シンキングタイム。どうするか考えよう。 
 次にシンキングタイム。手段を統合しよう。つまり、だ。

「フラン」

 両方、今解決できるな。

「ありがとう。そんなにも私を気遣ってくれて」
「……じゃあ!」
「でもね。傷ついて得た物は、傷付かずに得た物より良いものなの。たとえ単なる合理化の結果だとしてもね」
「どうして!?」

 椅子を蹴り飛ばし、彼女は立ち上がる。
 上がった目線の高さから、不自然な私の右手に勘付かれないように、もう少し手を体に寄せる。大したことじゃない、ディゾルブスペルが解けた瞬間に使う魔法の準備だ。相手は無論、イン。
 それともう一つ。

「どうして、進んで不幸を選ぶのよ! 誰も痛まない、誰も苦しまない、それが一番の幸せに決まってるじゃない! ねぇっ、パチュリーっ……」
「現実問題、誰もが幸せになる事なんてできないわ。一番近いのは、誰もが不幸せになること。それを皆で受け入れることよ」
「……っ! そうやって、また話をすり替えて! ヘリクツこねて一人で背負いこむの!? やっぱりあんた馬鹿よ、大馬鹿だ!」

 叫ぶフランドール。
 高まる魔力。
 ディゾルブスペルに、音もなく罅が入る。

「一人じゃないわよ」
「だからっ!」
「今からあんたも巻き込むから」
「そうじゃな……くて?」

 そして―─ついに砕け散った。
 よし、ここから私の仕事だ。砕けたディゾルブスペルの破片を透かしてインの場所を確認し、認識できているうちに魔法を打ち込む。次。

「えっ、え」
「フランドール! 

 叫ぶフランドール。
 高まる魔力。
 うん、やっぱ魔法のようにって形容詞は廃止したほうがいい。いくら魔法でも、都合良く皆納得させるのは土台無理な話だ。例えばここでフランドールの提案を受け入れても、私のことだし、魔法が絡めばなりふり構わず何でもやってしまうだろう。かといってフランドールを根負けさせるなら、私のせいで私を殺させることになりかねない。
 ディゾルブスペルに、音もなく罅が入る。
 あと三十秒も保たない。
 これが破れたら、インはどうなるだろうか? 異常を認識させない程度の呪い。それがどれほどの規模か分からないが、少なくとも今の私には、インが普段どんな小悪魔だったか分からない。下手すれば、全て異常だとして二度とインを認識できなくなる可能性もある。
 とか言って背負い込むのがいけないのよね。

「一人じゃないわ」

 
 

 ではなぜフランドールを怒らせているのかというと、これはひとえに私の対シリアススキルの低さに由来する。つまり、うん、まぁ、馬鹿というのは否定できない。