「ふははは!さっきは本当に申し訳ない!ついうっかりフルスピードを出してしまった!」
 「いえいえ……だいじょう……ぶです……」
 そうはいっても僕はもう虫の息だ。
 仕方ない。紅魔館は想像以上に広かった。進んでも進んでも廊下ばっかりで、さらに不慣れな館の中。途中青髪の女の子が何度も立ち止まってくれなかったら、僕はすぐにワンドットさんを見失ったに違いない。
 「さっきは……ありがとう……えーっと」
 お礼を言おうとして思い出した。そうだ、そういえばまだ女の子の名前を聞いていなかったや。ん?でも聞いてないけど最初に言ってたような、んー、確か……
 「レ……ちゃん」
 「一文字しか知らないなら素直に聞きなさいよ」
 女の子が手袋をはめながら言う。
 着替え終わった女の子は、とっても印象が変わっていた。上も下も海松色のいっぱいポケットがついた服。その真ん中をベルトで留めて、なんだかかっちりした感じ。それに僕のと似たような、けれどつばのない帽子。
 「レーちゃん、かっこいい……」
 「突き通すのね……まあいいか、名前迷ってたし。ありがとう」
 そういって微笑んだレーちゃんの表情は、なんだか嬉しさや恥ずかしさだけじゃない気がした。
 「うむ!やはり似合っているぞ!私の見立ては間違っていなかった!」
 「お褒めに預かり光栄です。ところで、一つ質問を。なんで軍服なんですか」
 「ほう!軍服を知っているのか!息も荒げず私についてきたことといい、貴様、やるな!」
 「いや、やるなじゃなくて」
 「軍服は私の趣味だ!」
 「ああ、はい、なるほどわかりました……」