「貴様まで来るとはな。地下にも影響があるのか」
「また君か。地下から地上が見えなくなったんだ、何かと思って来てみればこの通りだよ。帰る方法は知ってるかい」
「行きたい場所を念じて触れる。それで飛べるが…貴様の場所は厳しいかもしれんな。何度か聞いている、『他人もよく知る場所ほど簡単に飛べる』とな」
「なんだって? まるでフシビ対策じゃないか。……いよいよとなったら、この物質が晴れるまでここにいたほうが早いかな」
「貴様はインフラの要だ。先に戻したいが、試すリスクが大きすぎる。飛べば飛ぶほど身体への負担が蓄積するのだ。それで貴様が死ねば何の意味もない」
「よし、ここに留まろう。寝泊まりの場所はあるかな」
「自分で建築しろ。建材はある」
「……マニュアルはあるかい?」
「先輩ならそこに居る。仲介はしてやるから聞き出せ」
「君、君。僕の能力を覚えてるかな。あの部屋を出たら何もできないようなものだよ。しかも見た目はこれさ」
「記憶は食えるのだろう。なら何とでもなる。失敗を恐れるな。そのほうが好印象だ」
「うぅ。……そうだね、郷に入っては郷に従えだ。でもダメだったら助けてほしい。頼めるかな」
「私ありきの交渉をするようなら、助けない。いいな」
「ありがとう」
「お疲れっ、五良木クン」
「は? ……あぁ…お疲れ。意外だよ、君は楽屋だと黙るタイプだとばかり」
「それは精神集中的な意味でいいんだよね? そんなのしないしない。気を張り詰めるほど死ぬような場じゃないんだよここはぁ」
「確かに、ナカリアに比べれば大分楽だ。ワンミスで住居が吹き飛ぶわけじゃない、後遺症が残るわけじゃない。……そう考えれば、一番実験に向いているのは今かもしれないね」
「そうだぜ、だったら楽しむべきだよ〜。解決は何一つしない、それを見る人に解決させる。それが楽しむ人だよ」
「穿った見方だなぁ。遊びは最も非効率な効率探索だ。時間がかかるにせよ、解決に寄与してるのは変わりないだろう」
「でもそれより早く周りが終わらせる。むしろ君は座っててって言われるばかりだ。本気を出せるのはいつだって他人事だからだよ?」
「他人事なのは君の性質だろう。一般化が早すぎる。自分に取り込んで、自分事だから本気が出せるんだ。なにせ自分だけが可愛いんだから」
「ん〜平行線だね。議論出尽くしってわけじゃないが、二人揃ってスタンスが明確だ。これ以上はいわゆるケースバイケースって感じ」
「議論から逃げるなよ」
「何だぁ? 何だってテメー一人でここにいんだ。酒樽一つ持てねぇヒヨッコがよぉ」
「飲んでもエネルギーにしないあなたに言われたくないわよ。まぁ、ちょっとした調整ね。『俺とばかり喋ってたらデータが偏るから』って」
「はぁーん。体裁整った人払いだぁな。成人向けの整理でもしてんのかね?」
「ちょっと、気になる可能性を出さないでよ。……いや、なんだか確信じみてるわね。あんたどっかから見てた?」
「んなもん誰が見るかよ。その方が面白いってだけだ。つーかよ、そもそもこの街にそんな性欲自体存在するのか怪しいぜ」
「人前で詳らかにする方がおかしいのよ。あなたが見てないだけで、全員裏じゃ自慰三昧よ」
「興行って知ってる?」
男装の麗人
らじお
「主に仕えることはできても、一人で傲慢に生きていけても、会社の歯車として生きていくことは、その姿すら想像することができない」
「組織は必要だ。願いを叶えるなら、力を合わせるべきだ。そのために最適な形として選んだのが企業だ」
「社員は奉仕するものじゃない。夢と現実をすり合わすものだ。封建制度を置いてきた気になって、その実数億年たとうが忘れられない」
「……結局もって、想像力の欠如だ。他人の夢がどれほど自分と合うのか分からないのだ。分析するのが怖いのだ。たとえ0であれ、結果が出るからこそ使いようがあるというのに、それをこちらで決めようとする。傲慢だ」
「結局のところ、全てはすでに決まっている。我々ができるのはそれらを咀嚼し、新しく答えを出すことだ。正確でなくていい。しかし納得させるものを」
「……過ることがある。『偉大なる人生を歩む他人に、何を提示できようか』」
「だがそう言うのであれば、自らもまた偉大なる人生である。提示せよ、答えを」
「……」
「……」
「……あなた、無口なのね」
「……多く語れば、私は弱くなる。知らないからこそ、私は殺せる」
「ああ、そういう価値観なのね。てっきり振る話題を知らないのかと」
「そういう貴方は喧嘩以外に知らないのかしら」
「知ってるけど、あなたが返してくれないなら何も言わないわよ。やる気のないやつは何やったって無駄だもの」
「それなら、話しかけるあなたは時間の使い方を知らないのね。貴方と話すつもりは微塵も無い。当然よ」
「……」
「……」
((こいつ、いるだけでムカつくな))
「男っ気が足りない」
「はぁ」
「おかしいと思わない? この都市にいる人間、女は多種多様千差万別よ。けれど男は? 表にいるの、ショタ壮年壮年枯れ社畜女顔筋肉よ。イケメンが! グッと来るイケメンが足りないと思わない!?」
「まぁ、思わないでもないけどさ……海に行くってなって、素直に遊ぶタイプ、いないだろうなって思うし。六角くんでも護衛に止められそう」
「そう! それよ! 五良木の言葉を借りるなら、常に私を愛してくれて嫉妬してくれる吐息混じりの低い声で囁くイケメンの顔をした物体が足りないわ!」
「あ、やっぱり特に性欲とかじゃないんだ」
「私は違うけど、性欲に訴える人型が欲しい! というかAIに少しくらいいてもいいじゃない!」
「ただでさえAIって固い印象持たれがちだし。それを解消しつつ、かつ誰でも聞き取りやすい万人向けの声ってなると、まあそうなるよ。というかそれを選択肢に入れるなら作っちゃえばいいじゃない」
「……ほんの少しでも疑ったらダメになるのよ、こういうの。なのに、作った私がそれを楽しめると思う?」
「もしかして、理解しちゃったから逆に駄目なアレ?」
「私は! そういう歴史の浅いやつじゃなくて、ちゃんとこの世界で生きてきたんだな、世界に痕跡残したんだなってわかる、ナチュラルな人型がいいの!」
「それはもう情報を食べる域だと思うけど。えぇ……あー、うちの百人隊にいたかも……?」
「詳しく」
「切り替え早いね。一言で言うなら……おもしれー女する男みたいなのが居たような。私女じゃないから、私見たときに壊れちゃって、見たもの何でもおもしれーって言い出すようになったけど……」
「そう! そういうのよ! そういうのもっとちょうだい!」
「そうかなあ? なら…………えっと、確認だけど会った瞬間から好感度カンストみたいな感じでいいの?」
「グッド! けど必要条件じゃないわ。とりあえず決して人のせいにしないし、こっち守ってくれるし、向こうもこっちを必要とするタイプね! こっちがぐいぐいしなきゃいけないのはカット!」
「誰か一人を狙い撃とうとしてる?」
「リッスン! ポップ! レェーディオ!」
「始まりました、七楢ナイトナッビング! パナは私楢名! そしてぇ〜」
「……七番地区接続長、七篠」
「この二人で投稿されたお便りを返していく! 以上! これが七楢ナイトナッビングだ! ……ってことで、ここからは通常テンションでお送りするよ」
「……良いの?」
「良いんだよ、七篠くん。これはライフログみたいなものだからね。あとから聞き返すのにずっと音量大きいとね。ノーマライズもタダじゃない」
「……そう。じゃあ、僕も……える……」
「いや七篠くんは素で十分だよ。私に合わせるくらいでいいから。うん、そう、そう……よし! 調整できたとこで、早速お便り読んでいこう!」
「……お便り?」
「ラジオネーム、『日記162』さん。『新しい日記帳を買った。前の日記はロワイヤルスプーンをひっくり返して燃やしてしまったので、今度は耐火性だ。ついでに私の力では千切れない紙を選んだ。紙の端に注意すること』うーん、素晴らしい注意書きだねぇ。初めて触る私達も安心だ」
「これ……ここ宛じゃ、な」
「『二日目。早速耐久性に感謝する日が来た。窓からなだれ込んで来た、あの虹色に照り返すスライムのようなものは、触れたものを中に引きずり込むようだ。
「世界ぜーんぶ、ぐっちゃぐちゃになっちゃってさ。それでも何もしないでいるなんて、逃げじゃないかなぁ?」
「その別のことがいつかできなくなっちゃうのに、それを考えもしないでさ。あーあ、羨ましいな。本当に、私も君みたいになりたかったよ」
「それだけ状況が悪くなれるように、念入りに潰してやらなくちゃいけない。本気で悪でなくちゃいけない」
前回のあらすじ:
外ヤバい。終わってる
「テメーか。外にいるなんざ珍しいなぁ」
「ふっ……時代は常に進歩しているんだ。これはリモートワークだよ」
「……そうか。まぁいい、それでも話は聞けるんだろ? あの物質について、知ってる情報を吐いてもらうぜ」
「
なんやかんや、強力に人を引っ張るカリスマあるいは目的があるから筆が進む
五良木君は寄り添ってパフォーマンスを上げるサポーターなので、対象がいないと進まない
つまり目的は対象依存になる
二条は聞き出すこと自体が目的だった
楢名は……
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