孤独になっても、夢があれば。
 
 夢破れても、元気があれば。
 
 元気がなくても、生きていれば。
 
 生きていなくても――
 
 
 
 「――死なずにいれば。でしょ?」
 暗闇の支配する地の底に、不釣合なぐらいに彼女は笑って言った。
 「座右の銘ぐらい最後まで言わせてよ、こいし」
 「だって、お姉ちゃんも好きな言葉だもの。つい口をついて出ちゃった」
 私の抗議を軽くあしらう。意にも介さないというふうじゃなく、あくまで非礼を詫びるように。それが彼女、古明地こいしと私の違いだった。
 「ふうん、不思議ね。この言葉は伝え聞いた物なのに。さとりも同じ言葉が好きなんて」
 「悪事が千里を走るなら、言葉は万里を駆けるのよ。特にこの地底じゃ、駆け巡るのに三日と要らないわ」
 「恐ろしい話ね。変わらない妖怪達より、よっぽど」
 私は地底の連中を思い返しながら言った。
 千年前から宴会を続ける鬼。
 千年前から不幸を振りまく蜘蛛。
 千年前から橋に立ち続ける橋姫。
 誰も彼も皆、己を曲げず生きている。それこそが至上の喜びだと言わんばかりに。
 たった一つ、『妖怪は人を襲う』という事実すら、貫き通してしまったからここに居るというのに。
 私には理解できやしなかった。変化を生業とした私には、きっと、この先も。
 「あら、あなたも変わらない妖怪の一員よ。正体不明さん」
 未来に思いを馳せる私を、こいしがぐいと引き戻す。まるで心が読まれているかのように、絶妙なタイミング。
 「……はっ。どこを見ているのかしら?私ほど変わる代わる妖怪もいないつもりだけれど」
 不敵に笑いながら、彼女のサードアイをチラリと見る。瞼、閉まってる。どう見ても。……読まれてないよね?
 「いーや、逆ね。そうやって本心隠そうとしてバレバレなところ、出会ったときからちっとも変わってないわ」
 「えっ」
 「心を読む必要もないのさ、封獣ぬえ。もはやお前の考えは、私の手中にある。そう、お前の考えていることはズバリ」
 「えっ、ちょっ」
 「『今これどこに向かって歩いてるの?』だ!!」
 「違っ……いや、合ってる、合ってるけど!」