「……これ、家?」
 「らしいよ。」
 「いや、無理があるでしょ。」
 「現代アートってやつかしら?」
 光の元にたどり着いた私たちを出迎えたのは、岩で圧縮された瓦礫の山と、家が潰れてから置いたであろう、新品の灯篭一つだった。家が落石の被害にあったのは聞いていたが、ここまで完全に潰れているとは言っていたっけか。
 「最近の家ってのは瓦礫の山のことを指すのか?」
 「寄り合っているものという意味ではそうね」
 「大義にも程があるわよ」
 封獣が珍しくつっこむ。クールキャラじゃなかったのかお前。
 「つーかみとりはどこいったんだ?整理してるんじゃなかったのか?」
 「そうだねー、家の潰れなかった部分の整理をしていて、そのうえで家がこのざまってことは……」
 「……おい。」
 一同顔を見合わせる。どうやらひと手間増やして自身は瓦礫の下で昼寝中らしい。いい身分だ。
 「……はぁ。どうすんだ。一つ一つどかしてたら日が明けるぞ」
 「もー、しょうがないわね。フランちゃん。」
 「何?レーヴァテインの準備はOKよ」
 「おい待て、何する気だ」
 「じゃ、手っ取り早くお願い。」
 「了解」
 「おい……おおっ!?」
 フランドールがレーヴァテインを横薙ぎする。一閃。次の瞬間、家を包んでいた岩が消滅し、瓦礫だけになった。
 「さすが、伝説の枝!これだけの岩でも安心と信頼!」
 「枝じゃないって言ってるでしょ。これは剣よ」
 「え?杖じゃないの?」
 「……」
 あっさり岩を蒸発させやがった……これが強者の力か。本当、こういう奴がいるからバランス崩壊するんだ。私が新しい世界を作ったら真っ先にこいつを消そう。今はまだ無理だが。
 「さて、ここからは一つ一つ瓦礫どかしていくわよ。みんな、軍手は持った?」
 「ない」
 「ない」
 「ねーよ」
 「よし、みとり救出作戦スタート!」
 合図とともに瓦礫に掴みかかる三人。あれ?何しに来たんだっけ私達。
 
 
 「便利だなお前のそれ」
 「でしょう?結構練習したんだから。」
 瓦礫撤去中盤。古明地のほうから――さっきからずっとだが――明らかに手だけでは出せない沢山の音がしたので、気になってそちらの方を見てみた。そこにあったのは大量のコード。
 どうも古明地はサードアイのコードをある程度自由に動かせることを悪用して、瓦礫をコードで弾いたりして動かしていたらしい。弾幕の練習の際に偶然これを習得し、最近コードが伸ばせることに気がついてからはさらに練習に励んだとか。
 確かに効率は良い。……けど、あのコード大事なやつじゃなかったか。前に心臓から伸びてるとか言ってた気がするんだが。
 「お姉ちゃんの想起を見て練習してたらこうなったの」
 古明地がコードで弾いた瓦礫を壁にぶち当てる。やや遅れて、ぐしゃり。という音が聞こえてまてまて、どんな威力してんだおい。岩が粉微塵になったぞ。
 「ご覧の映像はフィクションです」
 「いや、無理があるだろ。つーか想起って確か催眠技術じゃなかったか?それのどこを見たんだこれ。」
 「んー、心構え?」
 それは姉からでなくても学べそうな気がするのだが。これは全くの別モノになってるぞ。
 「しかも戦闘にも使えるからね。とっても面白いの!」
 「頼むから私に使ってくれるなよ。突破できる気がしねえ」
 「えー。でも私もアレぐらいになりたいしなあ。」
 「あれ?」
 「ほら、アレ。」
 古明地が自分の後ろを指さす。そこに居たのは封獣だった。目をつぶって瓦礫の前に立っている。何をするんだ、と見ていると、
 瓦礫が一瞬にして数十分割された。
 なっ?と声を出すよりも早く、瓦礫が封獣の横に積まれていく。視覚は封獣が赤の羽の刃で瓦礫を切り裂いたことを伝えてくれるが、それでもにわかには信じ難い。
 「……なんだあのスキル。さすがに引くわ」
 「でもあれだけ早いともはや芸術だよ。派手さではフランちゃんだけど」
 「だろうな」
 私は後ろを振り向いた。
 そこら中が次々爆発する。飛び散る瓦礫。溶ける瓦礫。こちらに吹き飛ぶ巨大な瓦礫。
 「うおっと」
 咄嗟に小槌で打ち落とす。大中小取り揃えた瓦礫の中心に、炎剣を突き刺して立っている四人の少女。それが今のフランドールだ。
 「瓦礫撤去にフォーオブクランベリーレーヴァテインとかやり過ぎだろう」
 熱量がこっちにまで伝わってくる。かなり本気に近い温度だ。
 「それだけ心配なんでしょ。なにせ依頼人だからね」
 あの方法、その依頼人を岩と溶接しそうなのだが。これ早く見つけないとあいつがやばいぞ。にしてもどいつもこいつもこの強さか……いずれこいつらを倒さねば新しい世界が実現しないと考えると気が滅入る。また門番倒しに行くか。
 滅入ってばかりもいられないのでとにかく瓦礫を撤去する。小槌で穴を作り四尺マジックボムを投下。ひらり布で飛礫を完全回避。サブデコイ。これを繰り返す。周りに飛ぶ礫など知らぬ。
 「……正邪ちゃんも大分こっち側だよね」
 「あ?なんだって?」
 「何でもないよ。早く助けなくちゃね。」
 「このまま埋まってても平気そうだがな」
 「冷たいねぇ」
 「暑いんだよ」
 私は次のマジックボムをセットした。