「インは……私の近くに倒れてた小悪魔は」
――三人とも、目を逸らす。
Y担当、イン。銀の河に落ちて以来銀髪になった、普通の小悪魔。魔術の痕跡をびっしり纏っても気付かれなかった、認識歪曲と自立魔力憑きの図書館司……何だこの既視感。いいや、過去のインは重要じゃないのよ。今よ。
そうよ、その逸らした視線の先にいる、銀髪の小悪魔についてよ。
「ぁ……」
「私はお前から沢山貰ってるし、沢山借りてるんだ! 少しくらい取り立てに来てみなさいよ! 何よ、私が怖いの? 七曜の魔女だなんて言われてもただの腰抜けなのかしら!?」
「それとこれとは……関係ないわ! そもそも……貸しとか! 考えてないし! 今回は! 純粋に……」
そこまで言って、言葉に詰まる。
確かに、私は今回レミィを頼ってない。それは頼るような脅威だとまるで認識していなかったというのが九割五分で、認識したあとも記憶が吹き飛ばされるあの攻防に混ぜるのは気が引けたというのが五分だった。
けれど、今考え直すと。
その引け目が何なのか問い直すと。
それは――
「言いたいことを言ってあげるわよ、魔法の撃ち合いに吸血鬼は無力だし、撃ち合いになったのは唐突で言う暇なんてなかったし、私に頼るほどでもないって考えてたっていうんでしょ!」
「いやっ……ほんと! 大体……合ってる! でも! じゃあ、そこまで分かってるなら、私が殴られる理由は……」
「それとこれとは……別よ!」
「別じゃなっ! ……あ」
「言いたいことを言ってあげるわよ、魔法の撃ち合いに吸血鬼は無力だし、撃ち合いになったのは唐突で言う暇なんてなかったし、私に頼るほどでもないって考えてたっていうんでしょ!」
「いやっ……ほんと! 大体……合ってる! でも! じゃあ、そこまで分かってるなら、私が殴られる理由は……」
「それとこれとは……別よ!」
「別じゃなっ! ……あ」
「知ってるわよ! 魔法戦に私が居ても、邪魔だって言うんでしょ!」
「…………」
魔法の撃ち合い。すなわち魔法戦とは、どれだけ知っているかの戦いだ。
相手の使う魔法がなんの組み合わせで、それぞれどんな弱点が有り、どのようにそれを克服していて、その結果新たに生まれる弱点は何なのか。それを戦いながら、紐解き、また編み出していかねばならない。
「私の使う術が、どれだけ魔法に近くても! 私は魔法使いじゃない!
だったら魔女に全部任せるのが効率がいいとか!
それはレミィの得意とする、妖力と機転の殴り合いとは違う。どれだけ意表を突いても、からくりを解かない限りは全く効かない。妖怪という種の力は、魔界の法の前では所詮、ただの些細な違いだから。
だから、私は呼ばなかった。
私は、私以外を守る余裕まで、持ち合わせていなかったから。
「あんたはね……この! 私の! 親友の魔法使いなの!
私の力なら、あんな危険な魔法の撃ち合いも必要なかった!
あんたは、積み重ねた努力そのものに喜びを感じるの? 違うでしょう!? 努力して! 発展させる事に! 意味があるんでしょうが!
「言わなきゃ……伝わらないし! 言うけど! 邪魔だったわ! だって、私じゃ守れない! 私一人を守るのが精一杯だった! あの時はむしろ、あんたがそこにいなかったことが、一番助かったわ!」
「だったらそう言えばいいでしょ! 遅いのよ! 全部終わって、今更言われて! こっちだって今更よ、何もできないわ! それであんたが死んでたら、私になんて言うつもりだったのよ!」
「いやぁ……人払い、やってますけど……ここの人達って、確か人外揃いじゃないですか。効くのかなぁとか、無理矢理抜けてきそうだなぁとか……」
「暴れてる病人の部屋は――ここかしら」
「もう抜かれちゃったなあ、とか……」
「十分よ。『フォー・オブ・ア・カインド』」
「心配! したんだから! ほんっと!! いくら!! 信頼してても!! 倒れてるお前を見て!! 心配しないわけ!! ないでしょうが!!!」
「ごめっ、ちょっ、それ無理! それ以上は無理! いってる! メキメキハードネスいってる!」
……いや、メキメキいってるけど平気だ。これ、補修が間に合ってる?
あれ、妙ね。病み上がりなのに魔法だけ本調子だわ。魔力がどんどん湧き上がってくる。
「知ってたわよ! お前が助けた小悪魔のこと! 」
レミリアはどこまで知っていた、段階
- パチュリーの性格、生死より魔法
- インの状態、認識歪曲が刺さってる
- 自分が魔法戦に割り込んでも足手まといなこと
- 自分も割と魔法使ってるし大体同じだろ
- 未来視で一回目倒れた時から見とったけどこれ介入したらめちゃくちゃキレられるやつだ
- 介入しないとこいつ死ぬぞ
- そもそもタイムストッパー咲夜と未来視レミリアがそろってるせいで大騒ぎの時に駆け付けない理由がないぞ
- 介入で忙しかったのでは?
そう言うと、ほんのちょっとだけ優しくなったような気がしたのは本当かもしれないし、慣れたのかもだし、限界のサインかもしれない。あるいはその全部乗っけだったりするかもしれないから気を抜いてる場合じゃないわ私耐えろ受け止めろ
「体裁の破壊なんてできたんですね、フランドール様」
「やるのは今日が初めてよ。ちなみに、私は土壇場で成功するほど運命を信じちゃいないわ」
「え? それってどういう」
「何より、貴女が教えてくれたからね。小悪魔」
「いや、私はただ、レミリアお嬢様はいつもあれだけカッコつけてるのか聞いただけなんですけど。なんかタイミング的に私が首謀者みたいになりましたけど」
「謙遜することはないわ。お手柄よ。凄いじゃない」
「あの! 私のせいにしようとしてませんか!」
「言い訳的よね、どいつも、こいつもさ。だから私が壊してやらないといけない」
「……わたくしに言われましても」
「お前だから言うのさ、小悪魔。秘密は絶対ばらさない。だって、お前も秘密をばらされたくないからね」
「ななな、なーんのことでしょーねー。盗撮映像はパチュリー様がしっかり保存してますし私が吐くわけないじゃないですかー」
「コーヒー」
「……フランドール様。その名前は、重くありませんか?」
「あははは! ほんと楽しいわね、貴女。ねぇ、コア。フランって呼んでよ。二人っきりの時だけでいいからさ」
「ご勘弁を……わたくし、ただの小悪魔ですよ。小悪魔が吸血鬼様を呼びつけにするなど、とてもとても」
「ふうん? そうかしら。私にとっては特別よ?」
「それは餞別になりかねないのでちょっと……」
「仕方ないわね。ぱーちゅーりー、この子気に入ったわ。私に頂戴」
「えっ、駄目よ。私のほうが気に入ってるもの」
「パチュリー様……!」
「持ってくのは駄目。レンタルならいいわよ」
「パチュリー様!?」
「私のほうが怒る理由はあるわ。お姉さまみたいに、魔法のド素人ってわけじゃないのよ。全部ぶっ壊すことだってできたわ。どうして頼らなかったの?」
「フラン。どうして煽ったの? 今」
今のは私が悪いな。自分で整理しましょう。寝っぱなし魔女から寝起き魔女にランクアップした私の頭脳よ唸るがいいよ。
「あー……今日は何曜日」
「第三金曜日です!」
「ここはどこ」
「永遠亭!」
……やっぱ唸らなくていいよ。確か、倒れたときの曜日は月曜日。それも《《第一》》だったわよね。寝てる間にちょっとした本なら400冊は読める時間が過ぎたってことよね。知りたかったけど知りたくなかったわ。
生きてるのは、レミリアのお陰
おはよう」
「……八意……永琳?」
あっ、いや二つあるわね。形容詞の話。あれ本当なのかしら、聞いてみようかな。
「今日が何日か、わかるかしら」
「月曜日」
「……ああ、そういう魔女だったわね。今日は第三金曜日。卯の刻よ」
「えっ」
ちょ、えっ。五日? 私五日も寝てたの? 時間にして120時間? 秒にして432000秒? 本一冊に十五分かけるとして480冊分が今消えた?
……
「あなた、担当医に感謝しておくことね。運び込まれたあなたを見て、すぐさま私に連絡したそうよ。『手に負えない』って」
「……参考までに聞きたいけど。どんな状態?」
「呪いを魔力の流れだけで弾いてる状態」
もちろん並の魔法使いがそんなことをやっても、成功するわけが無い。しかし魔界神とは魔界の唯一神であり、魔法の生みの親だ。適当にやっても成功するものは成功する。だから私達魔法使いの研究はまずこの魔界神の作る適当を超える物を作ることから始まり……えっと、何の話だっけ。そうそう、インの状態ね。
「あら、アリス。久し振りね」
「記憶は……後回しね。現状をまとめるわよ。あなたの担当医が私に仕事を回しました」
「うん」
「私は
〜から作品の状態が読めます。
本作品はここで打ち切りになります。
理由は設定を増やしすぎたのと、小悪魔の設定を凝りすぎて東方でやる意味なくねってなったのと、初期パチュリーさんの口調が再現できないのとの三つです。
設定が増えた原因は「序盤だから重苦しい話はガンガンスキップしよう」と考えたことでした。結果打ち切り感漂う急展開になり、その全てを聡明なパチュリーさんが考察し始めるせいで設定がガンガン増えました。やっぱ主人公は適度に考えないタイプじゃないと回せません。
設定を凝ったのはプロット代わりにするためです。私は遅筆なので、じゃあ何を書くかざっくり決めれば早くなるんじゃないかと。おかげで着地点は定まっていましたが、離陸で座礁したので関係ありませんでした。
口調は普通に忘れました。何でこの人一言喋るたびにネタを挟めるの?
ただ打ち切りにはなりますが、幻想郷は大体同じ設定を使いまわしているので、いつか私の作品でクールなパチュリーさんを見かけたら「でもこいつ心中あんなんなんだよな」と思えばほぼ正解です。
しかし小悪魔は凝りすぎたのでほぼ没になります。以降はコアくらいしか出てこないことでしょう。特にGとかIとかLとかXとか絶対没。
ただ、没にしたままなのも忍びないので、この後は没になった小悪魔たちの設定の一部を書いています。そのあとは何もないので、気になった人だけどうぞ。
ここまで見てくださってありがとうございました。
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「ああ、あの本だね!少し待っててくださいねー…」
ゼン︙Z担当。多分男の癒やし枠。現在妖精メイドと交際中。
ヴィナが師匠。コアは先輩。見た目と優しさでたまに本を借りに来る方々に人気。
「ええ、インですが、どうなさいましたか」
「えぇ!このイン、パチュリー様のためなら何なりと!」
イン︙Y担当。銀髪枠。呪いが遠見をサポートしてなかったせいで解呪された。
ジェノやエリスのお悩み相談室。なおパチュリーの全盛期ならそのまま解呪できた。
「気負う事実は須要ではない。貴女は沖融と平然同等の力量を白日の下に晒せばよい」
キー︙X担当。レミリアの命名犠牲者。中二枠。一言喋るたびに辞書を駆使しなければならないため大変。
ユナの参謀。趣味は恋愛小説を書くこと。ハンドルネームは木瀬のん。
「あ、これ美味しい……!やっぱり世界系は味わいが違う……!」
ウィー︙W担当。Not小悪魔枠。ガチ本の虫で主食は文字。
リノが旧友でロンが同業。魔界でのあだ名はweed。闇深。
「ふむ……やっぱりここは広く取ったほうが光を取り入れやすいか。…今日のクッキー、甘味が多いな」
ヴィナ︙V担当。実は強キャラ枠。図書館の建築デザイナー。
ゼンの憧れ。シンが先生。ベルとは旧友。ヴィナの廃墟の製作者。
「イエスッ!死に方はやっぱ選びたいよね!」
ユナ︙U担当。ガチ悪魔枠。誰かと死に方で契約し、主がそれ以外で死なないようサポートする。
ウィー、ゼン、ユナで子供三人組。ちなみに、老衰死を願うと億年単位を渡される。
「ハロー、パチェーラさん。今日はこちらの本をご所望でしょうか?」
タス︙T担当。常識枠。魔力をほとんど感じないし羽も尻尾も胸もない。
まともに頼れる大人小悪魔四天王の一人。ヴィナ、タス、シン、エリス。
「せやろか?まあ魔界にも派閥やらぎょーさんあるさかいなあ」
シン︙S担当。お前何やってんの枠。気さくな同棲()彼氏持ち関西弁。
アンは弟子、コアは後輩、フィスを抑えている。頭からは羽じゃなく角が生えてる。
「……おはようございます。ちっ」
リタ︙R担当。ツンデレ枠。くだらない事で召喚しやがってクソがと思っている。
メトによくつきまとわれている。フィスは反抗仲間。貴重なスポーツ万能枠。
「うあー……なんかやることないかなー…」
クー︙Q担当。消極的ワーカーホリック枠。書架に本が少ないので仕事を兼任しがち。
アンやコアはお得意様。二人揃ってクアッドコア。
「だっはっはっは!ほんと面白い!こんな醜く取り争うとか!」
パイ︙P担当。枠を売る枠。この座を巡って魔界トーナメントになる。
ぼっち。魔界神のお付きに通用するほどプレゼンが上手い。
「これもまた小さな一歩になるのでしょう」
ロン︙O担当。命名犠牲者2。実家からの刺客枠。たまには帰ってこいや。
リノを更生させようとしている。メトとは宗教戦争をしている。魔理沙が憧れ。
「そうなんです、最近魔界はキナくせーんですぜ」
ノイ︙N担当。情報屋枠。魔界の会社のお茶くみを兼業。
ユナはその会社の令嬢。自由に現世に行けるようになってから初めて現世に行った魔界人の称号を持つ。
「赤は偉大! 赤は最高! 赤教よ永遠なれ!」
メト︙M担当。赤枠。好きな言葉は真っ赤な嘘。好きな赤は静脈血の赤。
ぼっち2。身体に流れるのはヘモシアニン。だからやたらと傷つくのを恐れる。
「ふふ、夫から手紙が来たんですよ〜。デートもいいですけど、文通もありですね〜。」
エル︙L担当。天使枠。夫が魔界にいる上、一児(自立済み)の母。
シンとかとよく一緒に飲みに行く。悪魔だけど天使みたいな羽。
「僕達の邪魔をしないでほしいのさ」
「あとできっちり戻しますからな?」
「二人といるのは楽しい」
ジル、キリ、イリー︙J、K、I担当。黒幕枠。緑なのがジル。青いのがキリ。白いのがイリー。三人合わせてジョークキラー。
定期的に誰かを殺しては、何事もなかったように元に戻す。彼らにとっては非常に良い娯楽らしい。元に戻せないと「叱られる」と焦りだす。遊んだあとの後片付け感覚。
昔ある悪魔を河に突っ込んだときはどうしても戻せなかった。純粋賢者の石には流石に勝てない。なんとか中毒症状による死の淵からは蘇らせたが。仕方なく戻せる可能性のあるパチュリー家の図書館に自分たちもろとも移送する。彼女たちも戻すために知識を蓄えてたり、試しては戻したりしていたらしい。
ジルが舞台配置、キリが実行犯、イリーが回帰役。パチュリー曰く「ローカライズ版鎌鼬」。
「152,438,13,13896。単位をmに、原点を渾天儀にとるならこうっす」
イタ︙H担当。命名犠牲者ラスト。空間認識チート。
ヴィナの弟子。ちょっとネタ切れしてた。
「OK、OK。こっちからのお願いはただ一つ。ここから先は不干渉。良いかね」
ジェノ︙G担当。女装爺枠。ヴィナが掘り抜けた図書館から旧都への直通ルートを改装し、テラスにするよう交渉。これで小銭を稼いでいた。
アンの実父。ちなみにこのルート、空間的には旧都に出るより前に湖に出る。
「自分がいつも、いつまでも正義だなんて思ったのかしら?」
フィス︙F担当。ガチ悪魔枠2。本来望んでいたものを忘れさせるほど心に別の物を詰め込んで幸せにする悪魔。
みんな幸せ。でもパチュリーさんは何詰め込んでも魔法に帰結するから諦める。
「いや、別に何も強制されてないけど……。何かあったの?」
エリス︙E担当。お前何やってんの枠2。サリエルに釣り合うだけの部下になるために修行しに来た。
ヴィナと知り合い。魔界トーナメント審判のバイトを兼業。
「虫は死ね。……あ、おはようございまし、ノーレッジ様」
デイ︙D担当。ツンデレ枠2。通称バグ殺しのディート。
リノと同族嫌悪。魔法におけるバグも弾いて無理やり正常に動かせる。
「さささ、どーぞどーぞ! 今日のコーヒーは(魔術に)自信があるんですよ!」
コア︙C担当。いつもの枠。パチュリーの側近(自称)。
計算系の本ばかりが並ぶ自分の書架はあまり好きじゃない。だから書架はクーに押しつけ、他のことを主にやっている。他の小悪魔たちの現状把握とか。だからといってCのどこになんの本があるか知らないわけではないが。パチュリーに会いに来たときに見かけるのはだいたいこいつ。最近の流行りはコーヒーにバレない程度に大規模魔術をかけること。魔法ではない。詳細は悪魔的秘密。
大概なレベルで臆病。口達者なのは自分の弱さを隠すため。コーヒーにかけている魔術は頼りない自分の代わりに頼れる主を作り出すため、ほんの少しだけ飲んだ者へ自分の魔力を分け与えるもの。ただし蓄積する。なお、なまなかな主だと魔力中毒起こして死ぬ。
これもディゾルブスペルでぶっ壊れたのだが、何ら変わりなく動くパチュリーにひっそり安堵していた。どうやら伸ばした最大値までは元に戻らなかった模様。
「ひっ! い、いや、そんなことはないと思いますぅ……」
ベル︙B担当。小動物枠。迷える図書館利用者に助言を囁く。
アンの補佐。あまりに目立たないので、見つけた人には幸運が訪れるとされている。
「排除。完璧! では帰ろうか、帰りましょー」
アン︙A担当。週刊英雄枠。
魔本は置いておくだけで周囲に特有の魔力を漂わせる。そして週に一体ペースで魔力が混ざりあって魔物が生まれる。これを異界に飛ばしたうえで瞬殺しているのがアン。
しかしここは紅魔の図書館。時折とてつもなく強い奴が出てくるわけで――というのが最終着地点だった。
脳筋。逆刃の鎌を愛用する。