「……ここは」
 目を覚ますと、視界に木の格子で飾られた天井が飛び込んでくる。ちゃんと色のついた木だ。どうやらあの異空間からの脱出は成功したらしい。
 けどおかしい。私はポップスターにつながる裂け目を描いたはず。わざわざ人の家の中なんて指定していない。なら、一体ここはどこなのか。
 
 ふと、裂け目に飛び込む直前のことを思い返した。
 星形の裂け目の前に見えた、一本の線。そこで目をつぶり、視界が暗転する。一瞬後に目を開く。
 目。
 目。
 無数の目。
 それがみんな、私を見ている。
 下も上も、紫の世界。そこにただ浮かんでいる、目、目。
 時々流れてくる、行き止まりのマークがついた道路標識。ネジもタイヤもそこらにばらまいた、無残な車の残骸。それにもくっついている、目、目。
 それで、わたしは、気を失って……
 
 頬に冷や汗が伝うのを感じ、手を握りしめた。右手には鉛筆の感触。左手には丸っこい柔らかい感触。「うーん……」という寝言も聞こえる。
 ああ、良かった。ワドくんとはぐれたわけではないし、能力を使えないわけでもない。ここが何処にせよ、それならどうにかできる。
 私は安心して起き上がった。何にしろ、状況を把握しよう。そこまで考えてようやく、自分に布団をかけられていたことに気づく。
 「誰かが、私達を助けた……?」
 そうつぶやくと、ドタドタと足音が聞こえた。何事だと音の方を向くと、視界に入る白い壁。
 いや、壁じゃない。これは、このドアの名前は……
 しかしそんな考えは、次の瞬間ドアとともに吹き飛んだ。
 勢いよく突っ込んだらしい彼女が、
 
 「いてて……おはようございます。目が覚めたんですね」
 
 
 
 私と同じ形で、猫の耳と尻尾を生やしていたことだけでなく、
 
 
 
 
 「あれ?アドレーヌじゃん!久しぶりー!」
 
 その彼女の上に、見知った丸ピンクの友人が乗っていたことで。