m「いらっしゃいませ」
m「何になさいますか?」
i「……リラドリ……ロックで」
m「かしこまりました」
m「ずいぶんとお疲れのご様子ですな」
i「ふふふ……9徹明けさ。直前が連休だっただけに、来るね……っていうか、来た」
m「ですからリラドリを?」
i「ああ。それに、ここ以外で見ないしね」
i「あぁ……沁みる」
u「あのー、すみません。あちらの方と同じ物を」
i「おや、あなたも飲まれるんですか」
u「美味しそうに飲まれてるので、気になりまして。お気に障りましたか?」
i「いえいえ、とんでもない。貴方のような可憐な方と共に飲めるのなら、そこらの果糖ブドウ糖液糖もシャトー・マルゴーです」
u「そのブドウには荷が重くありませんか?」
u「……効きますね」
i「そうでしょう。これを飲んでいると、何もかも忘れそうになります。洗濯物……ガスの元栓……窓の鍵……」
u「どうして不安を煽る必要があるのですか?」
i「おっとすみません。しかし、心地良さはお分かり頂けたかと」
u「……そうですね。私も嫌な事、少しだけ下ろせそうです。体の歪み……朝の支度……」
u「外の景色」
i「……もうすぐ、三年になりますね」
nその日、外は消えた。
n世界有数の大陸から染み出した、謎の物体。
n固体でも気体でもないそれは、「任意の面に触れたものを別の面に瞬間移動させる」という性質を持っていた。
n始めこそ、人々は喜んでそれを扱った。好奇心だけで研究した。便利になると考えて普及させた。
nそれが、あまねく外に満ちるまでは。
i「三年のうちに、副作用が見つかった。瞬間移動には分子結合を不安定にする効果がある。決死の覚悟でそれを伝え続けたジャーナリストのうち、大半は体が溶けて亡くなった」
u「もうちょっと別の時にその話をしませんか?」
i「しかし、対策も分かったんです。あなたもそれを知っているから、ここに来れたのでしょう。何も不安に思うことなどありませんよ」
u「……それは、無理です」
u「確かにどうすればいいかは分かりました。しかし、それが何なのかは結局わからないままです。いつ裏切るか知れたものではない。その時、止められる人がいない」
u「言うなれば、あれは……レムロフは、目に見える死の恐怖です。なぜ、あなたは平然としていられるのですか」
i「……平然となんて、してないさ」
i「たとえ暴走しても、過去の似た事例を組み合わせて対応するだけ。それで足りないなら人を頼る。やることが分かれば、進むだけだ。そこに怖いかどうかなんて関係ない」
i「だからまぁ、言うならそうだな。怖いのは怖いけど、それ以上にやることがあるからだ……ですね!」
u「やること、ですか」
i「そうですそうです。貴方にもそういうのありませんか。いやまあ、やりたいことだったら一番ですけど」
u「……そうですね。あなたのおかげで、一つ済みました」
u「あなたが信念を持って仕事をしておられること。それが分かっただけで収穫でしたよ、五番長様」
i「……えっ、あっ、最初から俺を知ってたの!? ちょっ、やめようぜそういうの! めっちゃ恥ずいんだけど!」
u「はいリラドリ」
i「すごく落ち着いた。……やめようよぉ。俺、たまにはカッコつけてもいいよなってめっちゃ気張ったのに……」
u「無理してる感がすごかったです」
i「あっはっきり言われるとダメージが大きい」
u「とても笑顔になれました」
i「あっ耐性貫通」
u「今も笑顔です。レムロフ対策本部の五番長は、本部下っ端の私にとって希望の一つですから」
i「あっ……それは光栄にございます……ごめんね、希望がこんなんで……」
u「いいんですよ。こんな世の中だと、こういう時間が何より大切です。マスター」
i「その大切な時間を分けていただけたのは幸甚に存じます」
u「なんでそれは無理してない感があるんですか」
i「勤務地がちょっと」
u「来た来た。どうぞ、お詫びのリラドリです」
i「おお、ありがとう。俺、そんなに二杯目が飲みたいって顔してた?」
u「してましたね。『ロックだから長く飲もうと思ったのに』って感じです」
i「そうかあ。……せっかくだからアレやろう。マスター」
u「あ。すみません、お気に召しませんでしたか」
i「いや、そんなことはない。せっかく二杯目なら、違う飲み方をしようと思ってさ」
i「リラドリ、バタフライピー、クランベリージュース、グリッター、柑橘類とハーブ」
i「完成。ザ・ギャラクシー」
u「わあ……って、なんで得意げなんですか、貴方が」
i「これは俺がマスターに進言したレシピだからだよ。気分が塞いだときは、宇宙のことを考えるに限る」
飲む
i「このご時世じゃ、宇宙の動画だってそう手に入らないからな。……というわけで」
i「飲みたいかい。奢るよ」
u「……いただきますよ」
u「貴方が美味しそうに飲んでいると、気になりますからね」
(笑い)
remrof
former
i「よし勝った」
u「ムードって知ってますか」
i「雑味だね。多すぎると困る」
u「ムードって知ってますか?」
「さて、そろそろお暇しようかな。だいぶ眠くなってきた」
「ふわ……私もです。本当に効きますね、これ」
「ちょっと効きが強くても、今なら歩いて帰れるからね。全く、商売上手だよ」
会釈
「では……おっと」
「すみません、流れとはいえ二杯も飲ませたせいで」
「いえいえ……飲んだのは私ですから。一杯目で、予想すべきだったんです」
「……でも、入り口まで肩を貸していただいて……よろしいでしょうか」
「もちろんで……すっ!?」
「……やっぱり無理ですか?」
「いっ、いいいいえ! これくらいはさせてください! 平気ですから!」
「では、お言葉に甘えて」
「ぜっ……はっ……」
「ありがとうございます。ここまでで平気です」
u「そうそう、五番長様。私は目的を隠していましたが、一つも嘘はついてないんですよ」
u「マスター、こちらの方と同じものを」
u「貴方が美味しそうに飲んでいると、気になるんです」
ありがたく頂くよ」
「あ。すみません、お気に召しませんでしたか」
「……せっかくだからアレやろう。マスター」
モクテル
「……俺、そんなに二杯目が飲みたいって顔してた?」
「してましたね。あと、これが食べたいなという顔も」
「茹で卵に塩振って薄切りにしただけの奴です」
「君もしかして相当リサーチしてた?」
「
お詫びに私の名前をお伝えしますね」
「急にどぎついブラックジョーク刺し込むね君」
「それなりに本気ですよ。このご時世で、貴方に会えたのは奇跡に近いと思っています」
「はいリラドリ」
「すごく落ち着きました。……あの、本当に本気なんですが」
「」
早く答えてください。いりますか、いりませんか」
「失礼、貴方に会えて私も舞い上がっていたようです」
こんな世の中だと、こういう時間が何より大切ですから。マスター」
「その大切な時間を分けていただけたのは、幸甚に存じます」
「なんでそれは無理してない感があるんですか」
「勤務地がちょっと……」
「来た来た。どうぞ、お詫びです」
「ロックを一気に煽ったようでしたので。二杯目です」
「おお……君、仕事ができるってよく言われない?」
「それと、茹で卵に塩振って薄切りにしただけの奴です」
「君、最高に優秀ってよく言われるでしょ」
「」
茹で卵に塩振って薄切りにして爪楊枝通しただけの奴
Boiled eggs, sprinkled with salt, sliced thinly, and just passed through a toothpick.
「こ、これは……!」
「リラドリお代わりと、茹で卵に塩振って薄切りにしただけの奴です」
「ありがとう……ありがとう……っ!
「言わないのも不義理かなと」
「伝えない優しさもあるって~」
「それは普通の優しさでは?」
「それは伝わらない奴だって~。……ところで、帰るなら一つ聞きたいんだけど」
「何でしょう。私の名前ですか」
「ブラックジョークに遠慮ないね君」
「」
「いや、大したことじゃないんだけどさ」
「」
「……今日は泥のように眠れそうだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「そういえば、あなたはなんと呼べば良いですかね。俺は五番長って通り名があるけど、あなたに無いんじゃ不便ですよ」
「不便じゃありませんよ。私、私が会いたいときにしか会いませんから。待ち合わせもしないならいらないでしょう?」
煽ったの、私ですから。マスター」
「すごく落ち着いたからです。はぁ……決まる」
「……あのこれ、大丈夫なんでしょうか」
「100%合成です。成分の1フェムトまで調整可能ですよ。良ければ製造過程をご覧になられますか」
「結構です。」
「」
こ
こんな世の中だと、こういう時間が何より大切ですから」
「言わないのも不義理かなと。対策本部の五番長から真剣にお答えいただきましたから、私も」
「残りは帰ってからにします」
「伝えない優しさもあるって~」
「それは普通の優しさでは?」
「それは伝わらない奴だって~。……ところで、帰るなら一つ聞きたいんだけど」
「何でしょう。私の名前ですか」
「ブラックジョークに遠慮ないね君。 いや、大したことじゃないんだけどさ」
「」
「今日はもう結構です」
「もうちょっとだけ、頑張ってみようって思えたので。次は私が奢りますね」
須日
「俺は来週もここにいるよ」
「やっぱり、あなた気を張るのは向いてませんね」
「私はしがない一般人ですよ」
「はい、フィズ」
「疲れてたのは本当だろ。でも、飲み差しはくれたから無くなっちまった」
「えっ? あっ、間違えた」
「間違いかい。まあいいや、やるよ。最強の飲み方だ。」
」
「何より、その肩書は隠すものではないでしょう。対策本部の五番長は、私達の希望の一つです」
「常にその精神でいられるなら、リラドリ飲まないよ。たまにはこう、番長を休んで……人間になりたかったんだ」
「せめて人扱いはしてあげましょうよ、同僚」
「」
いまさら少々名が売れたからといって、あなたに不都合があるんですか。
「はいリラドリ」
「すごく落ち着いた。……やめようよ。
プライベートな場で監視なんて」
「言わないのも不義理かなと。それに、監視という
- バーにてリラドリを注文。同じものを頼んだ女性を口説く。
何処にでも行ける以上、プライベートは消滅した。
だが思ったより犯罪は増えなかった。犯罪者もすぐに捕まるからだ。
部屋に付ける置き型警報&捕縛装置が流行り、その装置の製造ラインに忍び込まれ製品が盗み出され、研究され捕まり……
屋根のある場所に来ないため、扉も窓もエアロックが当然となった。
大きさが合わない扉や窓だと、ちゃんと体を壁にぶつける。
そのため、大きさを合わせたハブ部屋が作られた。
行きたい場所へのマニュアルが同梱された部屋
外を見ることは出来た。ガラス張りの向こう側には、世界が見える。
だがそこへ歩き出すことは決してできない。
反対に大きく開かれた入り口などからは、相も変わらずその物質が見えた。
(ここは後からでいいや)
地下暮らしが最も安全とされ、人々はほぼ地下へ移り住んだ。
地上にあるのは、その地下への入り口ばかりだ。
けれど、それは滅びの先送りに過ぎない。
その地下にこそ何かがあるのだと、人々はダンジョンと呼び、
そこで暮らしたり攻略するようになった。
屋根を作り、持ち上げながら壁を作る工法により、
高いタワーを建設する計画があった。
これが出来るなら、いつか再び宇宙へ向かい、地球を測定することができる。
(電波が無いので、情報を持ち帰るには有人以外ありえない)
発射場への屋根工法と同じように作られた。
でも宇宙服を着て「宇宙」と言えばいいのでは?
宇宙にまで届いてないとか?
じゃあ対流圏、成層圏、中間圏、熱圏を一気に試すだけで良くないか。
まあでも、重力圏にかかってるならいけたところで感はある。気球で昇る必要が無いというだけ。どの道長い時間観測する必要はあるだろうし、気球ルートは残る。
とにかく外に出て、外で物を作り始める。それだけでいいはず。
地上で作って外に構造物をぶん投げることができるので、
名前を知られるとそいつの家とか大事な物とか、友人にすら危害が及ぶ
いままで関係を持ったものすべてが危険
なので名前は教えてはならない。……が、五番長とかの「肩書」でも普通に飛べてしまう。(狙いの五番長に当たる確率は落ちる)
つまり何かしらの役職を与えて管理しようとする秩序へのアンチ。名前も役職みたいなもんだし。この環境下で新しく生まれた命は、AとかBとか一般的な管理をするべき?IDを振るとそれで飛べてしまう。
本当に結合だけか?
あれが溢れてから、自分の友人にも狂人が増えてきた。
「同一性」が崩れ、全てが不信に陥る人ばかりだ。
ばかばかしい、それを解消できる人間の場所にだって転移できるのに。
存在しない場所の指定や、指定なしで入るとランダムにぶっ飛ばされる。運が悪いと死ぬ。
なので万全を期すなら宇宙服なり着るのが一番だが、宇宙服着てた方が簡単に死ねなくてヤバいという説もあり。
外になったのは内側ではないか。
触れたものを飛ばすのなら、あるいは内だけが包まれているのでも気づかない。
触れているものすべてというなら、地球が動かなければおかしい。
ある一定以上の質量は無視するはず。
建物が動かないのもおかしい。
いくら基礎を立てているとはいえ、地球と完全に融合しているとかそんなわけじゃないはず。
土を外に出すのに活用。
入ってきた物体は屋根で押し戻す。
これ隕石が室内に入ってしまうのでは?
どんな時だろうとも、声を失くしてはならない。
口を閉じるわけにはいかない。
だから、私たちは今日もマスクをつける。それが溶けて潰されないように。
そういえば、名前を言っていませんでした。私はい……愛土って言います。はるばる五……六番地から来たんですよ。あなたは?」
「遥です。四番地からなので、お隣ですね。……別に、五番地だからって差別しませんよ」
「ああ、それはありがたい。このご時世に余計な火種はと思ったのですが。お強いんですね」
「たぶん、貴方と同じ道を通りましたから。最低限はあります」
「」
世界は、五分前に出来た。
その証明が数学的になされ、疑いようもなくなった日。
一瞬は人々が怠惰になりかけるも、一年ほどで元に戻った。
それでも世界は変わらなかった。目の前の仕事は減らなかったからだ。