こちらに走ってきたメイド服は無視。
 しっかし、これだけ飾りだらけの魔法陣作ってるのに、真ん中が空いているのはどういうことだろう。普通あそこに触媒か何か立てるのがセオリーじゃないのか。知らんけど。
 「ああ、あの真ん中はフランちゃんが入るんだよ。この陣の半分はフランちゃんの強化用なの」
 ふうん、そうなのか。つまりフランで何かぶっ壊して道を開くってわけか。……それ、ミスったらやばくね?
 「もう半分は制御陣だからだいじょーぶ!」
 「そろそろ私が一言も喋ってないことに気づけよ。こいし、お前ホントは第三の目開いてるだろ」
 私がそう言うと、メイド服はやにわに取り乱した。
 「ひゅわ!?なな、なんの事かなー?」
 

 地味にここにいるのが奇跡なくらいに死んでるし、既に川には私専用のモーターボートがあるらしいし。
 閻魔様の慈悲の心遣いらしいが、多分その慈悲は私のせいで伸びに伸びた三途の川の中、七日七晩船を漕ぎ続けなければならない渡し守の方に向いてるんだろうな、と。
 「ねーちょっと聞いてるの?ねーってば」
 巻き込まれたくはないんだよ。本当に。マジで。
 なのにどうして話しかけてくるんだよ、お前。
 何でメイド服なんだよ、臨死の元凶。
 「そうだ!運ぶの手伝ってよ!最後にあの赤柱もう一本運ばなきゃいけないんだけどこれがまた重くて重くて」
 「ナチュラルに私を巻き込むなよ、こいし……」
 気が滅入る。

 本日の天気はあいにく、これから夏に向けてどんな服を着ようかな!とか甘いことを考える幻想郷民へ対する、粛清の雨である。
 全く、オシャレなんぞに気を使うから雨に落ち込むのだ。必要無いものに金をつぎ込みよって。常に生きるのに必死な私を少しは見習うがよい。

 しょうがないじゃないか。雨の日にフランは外に出られない。かと言って、あいつだけ置いていくわけにも行かない。
 ならば室内で遊べばいいのだが、残念ながら私たちの遊びは世間一般の遊びとは違い、よく周りに被害が出る。
 この前も旧地獄の一部を崩落させたばかりだ。おかげで最近のクレイジーカルテットの異名は『出禁ソムリエ』である。テイスティングで瓶を破壊するソムリエがどこにいるんだと言いたい。

 でもまあ、参加させられただけだったらまだよかった。向こうに自覚はないにしろ、私は助けられたのだ。これぐらいはされる予想がついたからな。
 けど、クレイジーカルテットの目的を聞かされた時、私はとてつもなく後悔したのだった。それは……

 「あー!やっと来た!どんだけ寝てたのよ正邪ちゃん!」
 いや、手伝ってもいいかもしれない。それで今みたいな死神の声が聞こえなくなるなら。それが後ろから迫ってこなくなるのなら。
 「ねーちょっと聞いてるの?ねーってば」
 手伝わなければならない。手伝わざるをえない。心の中は勤労意欲でいっぱいだ。私は一階への階段に歩を進めた。
 「そうだ!運ぶの手伝ってよ!最後にあの赤柱もう一本運ばなきゃいけないんだけどこれがまた重くて重くて」
 「ってお前そっち側かよ!畜生!」

というのもこの符、あいつのスペルカードの中でかなり後ろの方に位置する。具体的には後半戦半ばぐらい。一介の天邪鬼に過ぎない私は、今はもうこの符を使われるほどこいつとの戦いを長引かせることはできない。
 けど見たことはあるので、その時の記憶を頼りに避ければ……いや、駄目だわ。あの時のこととかミリ単位も覚えてない。というかあの時は落ちる前に落とせだったし。こんな一撃で致命傷にもならなかったし。だからやっぱり避けるのは初めてである。

大量に返した際に一冊だけ残ってる
 覚悟は毒

 ……ふぅ。えっと、今は……ああ、うまく行ったのね。
 じゃあ、私がやるべきは。

「天邪鬼、ちょっとこっち来なさい」
「あぁ? ぐっ!? んだよ、お前まで! 何だってんだ!」
「……ちょっ、ちょっと。判断が早すぎない? あなた」

 天邪鬼の腕を掴み、四季のもとへ引きずっていく。彼女は珍しく焦った様子で、閻魔に詰め寄っていた。

「四季映姫、準備の間は何処にいればいいのかしら」
「おっと、しきちー。呼ばれてるよ」
「……そちらの扉を出て、2つ目の角を右に曲がると応接室があります。そこで待っていなさい。後で獄卒をよこします」
「分かったわ。行くわよ、天邪鬼」
「あだだだ! おまっ、そっちには曲がんねえって! 何、何なんだよ!」

 
 後に残ったのは、人形が一人と、忘れ傘が一本。

「え? え? なに、つまりどういうこと?」
「えっと……うん。