第二章 黒い霊魂

視点は切り替わった。そして『次』の場面が私の心を吊り上げる。
 //心が吊り上がる で怯える や恐れる の意
 なんてこと、目の前のあれは何?……
 暗黒に取り囲まれた少女……その黒は……浮遊している。一体あれは?私はその中を注意深く見た。あの黒色……嘘でしょ?!私はまた驚いた。
 あ……あれは黒色の、霊魂?!その魂魄は冥界のものと形状は同じ、長細く魚のよう。だが黒く、その上恐ろしく獰猛な顔をしている。これは……怨霊か?いや違う、感覚上、それよりもっと恐ろしい物だ。
 しかし少女を取り囲む黒の魂魄は、一個だけではなく、とてつもなく多く、少女の周りを回りながら浮動する。その少女は地面にしゃがみこみ、深く埋めた頭を上げる勇気などなく、絶えず体を震わせている。
 「……神よ、これはなんと禁じられた力か!」
 私は声を聞いた。四方を見渡し、そこにとても美しい場所を見つける。純白色の建築、柔らかな光、まるで天堂のよう。
 だが、黒に囲まれた少女は、この環境と鮮明な対比を形作っている。
 取り巻きの人はだんだんと増えていく。「穢れ!穢れだ!」「どうして急にあんな邪悪なものが現れたのだ!」彼女らは絶え間なく議論をするも、前に出る勇気のある者はいない。
 少女は蹲りそこで震えている。彼女の髪は黒く、衣服も黒い。それら黒色の魂魄は……よく見えないが、だが見たところまるで彼女の体から発散されているような。そうであっても、私は彼女に同情した。彼女は、ただの少女なのに……
 ガヤガヤと集まる人混みの中、ついにある人が大胆に前に出て行こうとする。その時、周りは皆静かになった。
 「……きぃ――――」その時聞こえた、黒色の魂魄からの声。泣きわめく声……それは一体何なのか?……
 パン!!!!!
 耳の中で突然大きな霹靂の音が響き、眼前が急激に強烈な光に覆われた。
 キン!!!一瞬、大きな耳鳴りがして、私は条件反射で目を閉じた。
 ああ……何で、さっきの光は紫色の……
 しばらくして私はゆっくりと目を開けた。すでに目の前の情景はまた変わっていた。
 ここは……どうして……

 有頂天。

 有頂天に帰ってくると、そこで一人の少女が私を待っていた。黒髪の中に幾筋かの紫髪、着ている服も黒色に幾筋かの紫の線。
 彼女は天人ではない。剣霊だ。古くから剣は王の象徴である。だから伝説の中の宝剣は霊気を持つ。剣霊とは、剣の霊気が変化したものだ。
 彼女の本体は、紫電の剣と呼ばれる一振りの剣だ。彼女の主人は天人で、だから彼女もずっと天界に居る。
 (紫電青霜、王將軍之武庫――――《滕王閣序》より)
 //滕王閣序という名前の詩。フルネームは秋日登洪府滕王閣餞別序。その中に紫電と青霜という宝剣が出てくる。漢詩なので読めなくもない。けど日本語化してる人がいるのでぜひどうぞ。著者は王勃。清霜でも間違いではない。ちなみに紫電青霜だけで検索にかけると全く関係ない武侠小説もヒットする。
 刃舞は冷ややかな目を彼女に向けた。
 「よう、貧乳陰陽女〜」キラキラと輝く笑顔で彼女は手を振り挨拶した。
 口角が少し引きつる。彼女の二倍はある刃舞が歩いてきて、その後、猛然と彼女を蹴り飛ばす。
 「うわーーーー」
 「貧乳は希少資源よ!あとね、陰陽女って何なのよ?!」
 //なんなんだよここ
 天人の高貴な一面を刃舞は投げ捨て、その少女に対して大声で吼えている。
 「うわわ!」紫電は狼狽えながら立ち上がり、「ひどいなあ、児童虐待で訴えるぞ!」
 「あ?そう、あの神経質な審判長を探す勇気があるのね?え?はん。」
 刃舞は口角を引きつらせながら悪どく笑った。
 //訳としては微妙
 「ちぇっ。」紫電は真面目な表情になり、そしてほんの少し笑った。「何さ、その神経質な奴が今度の遊びを取りまとめたってのに。天界の審判長……彼女が一番つまんない奴だよ。」
 その時の刃舞は笑顔を引っ込めていた。彼女はまるで、憂鬱な面持ちで、何かを考えている。
 「ねえ……紫電……」刃舞が軽く言う。
 「ん?」
 「あまり遊び過ぎないで。これは私のお願いよ。」
 「……ふん。君の話とあらば聞かざるを得まい……あーあー、わかったよ。今回はこの僕が下に遊びに行ってくるよ〜」

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有頂天
彼岸←
魔界
博麗神社
マヨヒガ
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 ストライキの名手が、彼岸花の花園に寝転がり日向ぼっこをしている。
 今日もいい天気だなあ、小町は幸せそうに笑った。
 その時、花園に動きがあった。
 まさかまた見つかっちまった!?小町は急いで座り出した。
 目が合った。目の前に現れたのは、一人の余所者。
 お客さんかい。いい事じゃないな。小町は既にそう判断していた。その客人の服にはあまりにも見覚えがあったからだ。
 「幻想郷の死神というのはそんなにも悠長にしているものなのか?」
 客人は訊いた。
 「あー、たった一人を基にして全体を決めなさる、その判断は間違いですよ。」小町はそう言って、内心自分の話す言葉が段々と上司に似てきていることをしみじみと考えていた。
 「ふむ、一理ある。加点だ。だがしかし、職務を一度蔑ろにした、よって合格にすることはできない。」
 小町は目の前のそいつの職業を確信した。こいつ、どっかの審判長だ……
 「ああー、評価がお済みになりましたら他の標本を探しに行くのはいかがですか。」小町は面倒に耐え切れず手を回した。だが、ふとこの事は給与査定に響くのではと思い、少し慌てた。この人……
 「うむ、幻想郷は面白いところだ。見立ては間違っていなかった。」
 彼岸花の花園の中で、その人は四方を見回しながら言った。
 こいつはどこから来たんだ?小町はじっと彼女を見た。他の場所の審判長が観光に来るのか?
 「あーあー、わかりました。私が少しあなたをご案内しましょう。」小町は仕事に対しては怠惰だが、こういう偶の新鮮な事にはとても興味があった。
 「うん?ああ、それはありがたい。だが、加点はできんぞ。」
 「ええ、そんな言い張らなくていいです……」

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有頂天
彼岸
魔界←
博麗神社
マヨヒガ
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 ゆっくりと目を開く。いや、目?
 私は辺りを見回した。いや、見た?
 ここはどこだ?
 そうだ!私は!?
 俯いて下を見ると、身にまとっていた奇怪な衣服が目に入る。手の中には一本の長柄の武器があり、その先には半月形の刃がついている。
 これが私!?私はこれが自分の体であることをより一層自覚した。
 まるで与えられたような体。
 一体どういうことだ……この体は?
 私は何が起きたのかを必死に思い出そうとした。覚えていない。何が起きたのか分からない。頭の中身は空っぽで、私に不安を叩きつける。
 私は誰だ!?