『ほら、カイロだ』
「あ゛ぁー……ありがと」
『少しはマシになったか? コメット嬢』
「まだまだね。予断は許すけど油断は厳禁って感じ。一歩踏み出すたびに足が攣りそうになるのよ」
『なら昨日のように飛べばいいな。登下校も買い出しも花摘みも全て空中で行えば負担はない。今日一日は休筋日だ』
「耳慣れない単語が過ぎるわね。というか、私の状態を筋肉痛と一緒にしてない?」
『渾身の力で放った光る槍。その反射を受けてこの程度の損傷とは、良質な筋肉だと思っていた』
「つまり筋肉痛よね。違うからね? 反射自体はちゃんと防いだから。これは魔素炎症。本来流れるべきでない場所に魔素が染み出した結果よ」
『なるほど。その場所とはどこだ』
「筋肉」
『つまり筋肉痛じゃないか』
「まあ、カイロがあるなら大きな問題じゃないわ。確かに
1mmでも2mmでも飛べばいいものね」
『そういえば、なぜカイロなんだ。炎症ならば冷やすのがセオリーじゃないか』
「魔法は魔素をなんやかんやして魔法にしてるの。血流が多いと、このなんやかんやに都合がいいのよ」
『雑』
「結果は出てるもの。ほら」
高速で頭をぶつける
『効果はあるな。意味はない』
「……天井よ。天井が悪いの。外なら大丈夫だから」
『そうまでして登校するつもりか?』
「当然でしょ。まだ入学試験の結果を聞いてない」
『何でもいいから教師の感情を動かせ……だったか。過ぎた記憶だ、合ってるか』
「合ってるわ。というか、昨日私が確認したんだからそんなに過ぎた記憶でもないわよね?」
「球面にすればバリア自体の維持は楽だけど、で面倒な問題になる。それを無視しつつ、構造を簡略化するための円柱か。良いわね」
何があったの?」
「かっ、げほっ、がっ! ……おっ……お前、知らないのか……!? そこのやつから何も聞かされてないのか……!?」
「……報告はしました」
『私は知っている』
「というわけで、私だけ知らないのよ。だからってただ聞くのは失礼よね。情報は交換するものだもの。そこであなたの情報が必要ってわけ」
「なるほど、……って納得するかよ。だったら私とも情報交換しろ」
だから私からタダで聞くってのか、筋が通らねえ」
「ああ、こっちとも交換しろって話ね。確かに。私の名前はコメットよ」
「ゴミ情報過ぎる! どうせ偽名だろ!」
『私はエイリスだ』
「数の問題じゃねぇよ!? 質の問題だよ!」
「……でも呼び名が分からないと後で困りますよ、お前さん」
「お前には教えただろうが! メゼインだ! 覚えろ!」
「結構ちょろいわねメゼ」
『それでだ、メゼ。なぜバリアを探していた』
「……あ? そっちを聞くのか?」
『お前に対話の意志があることは確認した。顛末なら後でも聞ける。それより今の話だ』
「え私結構聞きたかったんだけど」
「けっ。身の上ならいざ知らず、仕事の話をペラペラしゃべるように見えたかよ。黙秘だ黙秘」
「つついたらポロポロ情報落としそうな気配はします」
「さっきから何なんだオメー! 勝ったからってチクチク陰湿なんだよ!」
「私は? ねぇ私の意志は?」
「というか、それこそだいたい察しがつくじゃない。即席バリアで自分だけ助かるつもりだったんでしょ。簡素で強度特化なバリアと、それと同じぐらいの魔素を割り振った電脳室とかいう謎の部屋。間違いないわ、その電脳室っていうのがまるまる爆弾ね」
「違うが!? お前電脳を何だと思ってんだ!?」
『爆弾はともかく、何かしらの広範囲攻撃はあっておかしくない。学園を覆うように張られた、最高峰の反射機能付きバリア。これは即ち、内部で攻撃を起こせば効率的な破壊が可能だ』
「人をテロリストみたいに言うんじゃねーよ! だいたい内部からの攻撃は反射しねーに決まってんだろ! すり抜けるわ!」
『詳しいな。学園バリアの制御部にでもいたか』
「……あっ」
「
『私の考えはこうだ。元々カジノのためにこっそり魔素を溜めている部屋があった。それを分捕りバリアと計算機に投入。計算機からデータを抜き取り終えたら、バリア内に外から次元魔法を開く。そこにデータを投げ込み、最後にバリアへの魔素供給を止めて次元魔法をバリアごと閉じる。完全伝送の完成だ』
「何だその迂遠な手段! 次元魔法使えるなら電脳丸ごと持ってくわ! こんなでかいバリアなんざ張るかよ!」
「
「はっ! 本当に何も聞いてねぇんだな。簡単な話だ、これがないと三分後に死ぬ」
「あら素直。その心は?」
「心は有料だ。今度こそまともに払え」
『攻め方を変えてきたな』
「……外に放り出してから話を聞く、というのは?」
「ヒントを出してやる。爆破だ」
「ちょろい」
「知ってんだよ! こいつは言ったらやるやつだって! おらっ、どうだ聞くのか聞かねぇのか!」
『聞こう。但し、答え合わせとしてだ。
「賢かったんですね、貴方」
「何でさっきから辛辣なんだお前」
「八つ当たりです。
「一度殺したので口無しです」
「今生きてるから口有りだが? もっぺん戦るか?」
「
「今生きてるから殺してないです。だからただの八つ当たりです」
『お前こそ、殺した相手にずいぶん気安いな。蘇りは簡単なのか』
「
知らずに動かしたのか、そりゃ向こう見ずなこった」
『こちらはヴィーラを突撃させる準備ができている』
「東棟3-4-2-7。炎の魔素が大量に詰まった場所だ。ここを爆破すれば学園の半分は吹っ飛ぶ。残りは別チームに任せる、そう仕事を請け負った」
「聞き分けが良いわね」
「そりゃ一回殺されてんだからな! お前もやられてみろ、気持ちが分かるぞ!」
「人を殺人鬼みたいに言わないでください。あなたは生きてるじゃないですか」
「ノーカンにしようとすんじゃねぇよ!」
「お前もそいつに殺されてみろ。こうなる」
『炎か。当然、直接起爆すれば自分も死ぬ。だからこのバリア内から起爆するつもりだったのだろう。遠隔か、時限か』
「時限だよ。魔素の暴走でも魔法は魔法だ。それを防ぐバリアに、遠隔操作魔法なんざ通るわけねぇだろ」
『そうだな。で、あと何分だ』
「五分もねぇよ
「それでメゼ、どうして殺されかけたの?
なんで殺人鬼の前で感想戦しなきゃいけねぇんだ! 殺人をスポーツだとでも思ってんのか!?」
「いや事実確認でいいんだけど。意見交換が必要なわけじゃなくて」
「こっちは殺されかけたんだ! そいつに! それで十分だろ!」
『聞き分けがいいな君』
「そうなの? ドア」
「いいえ違います。殺しました」
「らしいけど。貴方死んでるのね」
「生きてるが!? 命からがら生きてるが!」
「死ねば良かったのに」
「なんでこんな奴と一緒に行動してんだよ!」
『夢は同じだからな。少し後悔している』
「じゃあ次の質問したいんだけど」
「……なら、俺にも何か情報くれよ。そいつと引き換えで話してやる」
「なるほど。私の名前はコメットよ。はい、どうぞ」
「ゴミ情報過ぎる! どうせ偽名だろ!」
『私はエイリスだ』
「数の問題じゃねぇよ!? 質の問題だよ!」
「……でも呼び名が分からないと後で困りますよ、お前さん」
「お前には教えただろうが! メゼインだ! 覚えろ!」
「結構ちょろいわねメゼ」
『では尋問だ、メゼ。なぜバリアを探していた』
「はっ! 知らずに動かしたのか、そりゃ向こう見ずなこった」
『こちらはヴィーラを突撃させる準備ができている』
「東棟3-4-2-7。炎の魔素が大量に詰まった場所だ。ここを爆破すれば学園の半分は吹っ飛ぶ。残りは別チームに任せる、そう仕事を請け負った」
「聞き分けいいわね。不安になってきたわ」
『一言一句放送されている感覚が良さそうだな』
「何だオメーらその反応! 目の前に死がいやがんだ、誰だってこうなんだろ!」
「人を人呼ばわりしないなんて失礼な奴です。大体、もう殺しませんよ……」
「あら萎れてる」
「爆萎れです。せっかく殺しておこうって、やりたい事我慢しないでいようって思ったのに。邪魔されました。やる気ダメです」
「提案だがあいつ殺しておかないか? 世の為にならねぇだろ」
『私達の為になる。それと勝てる算段がつかない』
「え? 私負けるの?」
「ゔぁー」
『それで、どうやって起爆を』
「今度こそ教える義理はねぇよ。ヴィーラじゃねぇなら怖かねぇ」
「
第一、その情報はもう意味がない」
『それで、爆破の目的は何だ』
「知るかよ。ただ、想像はつく。ヘミンの殺害だ」
「ん?」
「……おい、知らないとか言わねぇよな。ここの学園長ヘミンだぞ。霊術だの工術だのの迫害の旗本だ。こんな派手なことするんならそれくらいはやるだろ。その反応やめろ、おい」
『これか?』
「そうそう、こんな感じの……」
「おっ、おまっ、おい! 何でこいつをここで……お前らが踏んでんだ!」
「成り行き?」
「合縁」
『恨み節だ』
「だったら早く外に出せ! 殺せる絶好のチャンスだぞ!」
「いや、このバリアその機能が無いのよ。あなた知ってる?」
「あぁ!? 無いわけないだろ、ほらここ……」
「……」
「……買ったの? 弄られたの?」
「……」
『その顔を見るに、前者か。さぞ安かっただろう』
「そうかしら。これ、強度だけはしっかりしてるわよ。高かったんじゃない」
「……あの、今気にするの値段じゃないですよね。出られなくてピンチですよね?」
「……
「……ヘミンを助けに来たとか」
「そうは思えねぇが。
『我々は、お前達が学園に広域破壊兵器を設置したと見ている。自分は助かるために簡易バリアを用意したといったところか。先に展開しておいた理由は……形成に時間がかかるか、予期せぬ問題が発生したか』
「……んだよ、ほとんどバレてんじゃねえか。ああそうさ、この学園をぶっ飛ばすために来たんだ。ヘミンっつー臆病者を炙り出すためにな」
「ん?」
「おい、知らないとか言わねぇよな。学園長ヘミンだぞ。霊術だの工術だのの迫害の旗本だ。その反応やめろ、おい」
『ふむ。炙り出すということは、その後の算段もあるのか?』
「さあな。俺に頼まれたのは爆弾の設置だけだ。
「それでメゼ、なんでこのバリアを探してたのよ。命の危機なの?」
「そうだよ。そんで今もそうだ!」
「うるさいですね、静かにしてください。こっちは爆下げ中なんです。あなたを殺せなかったせいで」
「それならこっちは当の被害者だぞ声くらい上げさせろ!」
「
話聞いてたか!? 情報と交換って言ったろ!」
『頑なだな。仕方ない、情報を渡す』
「お? そっちのやつは話が分かるな。エイリスとか言ったか、もうあと全部お前と話したいんだがいいか?」
『こちらはいつでもドアを突撃させる準備ができている』
「撤回していいかさせてくださいお願いします」
「変わり身が早いわね」
「じゃあお前あいつに殺されたことあるか!? ノーモーションで来んだぞ躱せるかあんなもん!」
「
行けるか、ドア』
「ゔぁー」
「駄目そうね」
「爆下がりです。せっかく殺しておこうって、やりたい事我慢しないでいようって思ったのに。邪魔されました。やる気ダメです」
「提案だがあいつ殺しておかないか? 世の為にならねぇだろ」
『勝てる算段がつかない。それに、君がそう思われるだけの事をしたのかもしれないだろう。メゼイン、君は何をした?』
「あぁ? こっち疑うってのか? 俺はただコンピュータ弄ってただけだ。そこにこいつが来て、危ねえから外に出したら殺された。どこに非があんだよ」
「……? コンピュータって、エイリスが普段使ってるやつよね。なんでそれがこの魔法学園にあるの?」
『電脳とはコンピュータのことだ。電脳室には当然ある』
「じゃあ何で電脳室があるの?」
『
「見ろよ! あんな事言ってんだぞ! あんなのと比べたら俺のほうが信用できるだろ!」
『では信じよう。それで、なぜここをうろついていたのか答えてもらおう』
「え……あー、その」
『答えられない場合はもう一度ドアを突撃させる。1,2の』
「ま、待て待て! 言うから! 学園を爆破するつもりだったんだ!」
「あら自白が早い。尋問が上手いのかしら」
『……嬉しくない』
「東棟3-4-2-7。炎の魔素が大量に詰まった場所だ。ここを爆破すれば学園の半分は吹っ飛ぶ。残りは別チームに任せるって、そう仕事を請け負った! それだけだ!」
「炎の魔素? 何それ」
『魔法七大要素の一つ、炎を付与した魔素だ。予め付与済みのものを用意することで、後の魔法化時に調整しやすくなる。言うなれば弾薬だな』
「へー。直接魔法にすればいいのに」
『火薬から都度作っていては間に合わないだろう』
「でもそれじゃ融通聞かないわよ?」
『融通を捨てて制限する。そうすることでその分の思考を他に回せるんだ。誰もが君のように思考ゴリラではない』
「もう少し人間チックに例えられないかしら」
『思考ゴリアテではない』
「悪化したわね」
「言ったぞ! 解放して……くれなくていいから安全を保証してくれ!」
『まだ言ってないことがあるだろ。爆弾を仕込んだなら起爆装置が必要だ。遠隔か、タイマーか。時間はいつか』
「はぁ? そんな面倒なことするかよ。付与術がどれだけ魔法を発達させたか知らねえみたいだな。これだから学のねぇ奴は」
『3』
「ヒッ」
「ゔぁー」
「あら気の抜けた声」
「殺せなかったせいでテンションだだ下がりです。やる気
「お前らも一応魔法使いだろ? だったら知ってるはずだ。ここの学園長がどんな事をしてきたか」
「あやばい、予習してない歴史始まりそう」
「知らねぇのかよ!」
「知る気無かったし。……エイリス」
『学園長へミン。全くの無名から突如この学園の長についた、圧倒的強さを誇る魔法使い。得意なことは敵対組織を滅ぼすこと。苦手なことは歯車を触ること。長についてからは……』
「次々と敵対組織を潰して、今や魔法と言ったらこのデルート魔法学園が一強だ。お前ら、これがまともな体制に見えるか?」
「ああ、だから設備投資が充実してるのね。学生に還元されてるならいいじゃない」
「良かねぇよ! デルートが重視しない魔法は、今の時世だとまるで無いモノ扱いだ!」
『規制もただではない。コストをかけるからには理由があるだろう。
『重視しないのにはそれだけの理由があるのではないか。例えばどの魔法だ、挙げてみろ』
見て分かれよ魔法使い!」
『見て分かるものなのか?』
「医療魔法に幻視っていうのがあってね。それを使えばソウルっていう生命の源が見えるわ」
『なるほど。どうだ』
「見えてるけど。でもあるから生きてるわけじゃないのよね。無かったら死んでるだけで」
「大丈夫です! とてもスッキリしてますから!」
「大丈夫っていうのは今は問題が目立たないって意味よ」
『大体の問題はそうだろう』
「そうね、今度から私の顔を見たら撃っていいわ。根本解決まではそれで行きましょう」
『行きましょうじゃないが。どうして君は定期的に身を捧げるんだ』
「必要だからよ。必要で何かをやるのは良くないけど、必要だから仕方ない。それとも」
「貴方ね」
「!?」
「バリアは単純だけど、魔力の流れは複雑ね。引っ掛けが大量に仕込まれてる。でもその引っ掛けに検知路をつけっぱなしなのはいただけないわ。こうして逆探知されるもの」
「! ……!」
「怯えているのかしら? 別に危害を加える気はないのよ。私はただ……ただ……」
「……別にバリアの出処が分かってもすることないわね。構造が気になってたけど、全部分かっちゃったし」
「……!? ! !」
「そうね。じゃあちょっと、私の答え合わせに付き合ってほしいわ。大枠はさっき説明した通りだけど、細かいところは疑問が残る。貴方の意見を聞きたいわ」
「!! !」
「契約成立ね。じゃまず、この変価部だけど……」