「だーかーら! くまさんが最高だって言ってるでしょ! このまるまるとした瞳にぽちゃっとしたお腹! ほら見てよこの愛嬌!」
「とりさんが最高だよ! ふわふわの羽! 手折れそうなほど細い首! かっこよさだって感じるじゃん!」
そして近場の机でリバースヴォル……あれ、和解してますね。中止中止。どうやらこの分なら一人で帰れそうです。でもそんなに服を赤に染めていては問い質される危険があります。やはり連れて帰りましょう。こいしさん、夜が明けますよ。
「えっ、もうそんな時間? ……あー! 豊夏! 何でさっきあんなことしたのさ! おかげでこの子と戦うことになったじゃん!」
「戦う? 何さ、本意でここに来たわけじゃないの?」
すみませんね。肩がぶつかっちゃって。
いつかアイス奢るんで許してください。
「アイス!? メロンアイスじゃないと許さないからね!」
「高いわねあなた」
「ま、それはともかく。今日は随分お客が多いのね。
うーん、ならしょうがないね」
「うん? どうしたのさ。そこに何かいるの?」
「お寺の友達」
どうも。
「どっちが?」
「えっ? あれ、豊夏。何かついてきてるよ」
後ろですか?
「ああ、そっちね」
「わわっ! びっくりしたー。急に飛んで来たんだけど、なにそれ?」
顔を掴まれた人形をフランドールさんから受け取ります。どれどれ。
……ええ、問題ありません。二体目ですね。手に入れました、『倫敦人形』。
『倫敦人形』は「シルバーナイフを持っている間、誰かが持つまで常にカメラの後ろをとる」という性質を持つアイテムです。つまりけしてプレイヤーには取れず、周りの誰かが取ってくれるまで取れない人形です。今のは私が急に後ろを向いたから、私を中心に円運動して丁度フランドールさんの手中に収まった感じです。狙いました。
ちなみに、当然ですが「壁に背を押し付けて取る」といったことは出来ません。というより、『倫敦人形』が出現している間は不自然に壁への後退りが出来なくなります。普通にまっすぐ近づく分には何も無いんですが、背中を向けると必ず腕ニ本分程度は壁から離れるようになります。扱いとしては背びれが付いたようなもんです。
なので、地面に背を向けると床に対して背びれが引っかかり、テコの原理で体が吹っ飛ばせます。これで奇襲する予定だったんですが思ったより平和でした。何かこの区間順調だな。
「不思議な人ね。ごきげんよう、百瀬豊夏。ここのお嬢様の妹、フランドール・スカーレットよ」
こんばんは。不躾で申し訳ありませんが、我々寺で修行中の身でして。今日はここでお開きにして頂けますか。
「なるほど、そういうこと。それなら朝は早いものねえ。いいわ、この勝負、明日までお預けにしましょう」
「ちょっとー。私のときと対応が違うよー」
「だって、くまさんは譲れないもの」
いやあの、ものじゃなくて。
今日は楽しかったわ、フランドールさん」
「フランでいいわよ、長いし。その代わり、私もこいしって呼ぶから。いいかしら? こいし」
「……うん! また来るよ、フラン!」
夜が明けるっつってんだろ早くしろとは言いません。こういうやり取りはZootheraの拘りポイントです。だからじっくり鑑賞するのが礼儀ですが暇がないんだよ早くしてください。一夜で人形三つってすっごい過密スケジュールなんですから。
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「妖精メイドには、小悪魔を通して私から伝えておいたわ。随分引っ掻き回してくれたみたいだけど……フランドールを抑えられたんなら、もうそれでいいわ。ほら、さっさと帰りなさい。主様が起きるわよ」
「馬鹿な……帰って来た……!」「信じられん! やつは不死身だとでもいうのかーっ!?」「話を聞いてねぇんですか! 妹様のご友人なら、あんぐれえ普通のもんでしょ!」「また来て頂戴ねー、いい刺激になるわぁ」「こ、怖かったぁ……」
「事情は聞きました。この度は大変ご迷惑を……いや、あなたもかけてきたからお相子ですね。ですから、今後とも何も気負わずいらして下さい。歓迎しますよ。……あ。ただ、次からは来る前に一報頂けると助かります!」
編集時に気づきましたけど、厳しくしたり優しくしたりでこの区間のダメンズ感が凄い。
「あー、思いっ切り遊んだわ。それにしても、よく地下室なんて知ってたねえ。やっぱり違うんだ、貴女」
適当にあしらいます。私は背中を押しただけですよぉ。貴女が入りたいって思ってたんじゃないですかぁ。
「そうかなあ? あ、そーだ。なんで初めは知らないフリなんてしてたの? ちゃんと挨拶もしたし、忘れてたわけじゃないよね」
忘れてましたよー。何だこのコードの人って思ってましたよー。だから
「お客様。」
――彼は誰ぞ。その顔には深く影が入り、表情は読めない。
ただ、それでも感じる事がある。引き絞るように張り詰めた、氷よりも冷たい空気が肌を擦る。その度に灼け付くようにヒリヒリと痛む。
今、この場を。
彼女の「激情」が支配していた。
「私は……『隣の部屋』、と……申し上げました。
あなた……『|規則《ルール》』を、破りましたね……」
あっ……あれー? どうして起きてるんですか、咲夜さん? そんなに目が覚めるような出来事とかありましたっけ? ……もしかして、バレました?
い、いやいや。でも変哲ナイフですよ、三日保つんですよ。さしものZootheraも数十分〜三日なんて滅茶苦茶な範囲で乱数設定しませんでしょ。仮にそうだとしても今まで三日以下の乱数なんて引いたことありませんよ。そんな奇跡連続することあります?
あれ? こいしさん、どうして口を開いてるんですか。何か言いたいことがあるんですか。そういうのは口に出さなきゃ伝わりませんよほらもっと早く喋ってくださいなぜそんなにためる必要があるんですかいやこれはもしや私の思考が加速してるんですかそうかこれがゾーンですか血が回りすぎてクラクラするんですけどこれの何がいいのか教えてくれよヴワルそういや今月のネトフリ代ちゃんと入ってたっけ
「あら? 私のナイフじゃない」
……………………。
「つまり……お客様。
貴女は私の部屋に無断で入った挙げ句、
そこの古明地こいしに罪を擦り付けようとした大悪党である、と。
それでよろしいですか?」
……▶よろしかない ので逃げます! 走りますよ、こいしさん!
「良いですとも! 今の私は機嫌がいいのさ、だって友達が増えたんだから!」
応急処置は対策じゃありませんよぉ!
太陽が見えれば確定遅刻です。
「『ストップウォッチ』」
えっ。
「ん? んー。お早う、今日は早起きなのね。昨日あんなに珈琲を飲んだから?」
「いえ、一滴も飲んでおりませんよ。今日は記念日ですから、お早めに準備しようと思いまして」
「きねんび。ああ、そうねえ。お目出度い日は、自由であるべきだわ。右手の拘束、解いてよ」
「駄目です」
「ちぇ。じゃ、何の日かだけでも教えてみな」
えっ。えっ。
あの、三日バレないんですよね?
「コソ泥の投獄記念日ですわ――さあ。返してもらいますよ、私の『シルバーナイフ』を」
フランドールが認識してる
パチュリーさんが妙に優しい
レミリアの憐憫
ちなみになんで毎回やらないのかというと、チャートが決まってるのと見た目以上に負荷が高いのと、多少おかしくても既におかしいから許してくれるフランドールさん相手だったからです。
じゃあね。面白かったわよ、mad-hater
どっかのタイミングで腰紐買いませんと。
身体強化派生、空
――第二章、四節。
人が妖怪に勝てないというのは、よくある全称的な間違いだ。
瀬田の唐橋、大百足。平安京内裏、鵺。神楽坂、土蜘蛛。
歴史を紐解けば、人がその武と勇と知をもって、妖怪に打ち勝った例はいくつも見つかる。
だが、それはもちろん、
人が妖怪を恐れなくて良い、という話ではない。
華々しい勝利の裏で、多くの命が無惨に殺されていることを忘れてはいけない。
その事実を前に、あなたはどうするだろうか。
華になる事を望むか。
任せることを願うか。
自衛の力だけはと欲するか。
どうか、悩み、考えて。
正しい判断を。
――第一章、終節。
つまり、妖怪を前にしたら一も二も無く慈悲を乞うというのは、まちがった恐れなのだ。絶望を前にして、その絶望に自分の命すら託す。どうなるかなど決まっている。
諦めるな。まだ、他にできることがある。まずはその最初の一歩として、人に頼ることを覚えてほしい。無力な人間ではなく、その場をどうにかできる、力を持った人間を頼ることを。
以下には、その人間の外観と頼る場合の注意点を纏めた目録である……
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……十六夜咲夜。
恐ろしき吸血鬼の館、紅魔館。そのメイド長を勤めている。
あの館のメイドだからといって、遠慮するのは些か早計だ。(すこし話が通じない事はあるが)彼女は助けを求めれば、ちゃんと応えてくれる。ただ、彼女はいわゆるビジネスライクとして考えているため、たとえ後払いだろうとしっかり対価は支払うべきだ。さもなくば、なぜ吸血鬼が恐れられているのか、その理由を知ることになるだろう。
戦法はナイフ投げ。近くに居ては巻き込まれる可能性があるため、付かず離れずを意識するべきだ。彼女は時を操るため、意識する前に戦いが終わるかもしれないが……。
どうもこの主張は軽んぜられるようで、何々は恐れない、ありのままに接するものだ、と全称的に考える人間は多い。それは間違いだ。もし、虎の尾を踏もうと生き抜く根拠を持たないならば、以下の人物が持つ地雷には気をつけたほうが良い。種族で括るなど無意味だ。一人一人、何を大切にし、何の為に動いているのか、それぞれ分けて覚えることを薦める。
彼は、誰ぞ。その顔には深く影が入り、表情は読めない。
ただ、それでも感じる事がある。引き絞るかのごとく張り詰めた、氷よりも冷たい空気。それが肌を擦る度、身体が灼け付くようにヒリヒリと痛む。
今、この場を。
彼女の「激情」が支配していた。
あんたはどうだ、ジャック・ザ・リッパー!
心が震えねえのかい!?
「あんなに大きな攻撃じゃ、目くらましになって当然でしょ」
「しかも知らない人に叱られた……不幸だわ」
気になるけど見には行けません! だってイドの解放は全方位弾! 私も食らってますからね! 反発力とハート弾でこいしさんを支える腕が千切れそうだぜ! そうなる前にさっさと行きます!