人は良く知る誰かが活躍しているのを見ると嬉しくなります。
そう考えると、オリ主という題材は難しいのだなと思いました。
誰も彼女を知らないのです。

仮定の話なのでセーフ

 紫幹翠葉はですね、実在する四字熟語でして。山の木々がみずみずしく青々としていて美しい様子を指します。「紫幹」は暗褐色の幹、「翠葉」は緑色の木の葉のこと。「紫翠」と略すこともありますね。出典、四字熟語オンライン。
 翻って、このゲームにおける紫幹翠葉。それを元にした気力スキルの大技となっております。流れはシンプル、飛ばした相手の軌跡を幹に見立て、追撃の緑弾幕と枝状のレーザーでフィニッシュするだけ。
 しかしそれが生命の力強さ、余計なものが混ざらない神秘や自然の摂理を感じられるそうで、結構ファンが多い弾幕です。この弾幕を見たいがために山と月を戦わせる『扇動者・副業ダブルスパイ』チャートを作って走った走者がいるくらいに。やる事が多いので今はやってません。

 ではここで問題です。
 この技はまず飛ばした相手を幹とする工程がありますが、そもそもどうやって飛ばすのでしょうか?
 

「……まだ……」

 答えはこちら。
 右ストレートです。

「まだ、抗うか……!」

 さてこの技、弱点がございまして。飛ばして挟むという流れ上、吹っ飛ばないように右ストレートを受け止めると追撃が来ません。だから迎え撃つ必要があったんですね。予防の大切さを教えるゲームの鑑。
 加えてこれは大技なため、例え受け止められたとしても、その動作を終わらせるまでには隙が生じます。つまり今、こうして鍔迫り合ってる今は椛さんは何もできません。絶好のカウンタータイムです。

 え? 躱せばいい?
 無理です。躱せるタイミングで大技撃つ方、山に居ません。あの慢心の烏天狗ですらそうなんですから、山の戦闘ガチっぷりが覗えますね。大技は切り札なのでそもそも撃たないともいいますが。

 普段の椛戦ではカウンターにより、この素手椛専用奥義をほぼ無傷で突破。余裕の勝利で心を折る。そして次回以降の戦闘を回避、というのがいつものパターンでした。それに乗せるためには、ここで受け止め切って余った左で殴ればOK。さっさと流して懐に入ればいい。ええ全く、そのとおりなんですけど……

「しかし……浅い!」

 悲報。
 身体強化、出力足りません。

「吹き飛べ!」

 
 私、吹き飛びます。
 
 いやまあその、当たり前なんですよ。何か強そうな感じに出しましたが、これはただの「魔力代わりに霊力で発動した」『身体強化』です。それ許されるのかって感じですが、間違って魔力スキルが霊力スキルになってもしばらく気づかれなかったり、霊力の源である自然物が魔力で作れるように《リンク、614,木魔法を使う際は変換を複雑に絡み合わせ、植物という生命を編み上げ》、実はある程度互換性があるんですよ、霊力と魔力。魔法理論がいくつか崩壊するので伏せられがちですが。

 とは言っても、普段は別種にカテゴライズされる二つの力。おまけに全く練習してない私では、普通の魔力に比べ質が悪いのは仕方がありません。受け止められる道理など皆無です。略して無理。余って皆道。

 じゃあやる必要も無かったかというと、そうでもない。これにより、初めの吹っ飛びには四つの調整が加わりました。

 『根性』による方位角。
 ロザリオダメージによる威力。
 『身体強化』によるタイミング。
 小ジャンプによる仰角。

 そう、これはもはやただの吹っ飛びではありません。この完璧な|射出《テイクオフ》なら船の近くに落ちる上、《《滞空時間が五秒以上》》になります。あとは分かるな。

「……私は、お前を殺す立場にいない。天狗としても、妖怪としても……私としても」
 

 ――五秒!
 この挟み込んでくる追撃に五秒耐え、そこから『空紅』でカウンターします! 法壁(小)!

「けれどそれは、私が本気を出さない理由にはならない」

 ……!? おっ、オイィィィィ!! 何で今の流れから壊れてるのお前ぇぇぇ!! 人間用の護り特化アイテムですよ? 妖怪の攻撃に負けてちゃ駄目なんですよ!? まだ1/3も進んでないじゃないですかァァァ!!

「落ちろ」

 ちっきしょう! 退治屋の札! 法鎧珞の法力! この威力からして、全身覆うと耐えられない! なので合わせて一点集中!! あとはタイミング良く全部弾くだけ! きっちり一列に並んでかかって来いやオラァ!!

 あっやべ、後ろ……ガード!
 おいおま、右下……ガード!
 舐めんな、正面……ガード!

 は? 頭上?

 …………なんてなるかよぉ! 露西亜ガード!

 想定を上回れると思うなよ! 何回試走したと思ってんだバーカバーカ! 基礎はバッチリやってるんですぅ! 特に椛さんは序盤の鬼門なんですからね! ここでリセットがかさむんでそりゃ上手くもなるってんですよ! まあ回数だけで言うなら一番最初の妖精以下ジュなんですけども札が焼き切れちゃうのは流石に初めての経験かなぁって。

 これは、
 死

 ぬ

「《transparent》……《/transparent》ま《transparent》ずいか? まとも《/transparent》に《transparent》当たった《/transparent》よ《transparent》うに見えた《/transparent》が《transparent》……いや、妙な心配は要らないな。奴は魔法使いにして神の関係者だ。私の不意打ちも防いでみせたし、むしろこれくらいしないと気絶もすまい《/transparent》」

 っ

 て

 時

 に

 対処するための仙充籙です。

「……!! 防いでいない……!? そんな、何故――」

 殆どの仙力スキルは見た目に分かりません。これは仙人が自然的な生命体だからです。幻視で捉えられなくもないですが、霊力を上回る自然さなので非常に難しい。仙人相手なら、見破って後手に回るより搦手で何もさせず押し切るのが正解でしょう。
 それは仙力製品にも同じことが言え、よっぽどの相手じゃないならこれで不正し放題だったりします。

 ちょっと体が軋んで肌が爛れて肩が引き攣って片目焼かれて手首裂けて喉笛破れて頬が切れて腕が捥げて胸を貫かれただけなので、まだ死んでません。我思う、故に我今生きてます。見てるかデカルト。

「――馬鹿っ、何故動く! 致命傷になるぞ!?」

 ……でもお陰さまで頭が冷えました。感謝します。
 震える身体。張り裂けるような痛み。描写したら規制かかりそうな熱傷。今の一撃、いやもう二三撃あったかな、分かりませんが! これ以上無いくらいに効きましたとも!
 ですが! それでも尚、ここから死ぬ前に貴女を倒せれば、十分お釣りは来るのです! 仙充籙ッ! 死ぬ運命を遅………………

 …

 ……あの、この減り幅ヤバくね? 全然時間無くね? えーと、1%減るのにこれだけかかるなら、100%全損まであと……

 …

 ……霊力スキル『|空紅《からくれない》』! 残りの弾幕を全力で躱す! 体は急いで! 気持ちは冷静に! 食らえば死! 迷えば死! 全て躱せば墓標前! 焦るな、落ち着け、静かに、静かに……

 ……抜けたぁ! 見えたぁ! 犬走椛ィ!!

「く……!」

 まだ追撃は残ってる! 反撃に転じてるなら消えるはず、つまり今の椛さんは隙を晒した状態! 好機!
 5m! ここを外せばもう勝てない! 流石にリセット考える! でも今は考えない! 当てることだけ考える! 当てる!
 4m! どこに! 気絶狙い! 顎! 当てる! 当てる!
 3m! 待て! 身体動かん! 何当てる! 浮力調整で体の一部を……いや間に合わん!
 2m! まあ一個しかないか。人体の一番大事な出っ張り!
 1――

「…………見事!」

 ――頭突きだ、オラァァァ!



「はぁ……はぁ……」
「よし! もう少しよ!」

 木片舞い散る森の中。
 黒く濁った奔流は波打ち、土を、根を、幹を、そこで暮らす生命すらも呑み込み、削り、押し流す。

 その上を、船が滑る。

 そう言いながら、船が動かないように舵を支える船長。
 その後ろでは、十字架に磔にされた雛が息を切らせている。

「やるな。見直したぞ、厄神」
「……そうね……私の力は、厄の力だし。これくらいは、できるのね……」

 青く輝く薙刀を支えに、悠然と立つこころ。
 その目の前では、水木群生地の出口が朝日を反射し、燦然と輝いていた。
 

「とんでも……ないわね。荒魂信仰が生まれるのも、頷けるわ」

 そこへ一輪と雲山が、十字架が立っている船室に上ってくる。
 雛は必死に左右に首を振っている。

「おおう、一輪? もう平気なのか」
「大体はね。豊夏の方を見て、それから前に出るつもりよ」
「そうか。まあ、こうなればしばらく水蜜の十八番だ。……急がなくていいぞ」
「もちろん」

 

 焦った様子
 髪に反射する光

「すごい……! 外への道が、一瞬で! あのっ! 先輩って、呼んでもいいですか!」
「やめて。たぶんこれ、今日一日だけだから。昨日、やたらと濃い厄を回収したのよ。きっとそのせいだから」

「濃い厄? 無縁塚にでも寄ったのか」
「それが違うのよ。私が行ったのは……って、その前に下ろしてよ」
「今は人手が要る時期だ」
「……何かできるなら、逃げたりしないわよ。頼むわ」



 
 

 森に木片が舞い散る。

 黒く濁った奔流が波打ち、土を、根を、幹を、そこで暮らす生命すらも呑み込み、削り、押し潰す、そんな暴威が支配する森で。

 木片を纏う船が、滑る。

 決着ゥゥーーーーッッッ!!!

 ……

 ……

 …………っはぁ。葉っぱが沁みる……。

「教えてくれ……私は、いつから負けていた」

 私の右腕を打ち抜いた時。
 一度目で『仙充籙』を見抜けなかった時です。
 
 本当は最後まで死ぬと思ってましたが、なるべくそれっぽくして教えます。互角だったと伝えるとイベント『ライバルアライバル』、教えておかないと何かの拍子でイベント『ご教授願う』が発生します。絶対にそれっぽく教えておきましょう。

「……ありが、とう。……やはり……私は、力量が……測れ、ない」

 教えると気絶します。すぐに伝達に行かねばなりませんが、これは皆様にお伝えするだけなので、実況側はちょっと一息。一足先の感想戦ですね。言いたかったことを言います。
 といっても、きっとみんな同じ気持ちですよね。恥ずかしがらず、遠慮せず、さあご唱和ください。

 ……お前のような……下っ端がいるかぁぁぁぁ!