第一章 招かれざる客
白玉楼。
たっ。たっ。たっ。……
静かで、秒針を思わせるリズムの足音。静かな白玉楼の階段、そのあたりから聞こえてくる。
たっ。たっ。たっ。……
庭で木を整えていた妖夢は、思わず手の中にあった二振りの剣の動きを止めた。
たっ。たっ。たっ。……
まるで歯車のように、徐々に近づく足音。
\この的は強調
誰かが今、一歩、一歩と階段を上り、白玉楼に向かってきている。
たっ。たっ。たっ。……
その足音に、無意識に白玉楼の庭師に僅かな緊張が走る。
やってくるのは、招かれざる客。
だが客人に対して、面と向かって剣を構えるのは良くない、そう幽々子様は言っていた。それゆえに妖夢は剣を鞘に戻した。
秒針のカチカチ音を聞くと、誰でも自然と緊張感が生まれる。やってきたのは誰だろうか、妖夢は考える。
たっ、たっ。果たして、まず目に入ったのは、火焔のように鮮やかな紅い長髪。それから赤毛の下に見えた、幽霊のごとく白い顔。そして、悪魔じみた眼。
……好意を持っているとは思えない奴だ。妖夢は暫くして、そう判断を下した。
その招かれざる客はついに白玉楼に到達し、今、妖夢との距離を狭めている。彼女が歩みを止める。
//どっちが歩みを止めたんだ?多分妖夢?
妖夢は彼女を見ると、後ずさりせずにはいられなくなった。彼女の身長は高く、仰ぎ見た顔に張り付いている冷笑には、今まで感じたことのない恐ろしさを感じる。更に、その両手に架かっているのは一振りずつの長剣。彼女はそれを手に、一歩一歩階段を登っていく……
この時すでに、彼女は攻撃態勢を整えていた。
……面倒を携えて来た奴のようだ。それが妖夢の二次判断だった。
「お前は……」妖夢はそんな出で立ちで近づいてくる彼女に対して言葉をかわすのは不自然に思い、
//なにここ、分からない
楼観剣を抜き、彼女を指して、言った。「何者っ?!」
彼女は口の端をわずかにつり上げ、笑いながら二文字を口にした。「天人〜」
……この面倒は小さくない。三次判断。
妖夢がまたこの後に何をすべきかの思考を始めるのを待たず、その天人は突然前に躍り出ると、長剣を妖夢に向けまっすぐ突き刺してきた。
妖夢は驚きつつも、とっさに楼観剣を自らの目の前で横に向けその一撃を防ぎ切る。
その冷ややかに笑う恐ろしい顔が、飛ぶような速さで自分の方へ来る。
「ん〜、もう一本も出して来ないと、あなた死んじゃうわよ。」
まだ空中にいる彼女は剣から力を抜き、体を前に傾けたままの速度で、すでに距離を縮めている。素速く二の太刀を突き刺す。
ツイてないな、あいつに先手を取られている、私はまだ甘く見ていたか。
妖夢は手を伸ばし、背後の剣の柄をしっかりと掴んで、体を後ろに向け、仰け様に猛然と身体を回転させる。
キィン!
非常に澄んだ音。相手の攻撃は弾き開かれ、妖夢は回転中に身体の後ろにつけていた白楼剣の鞘を開く。
相手に向けて妖夢はその身をしっかり立て、そのまま楼観剣をも抜いた。今度は妖夢は正解を予感した、自分と近いところにいる相手は身を翻しつつ猛烈に斬りかかってくる。妖夢はその一撃を防ぐ為に二対の剣を十字に構えた。問題無い、双剣に防げぬもの無し、その後は私が主導権を握る。
……すう……
幻覚だろうか、近づいた彼女は妖夢の剣にはっきり見た、彼女の剣の柄の太極を……彼女の剣と自分の双剣がぶつかるその瞬間、太極は突然回転を始めた。太極の黒は白に変わり、白は火と化す。
//彼女が多くてどっちだか
……カッ!!!妖夢の瞳孔が見開かれる、手の中に巨大な力を感じる。そしてただ一瞬、その一瞬の後にはもう、彼女は地を震わせ飛び出していた。
「ハァッ!!!!」
空中で妖夢は素早く意識を取り戻した、さっきの巨大な力はどういうことだ?妖夢には分からない。空中の彼女は瞬く間に身を翻し、姿勢を調整し安定させて着地する。
「……ふう!」妖夢が大きく息を吐く。その突然の敵は、突然のあまりに強力な攻撃に少なからず驚いていた。
「は〜」それほど遠くないところにいる彼女は、ようやく僅かに自然な笑顔を見せ、剣の構えも収めた。
「判断は間違ってなかったわ、魂魄妖夢。前にあなたが有頂天に来た時、私はすぐ気に入ったのよ〜」
「えぇ?〜納得行かないわね〜妖夢は私のよ〜」
突然不思議な声がした。それは団子を食べつつ喋りかけてくる。
「え?……」幽々子が突然現れた。事態の展開に『被害者』妖夢は一瞬反応が返せなかった。
「んむ、もぐ、もぐ、もぐ。」やってきた幽々子は団子を噛みつつ妖夢を見て微笑する。
//邊と著の違いがわかりやすい
双剣を持ったままの妖夢はその間ずっと彼女の方を向いていた。妖夢は私のだ、その言葉に妖夢は心が踊り出すのを止められなかった。
「もぐ、もぐ、私の庭師よ。」幽々子はようやく口の中の団子を飲み込む、顔に浮かぶ笑顔はとても自然に見える。その一方で妖夢は嘆きを現した。私のこれは何の失望だろう?
「あなたは……あ、会ったこともありました。
その時はとっても不愉快な奴でした。」その時の強気な天人は、今ではまるで気迫が下がりきったような。
「ああ〜そうなの〜それなら今回来たからもっと不愉快に思っちゃうかしら、いいの?〜」幽々子は笑いながら彼女を見る。
「……ふん、天人は退屈すると、死んじゃうのよ。自分の結び目くらいもちろん自分で解ける。だから私は貴女達を探しに下りてきたのさ。」
//心結で『心の中のしこり』を意味するそうで
「ええ、それってとっても好きってことじゃないの、天上から来た少女さん、冥界に来ればちょうどあなたの好きな妖夢と一緒にいれるんじゃないかしら?〜」
「……何言ってんのよこの死人!私はこの果し状の件で来たの!」
「……へ?……」妖夢はようやく本題の点がわかった。
//有了でわかったの意
幽々子はまた一つ団子を手にとって口の中に放り込み、美味しく味わい始めた。
「もぐ、もぐ、あなた達天人ってそんなにつまらないの?」
「は〜」彼女は笑い、「お察しの通りよ。私はただ試しに来てみたかっただけ、本当に遊び、あぁ、多分それほど遠くないわ。次は天上で会いましょう、絶対よ。」
妖夢はもう一度そのただの天人とは比べ物にならないその実力をよく観察した。真紅のまるで火焔のような髪、青白くまるで氷のような顔、そして太極が刻印された剣。
「あら、あなたには私達が忙しそうに見えないのかしら?もぐ、もぐ。」幽々子が真面目な様子で話す、「あなたには私がずっと忙しく見える、妖夢も家の面倒を見ている、天に上がって行ってくだらない天人の遊びに付き合う時間なんてこれっぽっちも無いわ」
冷風が吹いた。その挑発に天人は押し黙った。
//冷風が吹くのは冷たい事を言った印
「……ちっ、あんたホントに嫌な奴ね。ここであんたを先に斬ってやりたいわ、この亡者。」
「ああ、他人は死人、だから他人をそう呼ぶ。あなたもそれは嫌いでしょ、不良天人ちゃん〜」
目の前の天人は手の中の剣を僅かに震わせ、次の瞬間、強大な気の流れが剣から発せられた。
妖夢は眉を顰める。とても奇妙な感覚。さっきの気、一つ、いや二つ。一つは冷たく、一つは熱い。妖夢は少し理解した、彼女のその剣は、氷と炎の混ざった剣。
「ふん、感じたようね、陰陽ふたつの気を。」彼女は得意げに笑みを見せる。「言っておく、私が手にするのは、本当は双剣よ。」
妖夢は驚いた。双剣?!なるほど……つまり……これは見たところ全く特別な剣ではないが、もし離れたら……
「陰陽を分ける、それが私の能力。もしこの剣が分かれたら、ああ、私は大結界の中では支えきれない究極の力を見る。その時は、お前達の幻想郷が、半分は燃え盛り、半分は凍りつくことだろうさ。ふ、ははは。」
彼女は満足気に大笑いし、見くびられた屈辱を晴らした。
「ふふ……」幽々子は呆れた口調で言った、「私の友達の結界をそんなに甘く見るなんて、とっても悲しいわね。どうも私の友達はあなた達のような不良天人の処理を手伝ってくれないみたいだし、納得行かないわねぇ。」
「ふん。」天人の目の中にまた殺気が燃える、「私はただの今度の遊びの一員よ。ふふ〜、今度の遊び、そう遠くないうちに始まるわよ。その時にわかるでしょう、これは幻想郷を賭けた遊びだってね。」
「あなた達自分勝手な天人は大仰な話をする事以外に能がないのね。あなたも結局は、私をちょーっと怒らせた。ねえ。」幽々子は突然笑った、輝くような笑顔で、「出場するかはわからないわね〜」
//ここゆるさん
「その様子だと意思はあるみたいね〜いいわ、果たし状は良しとみなす、私は天上に帰らなくっちゃ〜あなた達を待ってるわよ。」
彼女は剣を手に取り、準備の動作をするように見せて、突然止まった。「ああ、自己紹介を忘れてたわね。陰陽双剣の舞闘家、氷火刃舞。」
そう言って、彼女は長剣を地に突き刺す。火焔と氷雪の入り交じる旋風が地面から巻き上がり、彼女を包み、素早く散開する。当然、散開した時には彼女、刃舞はもうそこにいなかった。
妖夢はまだ呆然と立ち尽くしていたが、幽々子はもう屋敷に向かっている。
「ようむ〜そろそろ昼ご飯の時間よ〜はやくじゅんび〜」
「え?……は、はぁ……。」妖夢は呆然とついていく。
またとんでもない事が始まる、妖夢はそう判断する。でも幽々子さまについて行けば問題無い、この一点を妖夢はよく知っていた、だからほんの少しだが安心できた。
うん、何を迷っても、この剣で斬り捨てられるのだから。