「まずはこいし。合格よ。素晴らしい作法だわ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
おい、チートチート。無意識繋げてるだろこいつ。
「だとしても、本番でうまくやれるなら問題ないわ」
「随分と刹那主義だな」

「人が無意識に好む行動。それを再現すれば良いだけです。人を敬い……人に感謝し……人を羨み……そして破滅させる」
「やっぱ不合格」
「えっ!?」
えっじゃねえよ。カップ握りつぶす奴合格させてたまるか。

「次はぬえ。……知らないなら、知らないって言っていいのよ」

「……日本茶道なら完璧なのよ」

「うん……まあ、あなたが物覚えがいいのは知ってるから。教えたらなんとかなるでしょう」

「で、ね。一番意外なのがあんたよ、正邪」
「あー?何だ、何か気に食わねえことでも?」
「いや、逆。……あんた、どこで学んだの?」

「お前ら、なんか『正邪は礼儀作法使えなさそう』って予想しそうだからな。昨日徹夜で習得した」
「反逆拗らすとこんな事になるのね」

「で?どこで学んだの?」
「」

「盗み聞きたぁ、いい趣味してんな」
「あら、人聞きの悪い。これも仕事の一環ですわ。それにどのみち、遅かれ早かれでしょう。ここには地底の主がいるのですし」
「けっ、その結果論が気に食わねえんだ」

「どこに行かれるのですか?」
「私も仕事さ。人を助けるのは趣味じゃないんでね」
「左様ですか。お疲れの出ませんように」
「へいへい。右様ですよ」

「言ったろ?趣味じゃねえんだ。仕事なんだよ、これが」

「私は……私はみんなを」

愛していたんだ。

だから傷つけたくないんだ。

背負わせたくなんかないんだ。

こんな私なんかを。

「あなた達のおかげでこいしは助かりました。あの子があれほどの希望を持つ日が来るのは、もっと先の話だと思っていたのですが。フランドールさん、あなたは自分が思っている以上に周りに多大な影響を与えているようです。ああ、勘違いしないでくださいね?ちゃんとプラスの意味ですから。貴方はここでマイナスを考えるほどにひねくれてはいないですが、ちゃんと言っておかないと誤解する方がいらっしゃるようですので。ともかく感謝致します。ありがとうございました」
「ひねくれてるのはお前のほうだろうが……」
「よしな、正邪。どういたしまして。私も親友が助かって嬉しい限りですわ」

「ところでさとり、どうしてそんなに暗い顔をしているのかしら」

「……大したことではありませんが……」
……言い澱んだ?あのさとりが?これ、聞かないほうがいいんじゃないか。すごい嫌な予感する。
「せっかく妹が助かったのだし、もっと嬉しそうにしたらいいじゃない。それとも何か事情でも?」
こいつ、躊躇ねえな。フランドールが気にしてるからって焦んなよ。そんなんじゃ話せるもんも話せねえだろ。いや、そのほうが好都合だな。もっと焦れ。
しかし、今に限っては効果があってしまったらしい。さとりは目をそらし、軽く頬を染め、つぶやくように言った。
「……なんといいますか……そのう、命蓮寺で本気で修行するぶん、こちらに帰ってくることが少なくなりまして……いや、元から少なかったですけどね?でもますます減ってしまって、私としましてはやはり少し……あの、姉として、その…………寂しい、と思いまして……」
「……」
少しの沈黙。
その後、急速な理解。
ほー、へー、ふーん。なるほど。
なるほど。
――――ッ。
「あああぁぁぁ!!そのいじらしさにィ!虫唾がぁ!走るッ!反吐が出るゥ!」
何だこいつ!?やべ、じんましんが止まらねえ!寒気もやばい!なにこれ、これが愛!?姉妹愛ってやつ!?気ぃっ色悪ぃ!!
「うん、なると思った。ぬえ、正邪を外に出してちょうだい」
「………………」
「……しょうがないわね、二人共。みとり、頼んだわよ」
「えぇ、おまかせあれ」

「本当、うちには素直な奴がいないわねえ」
やれやれ、という声だけが最後に聞こえた。

「……で?何が言いたかったのかしら、本当は」

「一つ言っておくと、さっきの言葉は嘘ではありませんがね。確かに伝えたいことはありますが」
……本当に聞きますか?
「心を読んでわかるでしょうけど――ええ。聞くわよ。なにせ大事な親友のことですもの」

「……こいしはいい友人を持ったようですね。では言いましょうか」

「こいしの暴走は――人為的なものです」

「溜まっていたものもあるでしょうが……その背中を押した誰かがいます」
「根拠は?」

「あの巨人の中に入った時、わずかですがこいしの心が読めました。ずっとこう言っていましたよ。『話が違う』と」
ぎりっ、と歯軋りの音が聞こえる。

「――あの中には」

「いません……と言いたいんですけどね。封獣ぬえ。河城みとり。この二人は私の能力を封じることが出来る。さっきは怪しいところはありませんでしたが、可能性はあります。……正邪?あれは意外と素直なんですよ」
ほんの少しだけ、表情が柔らかくなる。
「他の容疑者は」

「こいしはどこでも行きますから、全員容疑者ではありますが……ただ、二人でなければすぐに私か、あなたに伝えると思うのです。『今日はこんなことがあったんだよ』とでも。無論こっそり誰かと仲良くなっている、なんてこともありえますが」

「相手はこいしが庇い立てするほどに身近な人物です。あなたやあなたのグループのことも知っているでしょう。その危険性も。それでも行動を起こしたのは、何らかの自信があってのことだと思います。こちらから動くなら、十分にお気をつけ下さい」

「……ありがとう。肝に銘じるわ」

「あなたも気をつけてね、さとり。次に危ないというのは、あなたにも当てはまるのだから」

「……私が嘘を言っているかもしれないというのに。純粋ね。いや、純粋だからこそこいしは救われたのかしら。もともと欲望に塗れた心を読みたくなかったから目を閉ざしたわけですし。私ももう少し素直になってみるべきかしら?そう、もっと思ったことを言えるように、素直に」

「おりん〜……あれ、やばいよね。止めないともっと嫌われちゃうよね、さとり様」
「いやあ、止めても止めなくても一緒よ、あの場合。とりあえず、私らに気づくまでここに居よっか……」