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「チェックメイト」
67手目。白い球から指が解ける。その一マス先には、頼りなさげに十字を掲げた黒の駒がいる。逃げ場にはティアラを被った白の駒が聳え立っている。
ここは紅魔館。窓一つない地下室だ。悲鳴程度ならどこにも届かないこの密室で、二人はチェス盤を挟んで向かい合っていた。一人は優雅に、一人は荒々しく椅子に腰掛けて。
「さすがに強いな」
頭の左右から巻いたヤギの角を生やした、薄青髪の少女。饕餮尤魔はいつもの調子でそう言って、くるくる回していた白の駒をこつと置いた。しかし力の加減を誤ったのか、気づけば駒は床をカラカラと転がっている。それを拾いに行く姿はまるで初心者だった。実際、そのはずだった。
「戦略系のゲームは苦手だったからね、頑張って強くなったのさ。……まさか、三十分で勝率三割まで持ってかれるとは思わなかったけど」
背中から奇妙な羽を生やした、ブロンドの少女。フランドール・スカーレットは盤上の駒を一つずつ掴み、戦局を巻き戻していく。再現したのは42手目。尤魔の手番だ。
「敗着はこれ。ルークにこだわり過ぎたわ」
「これがトラップ? じゃ、こうか」
「そうね。私がトラップを仕掛けるぶん、攻め手は緩む。ここで相手の要所を落とせばいい」
「なるほどな」
尤魔は盤面をじっと見つめながら、側の紅茶に手を伸ばした。しかし傾けたカップには無い。ポットにもない。ついでにフランドールのカップも空っぽだった。
「――あら、夢中になりすぎたね。お茶を淹れてくるよ」
「ん。……ん? メイドに頼まないのか?」
「この部屋は遠いし、音が通らないからね。呼ぶより自分で行ったほうが早いわ。それに、とっておきの茶葉があるのよ」
「ほう。楽しみにしてやろう」
「それがいい。じゃ、勝手にしてて」
ティーセットを載せたトレーを片手に、フランドールは部屋を出ていった。あとに残ったのは時計の音だけ。コチコチという音とともに、手筋を三パターンほど最後まで読み切る。そして何かを確かめるように動きを止めたあと、尤魔は徐ろに立ち上がった。
「……油断なのか」
壁に沿って置かれた大きめの本棚。整然と並べられたその本の波の中に、一つだけ少し飛び出ているノートが見える。ちょうど尤魔からはフランドールが衝立になって見えなかった場所だ。ノートはかなりくたびれていて、日常的に使っていたことを覗わせた。
これが尤魔でないなら、勝手に読みはしなかった……はずだ。しかし彼女は剛欲同盟長。欲を肯定する組織の長である。今日も彼女はその衝動のままにノートを手に取った。題はかすれ、かろうじて『逢』『人』などが読めるだけだった。
「それとも、罠か」
わざわざ自分を衝立にして隠すようなものだ。それにしては飛び出ていたり、自分で茶を淹れに行って席を立ったり、そもそもなんの躊躇いもなくこの部屋に他者を入れたりなど、粗が目立つ。尤魔はさっきのトラップの話を思い返した。裏表紙を見る。魔法陣が描いてある。手をかざす。
「いや」
すんでのところで、尤魔は背表紙に手をやった。これがトラップならば、自分の能力で本ごと吸収してあとから情報を取り出せばいい。だがこれほど使い込まれた本だ、無くなればすぐに気付かれる。変なところで臆病になるくらいなら、堂々と盗み読んだほうがいい。尤魔は変なところで冷静だった。表紙を開く。
一ページ目はリストだった。文献がタイトルと所在地を併記してずらりと並べられている。その殆どは大図書館を指し示しているものの、いくつかはこの部屋にもあった。文献を探し当て、序論を読む。
「『惚れ薬の調合ワンポイント』……」
見なければよかった。
そう、心から思った。
だが見てしまった。知識を吸収してしまった。ならばもう、その言葉は頭から離れない。そして現状と結びつく。一人で淹れに行った紅茶。一度目はメイドに任せ、二度目を自分でやる違和感。音の通らない部屋。とっておきの茶葉。逢と人。
「……まさかな」
隙を見てカップを入れ替えよう。尤魔はそう心に決めながら文献を戻し、次の文献を取り出す。
『霊力と魔力の対関係』
真面目だった。とてつもなく。
だがタイトルだけが真面目なのかもしれない。ぱらぱらとめくり中を見る。使われている単語はところどころ専門的で、どちらかといえば近代化が進む畜生界で暮らす尤魔には読めない。
結論に関しても『霊力γの持つ解析性質を利用した魔力θとの相互鍛練』と、何を意味しているか分からなかった。文献を戻し、今度はノートを読み進めてみる。
『人形劇「蓬莱人形」についての考察と意図』
何故だか、全身に針が刺さったような感覚がした。
ページをめくる。
『人形遣いアリス・マーガトロイドが第百十七季に発表した、幻の一本。この季以外に上演された事はない。
普段のアリスの人形劇は祭りの相伴での上演が多いため、それに合わせ派手でどこか爽やかな喜劇だ。
一方「蓬莱人形」は七人の人間が為す術なく妖怪に食われていく様子を描いた、文句無しの悲劇である』
つらつらと説明が続く。これは妖怪向けの人形劇。妖怪の依頼で作られた。目的は人間の襲い方の保存。どうでもいい所を読み飛ばし、先へ先へとページをめくる。
薬、対関係、蓬莱人形。関係の見えないこれらが、何故一つのノートにまとめられているのか? あの脳筋同業者ならいざ知らず、フランドールの部屋にあったノートだ。どこかが一つで繋がっている。尤魔は確信を持った。指先がすっと冷たくなった気がした。
めくる。めくる。人形の構造。新聞の切り抜き。
めくる。めくる。幻想郷の古株の住所。フォーオブアカインド。
止まる。
『ボクら正直村は元々八人だけだったのだ。
いつの間にか日本の山奥に引っ越すことが決まってから、二年が経とうとしていた。正直退屈な毎日だった。
ある日、ボクらの中で最も好奇心の強い彼が、桃の木の脇に小さな穴を見つけた。彼はボクらを集めると、一緒に潜ろうと誘ってきたのだ』
踊るような、たおやかな、手を伸ばすような。
まるで別人のものになったその筆致を、気づけば指がなぞっていた。
『それからボクらは、この幻想郷に迷い込んだ』
aliases: 蓬莱人形フランドール説第五稿第三話
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元のプロットを忠実にやるv2
ボクらはすっかりこの場所での生活にも慣れ、気ままな暮らしを始めていた。
廃洋館は見た目こそ古ぼけていたものの、生活用品はそっくり残っている。服は着れるし、カップでコーヒーも飲める。毎朝干せば、ちゃんとふかふかのベッドで眠ることも夢じゃなかった。
森の恵みは、ボクら八人をお腹いっぱいになるまで癒やしてくれる。木の実は豊富で、茸も生えている。廃洋館の近くには、これもまたサグリが見つけた湖があるから、水の心配はない。魚だっているし、少し水源を辿れば沢蟹だって取れた。自由な生活はまるで楽園にいるようだった。
けれどただ一つ、できない事があった。森から出ることだ。
この部分の問題点
サグリが出ていってから、パーティが開かれていること
サグリハブでパーティやると思えないし、やっぱサグリが出ていったのは好奇心に従った探検、ひょっとすればメイかケイによる探検の唆しがあったのでは?
危険なのはそうだが、危険だからって黙ってればもっと危険になる。サグリがそれをどうにかできる信頼がこの二人のどちらかにあれば、一人で行っても問題ないか。というかこいつが一番の体力お化けで他がついてっても追いつけないで危険とか無いか。それを全員が知ってればここからでもなんとかなるか?
でもこれ黙ってたら正直者じゃないし、喋ってたら結局サグリハブパーティだぞ。悩むケイかメイを見て自分から行ったくらいはあるんじゃないか。その思いを黙ってたら正直者じゃ、例えば思いを打ち明けてもすげなく断られたとか? それでも行きたかったサグリ、二人の分からず屋と言って外へ。この諍いが他に知られてなくて、かつそれが原因だと二人が思ってなきゃパーティを開くのもおかしくは……いやあ流石に思い至るだろ、いくらなんでも。元から半日いないのが当たり前だったとか、セットでレンが消えてるからそっちの意味かと思ったかならまだわかる、分かるんだけど阿片乾燥させるのに何日かかけてるからいくら何でもこれで帰ってこなかったら怪しむ。限度があるだろ。だからこそパーティで誘き出そうと思ったか?
まあサグリが見えるくらいに眩しい光を見せるのが主目的で、パーティは副目的ならいい……のだろうか。芥子の乾燥時間で山まで登った想定なら、離れていても一つって意味で光を見せればそれでいいのか。サグリ側のパーティ感が無い。そこはあれだ、誰か空気読んで阿片か酒か送っとけ。
「今日こそ、外を見つけに行くよ」
七日目の夜明け前。眠れずに洋館の広間を彷徨いていたボクに、サグリはそう言った。
上流へ向かうんだ。まずは山から全体を見下ろす。明かりが見えたら一番いいね。他にも面白いものがあったら、沢山覚えておくよ。帰ってきたらいっぱい話してあげる。
サグリの背には大きな背嚢があった。よく見ればそこにはいくつか見慣れない装飾品がついていた。気になって見ているとサグリが話し始める。この遠出を控えて、一人一人に相談と挨拶をしていったときに貰ったのだという。日本ではこんな風に遠出する人に願いを込めて物を渡す風習があるらしい。
いつの間にそこまで染まったのだろうと思いながら、ボクはポケットを漁った。小さな翡翠の装飾品が出てきた。たぶん実家にあったものだろう、ボクはそれを背嚢の紐に引っ掛けた。サグリは一瞬目を丸くした後、くしゃくしゃの笑顔で礼を言った。
それじゃあ、行ってきます。そう言って、サグリが玄関を開ける。そして振り返らず、彼は門を出ていった。草を踏み、森へ入り、足音が消えるまで、ボクは手を振り続けた。そうして一切の痕跡が消えてから、ボクはドアノブに手をかけた。
だから、聞こえるはずが無かったのだ。
なのに、ボクには確かに、
『骨が折れた音』が聞こえた。
あるけ、インの方で走るから
いつもなら気にも留めない。この場所に来てから、何度か狩りを見た。その時に聞こえた音が耳にこびりついて、幻聴でも起こしたか。あるいはメイが森に罠をかけていて、捕まった動物が哀れ一撃で絶命したか。どちらにせよ、ボクが気にかける事じゃない。
けれどボクはその日、既に歩き出していた。その音はサグリの向かった方角から聞こえてきた。ただそれだけで、ボクは気になってしまったのだ。森の向こうで何が起きたのか。その向こうに何があるのか。昔サグリが言っていた、『好奇心に突き動かされる』なんて現象が本当にあるとするなら、このボクの今の衝動を指すのだろうか。どこか他人事に、ボクはそう考えていた。
歩く。歩く。
木の根で足場が悪い場所だ。ボクは何度も足を取られ、体をよろめかせた。それでも足を止める気にはなれなかった。そこかしこが擦り傷だらけになっても、軽く息を切らしても、音の方向へ進む。複雑に入り組んだ場所を、勢いを付けて跳び越した。
やがて、川の向こうに人影が見えてきた。サグリの身体能力にしてはまだ近い所にいる。それでも、それはサグリのはずだった。翡翠の装飾が背嚢の影から覗いていた。
ここがないと、好奇心殺害〜弾幕勝負の隙間がなさ過ぎて、元気満々の妖怪と出会う。それでも他に獲物を譲る予定ならムシられそうだけど。
それ以上に展開的に急展開が多すぎ。
跳ぶ。跳ぶ。
複雑に入り組んだ場所は跳び越える。やがて川の向こうに人影が見えてきた。サグリの身体能力にしてはまだ近い所にいる。それでも、それはサグリのはずだった。翡翠の装飾が背嚢の影から覗いていた。
さぐ、
それは、水だった。
朱色に染まった水粒が、ボクの全身を叩く。
その水は、川向こうに置かれた奇妙な噴水から噴き出していた。
噴水を支える二本の棒。薄いながらも、固く引き締まった本体。そこに引っかかった背嚢。その左右からぶら下がる棒は、先が五つに別れている。
水は、川の水よりもぬめっていて、気をつけないと転んでしまいそうだった。
水は、本体の上から勢い良く出て、朝焼け空を朱に塗り替えていた。
水は、鉄の匂いがした。
これは、血なんかじゃ、ないはずだ。
嘘では?
もっと冷静に記述してもいいのでは?
どれだけ経ったのだろう。視界が明滅する。身体が震える。半刻にも、半日にも思えるほどの間、ボクはただそれを眺めていた。不思議と考えが纏まらなかった。やがて湖の方から物音が聞こえ始めたので、ボクは幽鬼のようにゆらゆら揺れながらそっちへ向かった。反射的な興味だった。
湖の上には、見た事も無い雨が降っていた。大小様々の光り輝く玉が、方向も自由に飛び交っている。よく見れば玉だけではない、針のように細い粒もあれば、紙切れのようなものも飛んでいる。その雨の中心に誰かが居る。
白の小袖に、赤の袴。赤い帽子を被り直して、また雨の中を飛んでいく。服は脇が開いていて、帽子には星型の飾りがついていた。彼女は雨の中の誰かと戦っているようだった。小袖が朱く濡れていた。
誰かは複数人いた。彼女は雨を巧みに操り、次々と叩き落としていく。落ちていく誰かには集中的に雨が降り、後には焼け跡だけが残った。すぐに最後の一人だけが残った。
雨は激しさを増していく。みるみるうちに恐ろしい嵐となったそれは、雨の中の二人を光で覆い隠した。やがて一方が嵐の下に落ちていった。少しずつ止み始めた嵐を貫いて、もう一方も湖の向こうへ消えていく。ボクは初めに落ちたほうへ駆け寄った。誰かが紙のついた棒を杖代わりに立っていた。
「……あなた、は」
それはさっきの帽子の子だった。ひどい有様でもそれは分かる。内臓まで切られた腹は言うに及ばず、俯いた顔には深々と傷が刻まれ、削がれた頬から白い歯を覗かせている。力なく垂れた右袖には厚みが無く、代わりにどくどくと溢れる血が池を作っていた。ボクは何が起きているのかと聞いた。
「妖怪……退治、よ。人間を害した妖怪は……私が、巫女が退治しなきゃいけないの。それがここの決まり」
彼女はそう言って背筋を伸ばし、慣れた手付きで棒を肩にかけて歩き出した。一歩、二歩、かさ、かさと草鞋の擦れる音が、段々と遅れていく。気づけばボクはその背を追っていた。一歩、半歩、力が抜ける。そして、ついに膝をつく。すぐさまボクは肩を貸した。
「けど……私、もう駄目みたいね。あーあ……まだ残ってるのに」
彼女が最後に落ちていった誰かを睨んでいる。そこにいたのは少女だった。赤の着物を着て、緑の髪を振り乱し、鎌を持って倒れている。そんな少女が、大きな桶から上半身だけを出して地面に転がっている。あれが妖怪なのだろう。
「……ねえ。あなた、この後暇?」
暇かどうかというと、確かに暇だった。生活は満ち足りている。仕事についても、サグリが誰かに――おそらくは、あの怪物の手にかかって死んだことを伝える。それくらいだ。少し遅くなっても、問題ない。
「そう。……じゃあ、後は頼んだわ」
彼女がそう呟く。
不意に、世界が揺れた。
じわじわと頭の中心に熱が集まる感じがする。痛みが反響しているみたいに大きくなっていく。呼吸は酷く荒くなり、自分の鼓動の音だけが耳鳴りのように煩く響いている。ここを離れようとボクはただ脚を動かした。けれど動かない。
暗くなっていく視界には、彼女の左腕がボクの腕を握り潰さんとばかりに強く掴んでいるのが映っている。触れられている場所はまるで五寸釘の筵を巻かれたような感触で、この体調を生み出している原因だと考えるには十分だったんだ。引き剥がすためにボクはその腕を力の限り蹴った。見たこともない方向に曲がった腕は、それでも握るのをやめなかった。痛みが増していく。目が熱い。
「――――ごめんね」
帽子の子は、そう呟いたのだろうか。目も耳も馬鹿になった今のボクには、その意味を受け取っても疑わしいままだった。
釘が解ける。少しだけマシになった体調が、ボクの行動を許して《《やっている》》ように思えた。さふ、という音でようやく彼女が倒れたことに気がつく。うつ伏せに倒れた彼女の首にボクは指をやった。何の振動も感じられなかった。よろめきながら立ち上がり、倒れないように一歩踏み出す。
途端、つま先から頭まで大きな針が貫いたようだったんだ。そこに縫い留められたような錯覚を起こして、ボクはしばらく動けなくなった。代わりに思考が回る。
もう帰ろう。体が痛い。まっすぐ歩くこともこなせない。何なら、ここで少し休んでいけばいい。朝靄がかったこの湖の空気が、熱った身体を癒やしている。ボクはそれに従いたかった。ここで寝転んでしまえば、ざっと十六時間程は泥のように眠りこけられる。そんなことはどうでもいい。ともすれば今日の出来事はすべて夢かもしれない。思えば昨日の夜からボクは眠っていないのだ、今倒れても不思議じゃない。十分に休んで、それからまたいつもの気楽な生活に戻ればいい。戻れれば、それだけで良かった。
けれど――ボクは、その一切を無視した。
「……ああ」
生まれ変わったような気分だった。体中の痛みを、昂揚感が上回る。体はどこまでも軽く、空を飛んでいけるようにさえ思えた。倒れている妖怪に近づく。
「……」
妖怪はボクを見て口を開いたが、そこから言葉は出てこない。代わりにがぶがぶと泡立った血が流れてくるだけだった。よく見れば、彼女の着物は所々が白かった。元々は白だった着物を、血が赤色に染めていたようだった。その血は喉からだけでなく、彼女の体中からも湧き出していた。彼女の肢体は紫に染まった場所もあれば、針に埋め尽くされ血が細く筋を描いている場所もある。
ボクは彼女に背を向け、帽子の子の前に立った。懐からナイフを取り出し、彼女の服に突き立てて横一文字に引く。瞬く間に、細長い布が生まれていった。朱く染まったところの手前で止め、汚れていない部分だけを取る。
レンの服はサグリの血塗れ
「あとは」
湖に向かい、帽子に水を汲み、妖怪のもとへと戻る。妖怪はすっかり朦朧としているようだった。横向きにして服を切り裂いても、ほとんど何の反応も無い。
「……ぁ…」
「これで生きてるなんて、妖怪はおかしいね」
帽子の水を一番大きな傷にかけ流す。細かな汚れが落ちたのを見て、さっき作った包帯を巻いた。包帯はすぐに赤く染まっていった。ボクはより強く縛った。
「……」
「メイの治療、効いてるのかな。なあ君、どうなんだい?」
次の傷に取り掛かろうと水を手に取ろうとすると、妖怪がボクの手を握った。そのままギリギリと力のまま、手を持っていかれる。ついたのは針が刺し並べられている傷だった。ボクの指がその針に触れるように、彼女は手を引いているようだ。
「――」
「わかった」
ボクは一息に針を掴み、そして一斉に引き抜いた。彼女の顔が歪む。抜けた穴からは血が細く流れていた。量は妙に少ないようだった。そのまますべて抜き切って、すぐさま水をかけ包帯を巻く。
「……」
「足りないな。塞げる傷はあと二つ三つだ。ボクの服は……無理か」
サグリに加えて、帽子の子の血もついた服を見下ろした。怪我したときは清潔にする。昔逃げ遅れて大怪我を負ったメイが、譫言のように唱えていたのを思い出す。もうここに、清潔な布は残っていない。
「仕方ない、いったん帰るよ。それじゃあ君、ボクが戻るまで生きてくれ」
「……ねえ」
土を払って立ち上がるボクを、呼び止める声があった。見れば、妖怪が上体を起こしながらこちらを見ている。息は絶え絶えながらもその声は芯があり、とてもさっきまで重傷で倒れていたとは思えない。泡のような音もいつの間にか消えていた。
「驚いたな。もう治ったのか」
「……まだ。だけど、もう、大丈夫。ありがとう」
傷埋まる
「針さえないなら……何とか、なるから」
「そういうものなのか。妖怪は不思議だね」
向き直り、桶に入る
「大丈夫なら、話をしよう。質問していいかい」
「……うん」
「妖怪退治とは、一体何だ?」
「……そこから?」
「あいにくと来たばかりみたいでね。さっきの嵐も見たことが無い。一体退治って何なんだ。この場所はどこで、どんな規律があるんだい」
「……場所、変えよう。着替えもしたいし、お腹も空いた」
桶ごと浮き、死体を中へ
「入って」
血まみれ
紫が出ない場合
最終的に向かう場所は紅魔館なのだが、それすらも不干渉で、メイが死に際に書いてたメモからだけ読み取る
あの、死んでるんですけど博麗の巫女。
そのうえ、出かける直前で博麗の巫女に見つかってるんですけど。まあそれだけで、紫が動く理由がないのかもしれないが。死ぬのはよくあることなんで、そのままでいいや。
空を飛ぶ
穴から空が見える
「つまり、ここは幻想郷という名前の土地で。人間を襲う妖怪を、代々の博麗の巫女が退治しているってことか」
「そう」
むしゃむしゃ
「巫女は博麗の力を振るい、光弾や陰陽玉、針や札など多彩なものを扱って退治を行う。ここ数代は死体も残さないほどに苛烈な退治が続いて、妖怪の間で不満が溜まっていた」
「うん」
「その折に、外来人が入ってきた。里の人間を襲うと無慈悲に向かってくるならば、外来人を襲えば巫女もとやかく言わないかもしれない。そう思った」
「……甘かった」
「なるほど分かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。……そろそろ、着く」
家
服
「ここ」
洞窟の隙間
腕
服
「食べ物を置いたら……服が出てくる」
さっぱり
「そうだ、一つ聞き忘れてた」
「あの光る球は何だったんだ? 死体を焼き尽くしてた、あれは」
「……霊力固めたもの。基本」
「君も使ってたよね。どこかに隠し持ってるのかい」
「違う、必要なときに作るの」
「どうやって?」
「えっ」
「体の中の……力を、こう、一つにまとめるような……」
うまくいかない
一つにまとめたら互いに消し去っちゃうし
「……わかんない。ごめんなさい」
「困ったな。それならどうやって退治すればいいんだ」
「……誰を?」
「君だよ」
「そういえば、質問ばかりで対価の話をしてなかったね。ボクに君を退治させてくれ」
「……なんで?」
「頼まれたんだ。帽子の子から」
先代の博麗の巫女になるのかな。
「札や針はあるみたいだけれど……君を跡形も失くすには、流石に時間がかかり過ぎる。それは君も望まないだろう。だから光弾が使いたかったんだ」
スリとった札や針
「……………………退治のやり方は代それぞれ。他の方法もある、と思う」
「そうなんだ。さて、どうやったら出るかな……」
「ある!」
「こう、妖怪にも優しい、光弾が無くてもいい、退治って呼べる方法が……見つかる! 間違いない!」
「それなら君は退治されてくれるのかい?」
「うっ、それは、その……保留する!」
「ならそれで行こうか。そうなると、試さなくちゃいけないね」
「……な、何を」
「君をさ。君が退治を規定するんだろ。だったらボクは、妖怪をいくつも退治して、君に選んでもらわなきゃいけない」
「ところで、人を襲ったあとの妖怪に心当たりはないかい?」
試しだったらノールールだぞ!
「しら、し、知らない……」
「なら君で試」
「待って! ……えっと、その……普通! 普通の妖怪は知ってる! だから人を襲うまで、待てば……」
「それも時間が……ああ、そうか、そうか。その手があるんだね」
キスメしかいないとなかなか話が進まん
「私じゃなくても……」
「君はやらなくちゃいけない。だって、君は人間を害したんだろう。だから彼女は、博麗の巫女は君を退治しようとして、そして失敗したんだろう」
「君を退治していいかい?」
「
「聞きたいことはきっと沢山ある。これはその一つ目だよ。それで、一体何なんだ。君は誰を害して退治されたんだ?」
外来人に出張る巫女
「ただの関係性だよ。妖怪が人を襲えば、人はそれを恐れて妖怪を退治する。この幻想郷じゃ、だいたい博麗の巫女が退治をこなしているの。ちょうどそこの死体がそう」
「ああ、死んだからって油断しないで。次代の巫女はすぐに出てくるから。それで、私が殺したやつだっけ? 名前は知らないけど、大きな背嚢を背負ってたわ。いつも通り、油断したところで首を切った。それだけだよ」
「なるほど、なるほど。その人を襲うっていうのは、皆で示し合わせてやってるのかい」
「変なこと聞くなあ。襲うときは普通一人だよ、そうじゃないと取り分が減っちゃうもん」
「それじゃ、相手が複数だったら返り討ちにされないかい」
「複数にそのまま挑むのが間違ってるの。一人ずつ逸れるまで待つか、逸れさせるのがいい」
「他の妖怪と狙いが被ったらどうするんだい?」
「早いもの勝ち。だからもし、何処かで貴方と鉢合わせても、譲ったりしないよ」
「うん。よく分かったよ、ありがとう」
「どういたしまして」
「おっと、まだ一つ聞いてない」
「退治っていうのはいつも、ああやって最後は光の球で潰すものなのかい」
「そうね。代によってやり方は変わるけど」
「妖怪退治は、人と妖怪の関係性だよ。私達妖怪は、人を襲って食べる。人はそれを恐れて、妖怪を退治する。そうして相互に発展してるんだ」
二日目
早起きが妖怪と巫女目撃
弾幕の雨が降り出す
美しいが見惚れる
巫女=ピエロに力を貰う
生来の妖力を消しまくり体調不良、無視して進む嘘つき
ピエロ事切れる
妖怪側に近づきごっこ遊びを提案、退治後で死にかけの妖怪に話を聞く
手当はするよ、話聞けないと困るし
まずは人間と妖怪の関係から
人間殺しを手引きする代わりにあなた達を退治したい、他の妖怪のところまで案内して
死にかけでこんなん聞かされる妖怪の身にもなれよ、キレるよ
騙して殺し切るわけじゃない、他の妖怪は健在なんでしょ、こんなにか弱い人間が妖怪を殺せるわけないだろう
殺せないけど、悪い妖怪の退治はしてみたい
遊びましょ、妖怪さん
妖怪視点だと怪しいが、命乞いの別バージョンと考えれば納得はできる
苦労して外から呼び込んだ人間たちだ、たとえ巫女が邪魔してても確実に食いたい
こいつは八人の中にいたし、嘘は言ってない
だから怖いが
とりあえず他の妖怪のもとへ
群れてるわけじゃないが、同じ目的のやつは知ってる
そのうちの一人が迷い込ませたのを、みんなで分けて食ってるわけだし
ここも一瞬引っかかるけど無視する嘘つき
結局は契約成立
アリスとかいう外様の鶴の一声
魔界の令嬢とかでちやほやされやがって
でも廃洋館貸出したのこいつだから……
連れてきてくれたやつはもう退治済みなので殴りません
どうなったら話すことになるんだ妖怪が人間との関係を。
……妖怪と勘違いしたら? でも正直村の一人だからああいう交渉が出来るんであって。
襲わせる必要はある。じゃないといつまでたっても退治できないかもだし。それにあたって妖怪方に組織があればちょうど良かったが。組織立ってるなら
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蓬莱人形フランドール説v2.0.4
v破壊数-稿数-話数
3話までそのまま、四話の交渉シーンを書き直し
なんで紫が出てきたんだっけ……?
巫女を抱えたので服が血まみれのままなのに注意
妖怪談笑
正面から帰還
「おう! 三人ともおかえり……あれ? メアリーだけ?」
「ただいま。キスメは帰ったわ。疲れたから自分の家で休むそうよ」
「あれま、つれないねぇ。せっかく記念の宴会を開こうと思ってたのに」
「その準備は無駄にならないわよ。入ってきて」
「やあ、初めまして。退治ごっこをしよう」
「事を荒立てるのは、話を聞いてからでも遅くありません」
「……裏切ったのか、メアリー」
「まさか。貴方達にも見えるはずですわ、この子はとても弱い。いざとなれば囲んで殴れば勝てますわよ」
「それはそうだが……」
「それはそうかも……?」
「それもそうだな!」
「……続けろ」
「君らは巫女の退治を見たことはあるか。妖怪の体の一片も逃さない応酬。素敵で無慈悲で、何より美しい退治だ」
「その巫女に、ボクは頼まれたんだ。人間を害した妖怪を退治するようにと。けれどメアリーが言ったんだ。ボクは巫女のようには退治できない。代わりに自分のやり方を探すしかないって」
「だからボクは、それが見つかるまで退治ごっこがしたいんだ。人間を害した妖怪に、ボクは何をもって退治とするか。それが分かるまで繰り返す。ボクと一緒に遊ぼう、妖怪」
「つまりお前、博麗の代理人か」
「そうなるね。で、どうなんだい」
「どうもこうもあるか。こんなの交渉ですらねえ。その話じゃ、俺たちはただ退治されて終わりだ」
「メリットを提示しろ。例えばお前の退治ごっこに付き合ったら、巫女から退治されることは無くなるのか?」
「巫女の退治? それはもうないよ」
「何?」
「巫女は死んだ。キスメって子が殺したんだ」
「やるじゃんかキスメ!」
「本当なのかメアリー?」
「ええ、本当ですとも。当然私もいましたからね」
「……なるほど。それを見たから、いち早くお前は降伏に来たってわけかよ」
「でも残念だったなぁ。俺たちの望みは人間の命だ。巫女が死んだんなら、交渉なんて必要ない。人里に降りて皆食っちまやいいのさ」
「え、人里は博麗以外の退治屋がいるし行きたくないよ」
「……だが楽になったんだ。変なごっこ遊びに付き合う義理は、どこにもねえってんだよ。それとも何だ、俺達はお前の助けがなきゃ人間も殺せないと思われてるのか?」
「……レン」
「ああ、一つ言い忘れてた」
「君らは正直村を狙っているんだろう。ボクもその一人だ。退治ごっこをするなら、正直村を襲う手引きをしよう。人間を害した妖怪じゃないと退治はできないからね」
「……ああそうかよ、メアリー。巫女に襲われるってハイリスクハイリターンから、こいつに退治されるってローリスクで確実に食えるようになる、ハイリターンをお前は提示してるわけだ」
「あら、私が主導してるみたいな言い方ですわね。全てこの子の発案よ」
「受けない手はないな。……それが本当なら、な」
「やっと交渉になったか。ったく、面倒なやつ連れて来やがって」
「どうする?」
「どうするも何も、付き合うメリットがない。何で好き好んで退治される必要がある」
「けどあいつ、全然弱そうだぞ。巫女に退治されるよかマシだ」
「二回退治されない保証なんてなかったぞ。あいつから巫女に情報が漏れたらどうする」
「もうめんどいからあいつここで食っちまおうぜ!」
「そもそも、俺達はまだ何もしてない。その前に巫女からの奴が来るってことは、監視にほかならねえだろ。食い殺してなかったことにしちまおう」
「……レン」
「ああ、一つ言い忘れた」
「君らは正直村を狙っているんだろう。ボクもその一人だ。退治ごっこをするなら、正直村を襲う手引きをしよう。人間を害した妖怪じゃないと退治はできないからね」
「……ど、どうする」
「狂人の戯言だ。信用できん」
「でも、そう何度も食っていい人間が迷い込むことなんてない。ここは呑んで、食える可能性を増やしたほうがいいんじゃないか?」
「保証がないぞ? つまりはあいつ、味方を裏切るってことだろ。何かその証明が欲しい」
「要は捻じくれた命乞いだ。自分一人だけ助かるつもりなんだな。よし、こいつを最初に食おう」
「メアリー。こいつがここにいる事は、向こうにバレてるわけじゃねえんだよな?」
「それこそ保証はしかねますわ。私も全力を尽くしていますが、向こうにはとても聡明な人間が居ますからね」
「となると……確実に使えるのは、情報だけか」
「一旦戻すっていうのはどうかな? 正直、どれくらい手引きしてくれるのか分かんないし」
「……よし。こいつは一度戻す。まずは確実に一人は殺せる状況を作ってもらおう」
「いい案だ。保証される」
「えええ! さっさと食ったほうがいいって! こんなにひねた奴を信頼すんの!?」
「信頼しないから戻すんだよ。それでも帰ってきたら、信じられるだろう?」
「……えー。」
「私は反対だ。ここで殺したほうが良い。戻す案は通るのだろうが、私は監視を続ける」
「賛四反二。私は賛成ですし、五対二で可決ね。おめでとう、レン」
「ありがとう、メアリー」
「よし行ってこい、メアリー」
「え?」
「バレないようにそいつを戻さなきゃいけない。それなら適任はお前だけだろ」
「私達は肉体派だから」
「あっちもまだ六人居るのに! あれを全員騙すの!」
「頑張れ! メアリー!」
「……分かりました。じゃあ帰る頃には、次に誰が行くか決めておいてくださいね」
「分かった。よし、どうやって決めようか」
「棒倒ししようぜ! 良い砂場見つけたんだよ!」
「意外でした」
「何が?」
「あなたは交渉なんて出来ないものだと思ってたのよ」
「出来ないよ。そもそも、交渉って何さ」
「相手から望みの条件を引き出す会話ですわ。さっきの貴方は、否定条件を揃えてからそれらを解決するメリットを叩きつけた。ああすることで、そもそもの要求を飲ませやすくすることが出来るのです。見事だったわ」
「望んでないよ、ボク」
「またまた」
「だって、どうやったら手引きできるのかさっぱり分かんないし」
「……何が手引きになるかはわかるわよね?」
「そうだね。それはサグリが見せてくれた。要は一人だけにすればいいんだ」
「ええ。じゃあ、今までの生活の中で、彼らが一人になる時間は無かったかしら」
「寝るとき、は違うな。こないだサグリがケイに間違って襲われたって怒ってた」
「そういう誰しもが無防備な時間は、むしろ警戒されて危険ですわ。もっと個人的な時間よ」
「うーん……あ」
「ありましたか」
「いや、でも阿片もお酒も足りないな」
「誰しもが無防備な時間は危険って言いませんでした?」
「? ドウだけだよ、どっちも呑めないのは」
「…なるほど、そういうことね」
「そういうことなら、私が用意します。準備が終わったら、貴方の部屋に紙を置いておくわ。芥子畑とワインセラーの場所を記した紙をね」
「本当かい? 助かるよ」
「これくらいなら容易いわ。だから貴方は何も……何をしますか?」
「そうだね」
「パーティの準備をしておこうか」
ワインを廃洋館の地下室に
森の奥からボクが帰ってくると、皆は口々に良かったと言っていた。アサが湖で見かけた気がするといったので皆で行ってみたら、そこには大量の血の跡があったらしい。心配したり、馬鹿だと言ったり、本当はサグリに付いていったんじゃないかと考えたりしていた、まさにその最中だったという。ボクは謝りながら、どこに行っていたかを説明した。「阿片畑を見つけた」。今日はもう遅いから、明日皆で行って阿片を集めよう。帰ってきたサグリがもういらないって言うほど、沢山。
ボクは驚いた。すらすらと嘘が吐けたからだ。思い当たる節を探って、ボクは気づいた。あの時からだ。もうすっかり慣れてしまった、この体調不良が起きた時。ボクはそれを無視して動き続けた。自分に嘘をついたその時から、ボクは簡単に嘘をつけるようになっていた。そういうことだったんだと納得して、ボクは自分の部屋に戻った。ケイがボクの部屋の前で立っていた。
夜、夢枕にメアリーの姿を見た。何で勝手に日取りを決めたの、こっちが決めなかったらいつでもいいってわけじゃないのよ、今回はもともとそのつもりだったから出来るけど本当にそういうの止めて心臓に悪い、と懇願された。目覚めても記憶は鮮明に残っていた。