唐突だけど、質問に答えてほしい。
 私には妹が一人いる。金髪で、縦に髪を巻いていて、紫の柄付きの羽織を着ている。指輪やネックレスをいっぱいつけてたり、大きなバッグを持ってたり、そして何より自己中心的な妹だ。悪口じゃない。事実だ。
 他にもサングラスをつけていたり、帽子をかぶっていたり、ふわふわした扇子を持っていたりしていた。今はどうかわからないけれど、。
 それと何よりの特徴として、疫病神というのがある。もしも妹に取り憑かれたなら、きっとあなたは財産を手放したくなる。どんなに価値あるものであっても、お金に変えてしまうに違いない。それも一切の自覚無しに。
 ……忠告ありがとう、ですって?違う。私はあの子のやることに口を出すつもりはないの。口で言っても聞かないし。
 あら、まだ意図を掴めないかしら。それならこう言えばわかるでしょう。
 
 そんな子を見かけたなら、私にご一報。
 
 
 
 「……だめか」
 紙で折った箱を眺めながら、私は呟いた。
 
 私の名前は依神紫苑。窮しても変じない貧乏神だ。
 最近は諸事情である天人に憑いていたのだが、今日はその人は居ない。何でもついに上、天界からお呼ばれがかかったとか。いくらあの人に私の不幸の能力が効かないといえど、そのお呼ばれにまでついていったらあの人の家がまるごと没落しかねない。
 それも面白いわね、やってみてとあの人は言ったけれど、なんだか底知れない予感を感じたので、私は地上で留守番することにした。あんなに背中がピリピリしたのは不運のあまり雷に打たれかかった時以来だ。すごく、怖かった。
 さて、そうなると私は暇なものだ。とりあえず女苑に会おうと寺に行ったはいいものの、女苑はすでに遁走した後だった。
 「」
 
 
 幸い今日は夏ながら朝から涼しく、地面に敷くのにちょうどいい新聞も手に入れたので(きっと誰かが不幸にも落としたのだろう)、久しぶりに乞食をやっている。
 しかし人の集まりはまばらだ。まあ、それもそうか。私は一度異変を起こした身で、その情報は新聞に載っている。
 

さとりと名乗った子は、何だか面食らったような顔で「……まあ、誇れるものではありませんがね」と言った。
 そんなことはないと思う。だって私の『不幸にする程度の能力』よりよっぽど役に立つじゃないか。言わずとも言いたいことが伝わるんだから、とても楽ちんだ。
 
 「そう良いことばかりなら、私は地底になど居はしませんよ」
 
 「……助けてくれたのかしら?」
 「ええ、助けました。」
 「私が誰なのか知ってる?」
 「知ってますよ。鈍も貧する貧乏神様」

「言わなくてもいいですよ。『どうして貧乏神の私にここまで良くするのか』ですね」
 「あらら、さすが。そう、それが聞きたいの」
 
 私は貧乏神だ。そしてそれ由来の能力がある。いや、呪いと言ったほうが近いか。
 『自分を含めて不運にする程度の能力』。これが私の能力だ。
 
 しかもそれはそんじょそこらの不運ではなく、私や相手の幸運を変換してできた不運である。分かりやすく言うなら厄神様に近づくときの二倍のスピードで不幸に見舞われる。
 
 私も改善策を探そうと、一度運命の専門家に診てもらったが、わかったのは『縁の近い者が先に不運になる』と『抑制不能』という二つの残酷な事実だけだった。
 あと『お願いだから早く出てけください』とも言われた。そりゃそうだ。私が専門家でもそう言う。
 
 だからこうして、私に親切にするのはまずい。
 親切にすると、縁が強まる。そうすれば次のターゲットが誰になるかなんて、さとりは分かっているでしょ?
 
 「ええ、分かってますとも。ついでにその診断結果も知ってます。私、その専門家とも知り合いですので」

「ああ、言わなくて結構ですよ。『いくら興味があるにしても、どうして私にここまで良くするのだろう。私の能力は知っているはずなのに』でしょう」
 「そうそう、それそれ。ずっと気になってたから、さとりにも聞こえてると思ったんだけど」
 「無論聞こえてましたよ。こいしの言った話とも一致します。『不運にする程度の能力』、ですね」
 
 私は首を縦に振った。
 
 私は貧乏神だ。そしてそれ由来の能力がある。いや、呪いと言ったほうが近いか。
 『自分を含めて不運にする程度の能力』。これが私の能力だ。
 
 これはそんじょそこらの不運ではなく、私や相手の幸運を変換して不運を生成する能力である。
 変換と生成は同時に行われるため、分かりやすく言うなら厄神様に近づくときの二倍のスピードで不運に見舞われる。半刻も一緒にいれば、死への渡し船の出来上がり。おかげで一緒にいられるのは女苑くらいのものだ。
 だから私の能力の効かないあの天人は、私にとっての二人目の希望なのだが、それはさておき。
 
 こんな能力に対して、私もずっと手をこまぬいて見ていたわけではない。
 改善策を探そうと、一度運命の専門家に診てもらったこともある。
 しかし、わかったのは『縁の近い者が先に不運になる』と『抑制不能』という二つの残酷な事実だけだった。
 あと『お願いだから早く出てけください』とも言われた。そりゃそうか。
 
 ともかく専門家も匙を折る程度には、私の能力は強いということだ。なのにさとりは――心が読めるからそれも分かりきってるはずのさとりは、一緒にいるどころかプレゼントも渡そうとする。
 これを不思議がらずして、何を不思議がろうか。いや不思議ではない。……あれ?
 
 「反語はそこを否定するものじゃないんですが。……まあ理由としては――あなたも姉だから、ですかね」
 「姉」
 「ええ、姉です。さっきも言ったとおり、私も姉ですから。あなたには親近感がわきます」
 
 いや、さっきの話聞いてた?縁が深いやつから不運になるんだってば。そんな軽い理由で近づいたら、あなた、次のターゲットになるわよ。
  
 「おや、地底をあまり舐めないで欲しいですね。たかが貧乏神一人の不運で、私が音を上げるわけが無い」
 「どんだけとんでもな場所なのよ、地底」
 「逆三角形のトランプタワーみたいなとこです」
 「すごい、絶対行きたくない」

 どうしようも無くなったら、どうぞ気軽に来てくださいな。答えは出せませんが、お茶くらいは出しますよ」

「『どうしてここまで私に良くするのか』ですか」
 「ああ、そうそうそれ。私は貧乏神、近寄ればあなたも貧する。心が読めるなら、それもわかるはず」
 「『なのにどうして』。……ふむ、そうですね」
 
 さとりは顎に手を当て、考えこんだ――というほど時間が経たないうちに――こう言った。
 
 「そもそも良くなんてしてませんが。ちゃんと取りますよ、サードアイ分のお金」
 「あ、はい」

当然だった。
 てっきり恵んでくれたのかと思ってたわ。おまじないって言ったし。
 ん、じゃあ倒れた私を木陰に連れてったのは?
 
 「そこだと催眠がしやすいので」
 「催眠だって?」
 
 
 「空腹や幻覚は催眠で誤魔化しただけです」
 「なら結構良くしているんじゃ」
 「誤魔化してるだけなので、このまま話し続けてたら餓死します」
 「……それ、もともと話すつもりあった?」
 「ありませんでした。死んでも燃料にできるので、無駄がありません」
 「予想以上に辛辣!」