「さてはご覧あれ! あちらに見えますは水晶菊! 押し固められた岩の織りなす奇蹟の一品なり!」
「ふわぁぁ……綺麗……!」
 その陽気な声は明朗に響き、暗い地底を彩った。
「ローズクォーツとも呼ばれますこの紅水晶を、主に地下水がゆっくりゆっくりと削り取ったがゆえ生まれたこの美しさ! 地底一押しの自然工芸でございまーす!」
「こんな物まで作るなんて……自然って凄いわ!」
 感動しているところ悪いが、地底で言う自然は鬼の暴威も入っている。力試しでぶん殴ったり、ぶん投げられた妖怪がぶつかったりして削られた部分も少なくない。
「……ほら、行くわよ。日が沈んじゃうわ」
「おおっと、そうだねぇぬえちゃん。行くよメディスンちゃん、帰りにまた見に来よう!」
「ええ、もちろん!」
 まあ――誰も作りたくて削ったわけではないから、奇蹟というのは間違ってないけれど。

 さて。現在、私達は二班に別れて別行動中である。
 次に向かう場所は、魔理沙や影狼のようにいきなり押し掛けると少々面倒な事になる。具体的には私達ではなく、紅魔館や命蓮寺などに声がかかってしまうのだ。それを避けるためにはまず、地霊殿の主――さとりに会いに行く必要がある。
 そして話を通すとは、今日中の依頼解決は無理であるという意味にもなる。次に動くのは取ってもらった時間帯に依存するから、早くて明日、遅くて三日後程度だろうか。そうなるともう一人、会うべき相手が浮かび上がる。覚悟が決まれば会いに行くと言って、ほったらかしてる魔理沙だ。一日以上かかるとなると、流石の彼女も冗談では済ましてくれまい。

 要するに、今日中にさとりと魔理沙に会わなければならないのだ。

 なのでコンタクト班と伝令班に別れ、さらに『コンタクト班にこいしを入れること』『(外なので)伝令班なら小傘とフランドールを一緒にすること』『メディスン・天邪鬼・私の編成は(歯止めがかからないので)止めること』などを考慮して人員を割り振った。天邪鬼が少し渋ったが、まああれは誰相手でも渋るので無視した。

 よって、今回の私はコンタクト班だ。残りの二人はメディスン、そしてこいし。何というか、私が引率しなければ当初の目的を果たせない。そんな気がする。

「ややや、お客様は運が良い。あれに見えるは焼却予定の人塚。生命の力が妖力に変わる、その瞬間を目にも見よ!」
「あぁ……いい毒、人の心を蝕む毒……」
「行くわよ」
 そんな気は、少しずつ変わる。
「おおっと。少しばかりご注意を。ここは地底と地上の境界線。橋姫のおわす旧都の最前線である! 後戻りはできぬぞよ?」
「こ、ここが……うう、準備はちゃんとしてるわよね……?」
「妬ましい……妬ましい……嫉妬をものともしないその精神性が……」
「相変わらずね、あいつ」
 いや、少しではない。きっと初めから、分かっていた。