてもいいと判断されるほど悪鬼羅刹の如き性格であっても。山を借りた修行中の今、線を越えれば山の信用は地に落ちる。たった一人の命と何百人が暮らす山の信用を天秤にかけて、一人が勝つなどありえない。よって、もし今何かあったとしても修行の範疇に収まるだろう。一輪はそう踏んでいた。
だからこそ、焦る。
(……何が、起きてるのよ)
次第に騒がしさを増す二人の戦い。
その渦中に、異質な何かがある。
屋形の向こう側で、少しずつ、少しずつ気配が大きくなる。
それは荒々しく、それでいて優しくもあり、どこか聖に似ている気配。
聖に法力を習った一輪は、それが何なのか知っていた。
二人は戦ってる
荒々しくも優しい、
幻視した魔力は、少しだけ聖に似ていた。
こちらが、その範疇を踏み越えない限り。
けれど、それでは説明がつかなかった。
一輪がチリチリと感じている、《《濃い魔力の気配》》は。
「何だ、今の急加速は! おい、船長! 何した!」
「分から……ない! ごめん! 船尾に聞いて!」
「
「……」
「分かってるわ、雲山。……豊夏! 聞こえる!?」
さて、撃ちっぱだと体に悪いし、暴走を疑われるので止めて。
「自分の力に負けないで! とにかく落ち着き……凄く落ち着いてる!」
本当は、完全に得体の知れない|相手《神》が居る所で空に出るなど愚の骨頂です。的になりかねません。ですが、的になるならむしろ好都合。それで船を壊してくれるなら100点です。船が壊れれば確定で修行を中止できて早く山から出られるので。
「――これなら、問題無いだろう。……しっ!」
一瞬のスキを突かれ、陰陽玉が蹴っ飛ばされてしまいました。私の方に向かってきます。
そこで身体強化の強度を活かし、まず足にトラップ。勢いを殺さず、かつあらぬ方向へ飛ばないようにホールドし、真っ直ぐ弾き返します。どう見ても気力スキル『柔牙剄守』なんですが取得できません。やっぱり手でやらないといけないんでしょうか。
もちろんこれだけでは躱されるので、糸を踏んで陰陽玉を止め、手動操作で追撃。
上司は、その椛の初仕事が上手く行くようにと、陰ながら助力していたのだ。
ただ音を出すだけ。それなら、全くなんなのか分からずじまい。特に八ヶ岳周りで誰それが消えたとか、死んでいたとか、そういう恐怖の「タネ」が存在しない。それでは、恐怖は一過性で終わってしまう。だからこそ、上司は種を撒いていた。人に化け、人に交じり、人に教える。あの音は何か?
――天狗です。天狗の仕業に違いありません。
私は、「天狗倒し」という怪異を知っているのです。これは、それによく似ている。
かくして、種は育ち、山の天狗全てに向かう恐れをもたらす「ネタ」となっていた。
本当に、天狗の仕業ならばそれでいい。
だが、それが他の妖怪の仕業であったならどうなるのか?
考えるまでもない。他の妖怪は天狗に統合され、その力を失い消滅する。
悪かったのは――マニュアルの不備。
上司は、その仕事をやる意味というものを伝えるべきだった。
自分の名前を広めるという条件付きで教わったものだった。以来、その妖怪とは会っていない。
殺すつもりはなかった。
ただ、手本を。こうすればいいのだと、そう教えてやりたかった。
それすらも、妖怪の生を捻じ曲げる行為。
そうあれかしと願われた妖怪たちを、殺してしまう力だ。
幼くして、少女は妖怪の理を一つ知った。
中段蹴り。
その言葉が終わるや否や。豊夏の手が、眩く光り始める。
先の戦闘で魔法を見た身だ。自然と手元を注視していた椛は、その光をまともに受けてしまう。視界は眩み、瞼の裏で明滅する。このままではあの火魔法に焼き焦がされる、その恐怖が椛の頭を支配した。
豊夏は器用に胸元まで陰陽玉を蹴り上げる。そして真っ直ぐ椛へと蹴り込んだ。
もう動かないとはいえ、さんざん手こずった相手だ。躱せる速度ではあったものの、椛は自然と警戒し、防御の構えを取った。
それでも警戒は怠らない。額に汗が伝うのを感じながら、椛は千里眼の維持を続ける。見えたのは豊夏の手。それが懐へ伸び、何かを掴む瞬間。
「……!」
その隙を許すほど、山は甘くない。片腕の構えを解き、懐から素早く木の葉を取り出し、妖力を流し込む。そして陰陽玉を躱すと同時、椛はそれを豊夏に向けて投げつけた。
妖力スキル『木葉礫』。妖力で硬質化させた木の葉を投げつけるだけの、さして脅威でない技だ。加えて今の椛は陰陽玉を躱したことで大きく体勢を崩しており、仮に受けたとしても彼女が追撃することはできない。ともすれば、それは苦し紛れの反撃にすら見えた。
――しかし。
それが犬走椛の技であるなら、話は変わってくる。
「折れよ『古杣』!!」
空を切る木の葉が、ふっ、と姿を消す。
次の瞬間、豊夏の耳の内で轟音が鳴り響いた。
妖力スキル『古杣』。込めた妖力を音に変え、ある対象のみにその音を聞かせる技。音の大きさを調整すれば、成人男性一人程度なら昏倒させられる。
椛がこのスキルを身に着けたのは、まだ天狗社会の下っ端も下っ端であった頃のこと。人間にいい感じに恐怖を与えろ、という上司の無茶振りに悩み、気分転換に山中を走り回っていた時のことだ。そこで出会った消えかけの妖怪から、自分の名前を広めるという条件付きで教わったものだった。以来、その妖怪とは会っていない。
故に、このスキルを使うときはその名前を叫ぶ。
たとえ上司が「天狗倒しのほうがしっくり来ない?」と言っても、椛はそれを止めない。
そして何より、昏倒だ。見た目は報復だとしても、妖怪が人間にあまり攻撃を重ねると、博麗の巫女による退治対象になる。一人だけ、昏倒だけというのは、その対象とならないギリギリのラインだった。
(それでも……やり過ぎたか)
膝から崩れ落ちていく豊夏を見ながら、椛はぽつりと考える。
最初の一撃目を躱された時点で、椛は豊夏をかなり強い人間として見ていた。そのため『古杣』もフルパワーで打ち込んだ。仮に相手が見た目通りの少女なら、三日は耳鳴りに悩まされるだろう。それほどの火力だ。私怨七割とはいえ、少しだけ椛は申し訳無さを感じていた。同時に、咄嗟の調整が効かない自分への不甲斐なさも。
――だが。
それもまた、豊夏の前では話が違う。
(……待て、懐に手? どっちの?)
右であるはずはない。さっき潰したばかりだ。痛みが引いたとて、あの速さで動かせるわけがない。
けれど、左は竹水筒を持っていたはずだ。懐に入らない大きさの水筒を。それはどこへ? いつ消えた?
半身から大きく陰陽玉を振りかぶる豊夏がいた。
その隙を許すほど、山は甘くない。
瞬間的に足に妖力を流し込み、一息で距離を詰める。
懐から素早く葉っぱを取り出し、妖力を流す。
古い話だ。特に生まれ持った才能のない椛は、木の葉天狗ならぬ木っ端天狗とまで呼ばれていた。
その弾道、その速度を予測する。確かに自在に動いていたが、何も予兆無しの加減速をしていたわけではない。慣性が効いている。最高速を出せば簡単には止まれないのだ。だからこそ、あの糸で補助していた。その補助も、右腕がないなら急な減速はほぼ不可能になったと見ていいだろう。そして糸である限り加速は不可能だ。
唐突に豊夏が、椛へと竹水筒を突きつける。
ついさっきまで水魔法を飛ばしていた水筒だ。警戒せざるを得ないが、さりとて気を割きすぎればただでは済まない。今までの水流から計算し、最小限の動きで避けられるよう、椛は瞬時に身体を捩った。
「!」
その刹那に生じる、小さな違和感。
彼女の視線の先では、黒い穴がぽっかり口を開けている。
竹水筒の先に付いていたはずの蓋が無くなっているのだ。
抑えを失った竹水筒からは、当然たぱたぱと水が零れる。汲んだばかりの新鮮な水が、惜しげもなく甲板に打ち付けられ、夏の大気へ溶けていく。それは単なる不法投棄にすら見えた。
けれど、違和感の正体は《《そのどれでもない》》。
開く竹。漏れ出る水。転がる蓋。加えて見えた、『それ』だ。
記憶が過る。魔法使いを相手にした時、何度も受けた感覚。
肌に感じる。それら全てのどの過去よりも、遥かに濃く粘ついた気配。
瞬時に判断する。
何が起きるのか。
何をするべきか。
緊張が肌を灼く。
そして理解する。
――遅い。
発動したまま、ずっと警戒していた千里眼。
そこに豊夏が叫ぶ姿が映る。
ぜ、ん、しょ、う。
その言葉の意味を考えると同時――
竹水筒はそのまま投げると途中でひらいてしまう
陰陽玉に包み直すか、札で蓋して先の川にセットする
そのためにはもみじに空きを作らないといけない
千里眼で全部見えてる相手に隙? やっぱ閃光ですかね。
ざっくりは分かってるので、この先の危険地帯を抜ける方法もわかってる
直線上()の道を跳ねつつ、
懐から札を取り出し、竹水筒を封。自分の力、進行方向、川の形状諸々全てを計算し、いい感じのところへ竹水筒を投げ込みます。言い換えると、誰にも目撃されない状態で竹水筒を所定の位置にセットします。
「えちょっ、今!? えっと、豊夏! 問題無いのね!?」
当たり前ですとも、と返して余った魔力を身体強化に全注入。前方斜め上にジャンプします。
うーん、いい眺めですね。ここから水の流れより水深を見抜き、通常弾幕で正解ルートをマーキングします。水蜜さん、ここ通ってください。
「分かった!」
「すっごい元気……だけど! 雲山! 86!」
落ちるギリギリまでマーキングに勤しみ、点を稼ぎます。
最後は
何故失敗する必要があったのでしょうか?
山岳をたくさん入れてもらうためです。
山岳を入れてもらうと何がいいのでしょうか?
色んなスキルを身に着け、タイムを安定させられるからです。
その安定と、この天弓千亦という、『得体の知れない神』が居る山とこの先も関わり続ける不安定。どちらが上でしょうか。
「――がぼっ!!?」
前言撤回。
山岳、完全クリアします。
「ま……間に合わ、あ。あーーー!!」
「しまった! 響子!」
というわけで撃ちました、《u》水魔法《/u》。魔力を水に変え、流れを与えて撃ち出す基本的な魔法です。単純ですが、それに「竹水筒内に溜まった大量の魔力」を足すと、このように一瞬で《《船の加速》》と相手の押し流しが両立できる強スキルと化します。
「雲山! 17よ! 悪いけど、頼んだ! 私は豊夏を止め……!?」
いつ水筒に魔力なんて溜めた? となりますが、これは水魔法の練習と一緒に溜めていました。
本来、魔力を溜めることは簡単じゃありません。魔理沙さんリスペクトの廃棄物法は対策が無いと猛毒、魔力だけを撃つスキルはレア上級スキル。
そもそも、魔力はより薄い魔力に希釈される性質があるので、魔界以外の空気中に置くとコンマ秒単位で蒸発します。なので何らかの方法で密閉容器を用意する必要もありますが、RTAにそんな時間はありません。
この詰み状態を解決したのが最近実用化された技。
『Collect ZIMP』です。
「あーー……あれ? 止まって……っ! 豊夏!」
一瞬で十分なので、使い終わったらちゃんと止めましょう。ここで響子先輩をキャッチできなくなります。
「豊夏!? 魔法の暴走じゃなかったの!?」
特定フレームで魔法をキャンセルすると、魔法に使うはずだった魔力の一部がその場に残ります。非公式名称は『Zero Index Magic Power』。性質として、少ない魔力でも魔法を撃てる、空気に触れてもある程度蒸発まで猶予がある、といったものがあります。
つまりは、反応させやすく自然に消えにくい魔力。それが通称ZIMPです。
というわけで、これを集める魔法キャンセルが『Collect ZIMP』です。消えにくいので適当な容器でも問題ありません。簡単に集めて好きな時に使えます。かなり革命。
ただし、この技自体は意外にも難しめです。元々これRTAで使えるんじゃね、という話はありました。
しかし反応のさせやすさ故にこっちを消費してしまい一向に集められなかったり、自然に消えにくいが故に漏れに気づかず環境を汚染したり、《color:red》もう一つの性質《/color》により激しく練習が面倒臭かったりで実用化までは時間がかかりました。
それでも練習すれば出来たので、これから走る皆さんも出来ると思います。私もやったんだからさ。最後の性質については影響を受け始めたときに解説します。
ちなみに、熟練度が貯まる魔法キャンセルの猶予フレームとは3fほど被っています。何だ余裕だな。
「舵……問題、無い! 真っ直ぐなら得意よ! 響子! 前方、監視できる!?」
ここで余った魔力を身体強化に全集中。響子先輩を船首に投げ返します。この対応をするために、雲山さんにキャッチさせるわけにはいかなかったのでした。
「あっ、わわわっ! えっと、来ました! 第三危険地帯! 河床浅帯!」
やってまいりました、第三地帯。河床浅帯は川底が浅く、それゆえ水の勢いは強く、正解ルートを瞬時に見抜かないと容易に座礁、転覆する場所です。どうしたもんでしょうか。
「このスピードなら……! 皆! もうちょい伏せてて! 真っ直ぐ、最短で行く!」
答えは簡単、船長に任せます。
座礁も転覆も、船を傾けるほどの力が掛かってしまうから倒れるのです。その傾きをものともしない慣性があれば問題ありません。脳筋も極めれば万能理論です。
「右も左も向かせない……! 当て舵、全力っ!」
普通ならそんなの船が持ちませんが、妖怪の山製ならヘーキヘーキ。
さ、次に行きましょうか。
「抜けたぁっ!」
「……っ、はっ! 何っ、今の! さっきの、ブロンドの……貴女がやったの!?」
踏み込んだところから二次元的に幹が出現。それが対象に到達すると、そこから三次元的に上に幹が伸び、
やられた後にそれしか見えないというアッパーカット
そも幻想郷では美しい時点でもう勝利したようなもんです。
うーん、これは威力不足!
それと一緒に、条件を満たしたときの結果が【確定強化】から【条件を満たした数だけ強化確率アップ】に変わりました。ある一定数を満たせば100%を超えるため、RTAに直ちに影響はございません。
失敗で本来のRTAの記録が出ないので、川下り単体RTAだけ更新する
また他にもメリットがありまして。山の上層部からの評価が上がります。種族差別の年功序列と言われるのは一部の話、こうやって強い力を持つことをデモンストレーションすれば、山はちゃんと評価してくれます。まあ評価三割警戒七割ですが、|命蓮寺《そと》所属を評価するだけ山的には実は進歩。
それが何なのかというと、この先の山岳修行にあたっていざというときのリカバリとして役立ちます。なんて有り難いのでしょうか。このルートをやりすぎて本来の川下りルートを忘れたぐらいには有り難いです。本来なら。
……今回は山に『天弓千亦』という得体のしれない何かがいます。いつもの上層部なら前述のような評価を貰えますが、何かがいる山が同じ評価をしてくれるかは分かりません。分が悪いどころか分が解らない賭けです。そりゃ泣きたくもなります。
というか本来はやる必要すら無かった賭けです。こんなのがいる山に何で関わってるんだ、と思ってちょうどこの時チャートを見返したんですが、そこにはちゃんと「響子情報 この先山無しチャ」と書いてありました。メモは書くだけじゃなくて見返しましょう(1敗)。