「ああ、おはようございます。今日は随分とお早いご到着ですね」
「あん?なんでテメーだけいるんだ?他の奴ら、っつーかフランドールはどうしたんだ。あいつが寝てたら入れねぇだろ、この部屋」
「その言葉、そのまま貴女にも当てはまりますがねぇ。今日は皆様準備中ですよ。サプライズがございますので」
「はぁーん……そうかい。じゃ、私は待たせてもらうとするかね」
「……それだけですか?誰に対して、とか一体何の、とかは」
「話したいときに話せばいいと思ってるんでね。ま、なんでお前だけここにいるのかぐらいは気になるかな」
「これも今日の流れに入ってましてね。でもなかなか主賓が来ないので、退屈していたところなのです」
「退屈ねえ。その割にゃ、随分楽しそうな顔してるが?」
「ずっと地底にいましたからね。こういう驚かすような祭りは初めてなので、緊張してるんですよ」
「そんなもんか。私には理解ができん」
「そのくせして理解する努力は怠らないんですよね。それも成長ですねぇ」
「あ?なんか言ったか?聞こえてないぞ、聞いてねえからな」
「左様ですか。何でもありませんよ。それでは、待っている間に話でもしましょうか」
「……お前の話、聞いてタメになった試しとかないんだが。耳塞いでてもいい?」
「構いませんよ。そしたら頭に直接流しこむ、この装置のテストプレイを始めるだけなので」
「あーあーあー。わーった、わーった。くそっ。これだから技術職は」
「後でそのレッテルは剥がしてくださいね。さて、始めましょうか。昔々……」
「……かくして彼女には沢山の味方ができた。紅魔館、地霊殿、命蓮寺、魔界、そして月。たとえ彼女が認めなくても、周りはあなたを認めている。とても美しい友情ですね。羨ましいです。」
「……」
「彼女も、もう気付き始めた頃かもしれませんね。だんだん彼ら、彼女らを信頼し始めていることに。特にこの三人に対しては、尚更」
「……けど、そいつはこう言うだろうな。『やなこった。そんなの認めねえ。誰があんな奴らを』って」
「ええ、あなただったらそう言うと思ってましたよ。ですから私からひとつ、趣向をご用意いたしました。」
「さて、貴女を信頼している方々の、あなたへの評価。それら全てが完全に裏返った時、一体あなたはどうなさいますか?」
「そうだ!いま!たぶん今があいつの言ったとき!現われろ何か!」
応答なし。うん、なるほど。
「クソがぁぁぁ!!さすが私だよくたばれぇぇええ!!」
「……おいおい、大物が雁首揃えて何の用だ?湖で釣りしに来たってわけじゃねえみたいだが」
「ええ、これは決闘よ。はじめから勝負は決まりきった闘い」
「ふざけるな、だと?お前、ふざけるなと言ったか。」
隠岐奈はゆっくりと口の端を上げ、くく、と嘲笑した。
「お前は自らのことも忘れてしまったのか。敵わぬと知れば早々に撤退し、また機を伺うのがお前ではなかったか?輝針の異変のお前はそうだっただろう」
その言葉がじわりと、私の心に滲みる。
そうだ、たしかにそうだった。あの頃から決意はただひとつ、生き残ること、それだけだった。
そのはずだった、だろう?なのに。
「頭を冷やせ、鬼人正邪。生き残りはお前だけ、他はみんな操られてしまった。事実を受け止めろ」
……くそ、止めだ止めだ。こんなやつの話を真に受けるな。いきなり拉致る妖怪サマの話なんて聞くものじゃない。それにこいつだって嘘をつかないという保証はないんだ。だからいつもと一緒に笑ってやる。
「……てめえ、どこまで見てやがるんだ」
「さあな。さて、これは二つ目だ。三つ目の選択がある」
続けてもう一本、指が開かれる。
いちいち癪に障るな、こいつ。指へし折ってやろうか。でも三人は流石に分が悪いしな。もう少しだけ話を聞いてやろう。
「三つ目。おとなしく殺される」
やっぱやめようかな。
「お世話になりました」
「まあ待て。これだって悪い話ではないのだぞ?たしかにこのまま死ねば、貴様がたどり着くのは地獄だ」
「なおさらだろうが。それじゃあな」
「しかし、それは今までのお前だったら、の話だ」
なんだ、その言い方。まるで私が最近変わっちまったような……
「……まじか」
「ああ。今のお前は、その地獄行きを撥ね退ける程の善行を積んだことになっている。このまま死んでも、来世は人間確定だ」
……
「まあ、お前のことだ。妖怪がいいと言うかもしれぬ。しかしそれも問題ない。それぐらいの融通は効かせられるし、なんなら記憶だって継がせられる。お前はそれほどに良いことを」
「隠岐奈」
こいつ、わざとか。わざとなのか。わざとだろうな。だって名前呼んだら笑顔でエチケット袋渡してきやがったし。もう癪とかムカつくとかそういうの通り越したよ。
エチケット袋をひったくり、バラバラに引き裂く。
「私が褒められるの吐き気がするほど嫌いってこと、わかってんだろ」
「ならば善行など積まずに、逃げてしまえばよかったものを」
こいつ、先に死なねーかな。死んでくんねーかな。見てたんなら逃げられなかったの知ってるよな。この後戸の国から出るときにお前も連れてくぞコラ。
「ともかく、これで選択は出揃った。さて、貴様はどれを選ぶ?
我々に下るか。
その力を消してしまうか。
このまま大人しく死ぬか。
好きなものを選ぶがいい」
「決まってんだろ。私はずっと、ひとつしか選んできちゃいねえ」
ずっとそうだった。
幻想郷に入る前、命からがら生きながらえていた時も。
輝針異変を起こした時も。
十日間を生き延びた時も。
あの赤河童を探した時も。
地底の巨人と対峙した時も。
魔界のキメラに狙われた時も。
月から私を奪還した時も。
決まって私は一つを選んでいた。
ただそれができないから、二つ目に縋っていただけだ。
でも、今回は違う。選ぶことができる。それなら、私の答えはこれだけだ。
「隠岐奈、私は――逃げる。こんな楽園なんざに、付き合ってられるか」
「それは、力を消すということか?」
「ああ」
「もう戻すことはできんぞ?」
「わかってる」
「お前は、天邪鬼でなくなるのだぞ」
「死ぬよりマシだろ?」
「……ならば良し。こっちへ来い、初期措置をする」
「何だ、不満かよ?」
「そんなわけなかろう。もとより私は紫から貴様の処遇を一任されている。この異変が始まるよりずっと前からだ。貴様が何を選ぼうと支援するつもりだった」
「お優しいこって。紫に殺されるぞ」
「フロントがある限り、バックは消えぬよ」
「ま、これでせーせーするってもんだ。都合が悪いもんだから、逃げて一からやり直し。一番私らしい選択だぜ」
「ああ。一番天邪鬼らしい選択だった。この私が保証する」
「やめろ、気持ち悪い。それに私は天邪鬼じゃなくなるんだ、鬼人正邪らしいって言ってもらおうか」
「そうだな。ついでにこれを機に、名前も変えても良いのだぞ?私が良い名をつけてやろうか」
「はん。名前ぐらい自分で付ける。そうだな、例えば瓜子姫とか」
「自分から姫を呼称するのか?」
「……なよ竹がいんのに、今更って気もするがな。」
「それに何より」
「こんなとこで反逆すんのは、天邪鬼じゃねえよ」
私の答えは、やっぱり。
これが一番似合うようだ。
「はははははは!見事だ、天邪鬼!貴様の意志、しかと見せてもらった!」
「お前は私達を侮っているようだな」
「行け、鬼人正邪!後ろは任せろ!」
十一日目の始まりだ。
「うっへぇ、うじゃうじゃ来ますよ。どうするんですお師匠」
「そうだな。とりあえず――」
「――即死は私が防ぐ。お前達はそうだな、一番目立ってないやつから順に減らせ。主犯格を特定する」
「あ?」
しかしいつまでたっても、私が壊れない。
何だ?死んだことにすら気づかないような破壊か?そう思いつつ、恐る恐る目を開けて振り向く。
そこにあったのは、上半分が消し飛んだ岩。
「は?」
「……上手く避けたようね。次は無いわよ」
いやいやフランドール。今どうやったんだよ。お前の破壊は運命の糸を対象に接続して連鎖破壊するカラクリだろ。お前が本気出せば避けさせないことが可能っていうか避けさせるほうが難しいはずだ。まさか、この後に及んで私の味方をするってのか?
「もう一発!きゅっとして――」
それともまさか。
慣れていないのか?
「死ぬ前に一つだけ聞くわ」
「スプーンと鏡の違いは何かしら?」
「……っ!何、意識が飛んだ?……まあいい。これでチェックメイトよ!」
とっさに取り出したそれを、前に構える。しかし無駄だ。いくら何でもこんな薄い紫の手鏡なんかじゃ攻撃を防ぐことなんて――
……攻撃がこない?
その手鏡から、槍が出ていた。
見慣れた三叉の槍。それが封獣の槍を受け止めている。
そして、それを持った蛇が巻きついた腕。
「もう一度聞くわよ」
鏡の中から、声が聞こえた。
「スプーンと鏡の違いは何?」
声の主がずるずると鏡から這い出る。
みどりの黒い短髪。透き通るような白い肌。見えそうなほどに短いワンピースと、黒いニーソックス。
その主の背中に輝く、鎌のような赤い羽と、矢印のような青い羽。
「……スプーンは物を掬うけど、」
知らず知らずのうちに、私はそいつと同じく笑みを浮かべていた。
「鏡は私を救う。これで満足か、ぬえ」
「くだらないわね。不満足よ、正邪」
「私達だけじゃ不十分よ。一が二になっただけじゃ千には勝てないわ」
「じゃあお前なんのために出てきたんだよ!」
「そのためにこっちに向かってるんじゃない。ま、これも一か八かだけどね」
「……なんかお前、変わった?嫌味ったらしさが減ったっつーか」
「死ね」
「いつになくどストレート!」
「……まあ、当然よね。でも貴女にとって、ロックなんて有って無いようなものでしょ」
「『逆転』」
「ツーオブアカインド……ただいま、正邪、ぬえ」
「レーヴァテインみたいな炎剣殴打!」
「助けにはなるけど、絶対数は覆せないわ。だから魔界とつなごうと思ったんだけれど……」
「あの河童のせいかしら?つながらないのよねえ」
「つながってるところから、繋げばいいじゃないか」
霊夢は言っていた。地獄の反対は、天国でも現世でもない。
魔界なのだと。
「……久しぶり。そしてさようなら」
「いいだろう。ただし葬儀費は高くつくぞ?」
「だから工夫するのだ。鬼人正邪、私の能力に逆転をぶち当てろ」
「こうか?」
「不明と解明をひっくり返した。能力さえわかれば、誰であろうと無傷で倒せる」
「誰だこのラスボス!?」
『あーあーあー、こちら古明地無意識前通信所ー。みんな生きてるー?』
『グッドニュースとバッドニュース。グッドは阿頼耶識にみんな残ってるってこと、バッドはこれがオープンチャンネルだってこと』
『集合的無意識って知ってるかな。全生物が継承してるインターフェイスさ。これが使えると、誰にくっついてるメソッドにもアクセスできる。まあ、そんなのはどうだって良いのよ。冴月麟って奴は、インターフェイスをある程度使えるみたいだね。自分の作ったインターフェイスを無理やり割り当てて、作らせたメソッドの中を好き勝手に書き換える。意識の根っことでも言えるかな? そこからあらゆるメソッドを呼び出してるのよ。一言でいうとね、オーバーライドなのよ。元はまだ残ってるって話さ。抜け殻だけどね』
『あんま詳しく言うとサトラレちゃうから言わないよ。とにかく、可能性はあるって事。じゃ、私は振り分け作業に戻るかんねぇ』
「はは、笑えるじゃねえか。あいつらよりずっとマシだ。私はまだ、能力を失ってない」
「まだ、記憶を失ってない」
「まだ、想いを失ってない」
「何より――私はもう諦めてねえ。そこをどけ、河城みとり。私の不幸を奪ったあいつから、今度は私があいつの不幸を奪ってやる番だ」
「……はぁ。ナンセンスですよ、正邪。失くしたものをまだ分かっていないようだな」
「思い上がるなよ、天邪鬼。仲間を失くした今のお前は、私一人にすら勝てないのだ」
「孤独を忘れた弱者よ。行かず帰らず、ここで死ね!」
「ヒントはいくらでもあった。まあ、それにしたってこんな推理ができるわけもないけどな……」
「お前、みとりじゃないだろ」
「そもそも、河城みとりなんて居ないだろ」
「……私の真似ですか?くだらないですね。この禁止の力が無ければ同じことは――」
「黙れぇぇええええっっっっ!!!」
「フハハハハハハ!!笑えるなあ!!名前無くしても自分でいた奴を、支えてたのが自分を捨てた奴!なんて喜劇なんだ、面白くって涙が出る!」
「ふざけるな!!鬼人正邪、『呼吸禁止』!!」
「イイねぇ、ようやく本気で来たか!?せいぜい頑張って捉えろよ!ハハハハハ!!」
「煩い、煩い!!『抵抗禁止』、重力に潰されろ!!」
「く、うぁっ、『熱保持禁止』!腹の底まで凍てつけ!」
「『限界禁止』。――『回避禁止』『逃走禁止』『知覚禁止』『会話禁止』『無効禁止』『活動禁止』『破壊禁止』『意識禁止』――っ、『存在禁止』!!」
「私は、平行世界のバグだ。河城にとりのコピーの際に生まれた、ただのバグなんだよ」
「何故、異変を起きるままにしている」
「何故、あらゆる危険を許せる」
「何故、世界が終わりかねない大異変すら、博麗の巫女一人に任せられる」
「異変が起きるたびに、バックアップを取っていたんだ」
「それをどうこう言いはしない……私は、そのお陰で生まれたんだから」
「今すぐ動かせば、今までの自分を否定する事になる。やってきたことに何の意味もなかったと、罵ることになる」
「過去に生きる妖怪には、それが何より辛い」
「だから、今回だって……最後の一人が犠牲になれば、バックアップは発動する」
「けれど、犠牲じゃないなら……全員が消えてしまえば、バックアップも働かない」
「ちょっと待て、外の奴らはお前が操ってるんじゃないのか? 消えたって、どういうことだ」
「操られる?何を言っているんだ。あいつらの自我はもう残ってはいない。消えたんだ」
「――は?」
自我が無い? そんな、そんなことがあるのか?
「ああ、イメージが付きづらいか。ならこう言うよ」
「お前の知る奴らは、皆」
「『死んだ』んだ」
『聞いたわよ』
『あなたに唆されたんですってね、こいしは』
『面白いわ。私と一緒に来なさい、天邪鬼』
『久しぶりー!あの時はお礼言えなかったね!ありがとう!』
『まさかもう一回会えるとは思ってなかったよ。これからよろしく!』
『えー、入団希望じゃないの?』
『なんか見てるとムカつくのよあんた。視界に入らないで』
『フランドールに近寄るな。あんたは在野でちまちま遊んでなさい』
『はぁ!?私を負かすまで出て行かない!?ふざけたこと言って……!』
『』
私は、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……はは。初めてです、あなたのそんな顔をみるのは」
体に、力が入らない。魂でも抜け出たように、指一つ動かない。
「しかし困りました。……あなたは、そのすべてを受け入れてここに来たと思っていたのですが」
「それこそ、あなたが有と無でもひっくり返せるなら話は別ですがね」
その試験管に、私は見覚えがあった。
その瞬間、私は悟る。
彼女が、河城みとりが望んだのは。
「私に賭けたのか?冴月麟を、出し抜くために」
この異変は全て、この為だけに。
なるほど。
そうか。
そうですか。
「これが、あいつ【私】がやりたかったことか」
よーくわかったよ。流石は別世界の私。
何をしたか、何が起きたか知らないが、あいつはこうなることをわかってたんだ。だからこれを渡したのか。
そんな期待かけられちまったなら。
こっちの私が選ぶのは、そうじゃなくても選んだ答えは。
そうさ、一つしかねえよなぁ!!
「お言葉だがよ――やなこった!!」
「何を、言っているので?あいつらの意識は、もう『冴月麟』に塗り潰された。……みんな、死んだんだ!どこにもいない!お前がやらなければ、皆居なくなったままなんだぞ!?」
「一介の天邪鬼に随分期待したんだな、お前!私ならやれると思ったか?」
「なんだってひっくり返せると思ったか!?」
「甘ぇんだよ!!」
こういう斜に構えてる馬鹿に、最っ高の屈辱を与える道がある。
「だからお前がやるんだ」
「お前の能力を引っ繰り返す。禁止を通行に変える。願いだって通せるようにな!」
「なっ……!?そんなの、できるわけがない!」
「あぁ?そんなこと言ったら、こんな大異変は河童には起こせねえだろうが」
「わ、私は、そんな、誰も救う権利なんて」
「偉そうに上から物言ってんじゃねえぞ!」
小人の姫は戦った。それは私が唆したからというのもあるが、あいつがやりたい事でもあった。自分がやりたいこと全部を、人に頼む事はしなかった。
「テメェがやれ!お前が全部救うんだ、他の誰でもないお前がな!」
「私の疑いを禁じたのね?」
「さようなら、河城みとり。幻想郷を侵した罪はこれで雪がれた」
「八雲、紫……」
いや、違う。この感じ、何度も味わった。
「鬼人正邪。ついに死者が出てしまったわね。どうする?私を殺す?」
「……お前か、冴月麟……!」
「ってことは、ぬえをそそのかしたのも」
「……え?」
「まさか、鵺を作ったのも!」
「ちょちょ、待って」
「夢の私と鏡の私をすり替えたのも!全部!」
「どれも知らないんだけど!悪役が出たからって全部なすり付けないで!」
「テメェだけは生かして返さねぇ!冴月麟!!」
「罪状を増やすなあぁぁぁああ!!」
「あなたと戦ってる間に、月に私は攻め込んだ」
「勝っても負けても、幻想郷はこの世界から消えるでしょうね」
「ただの時間稼ぎなのよ」
「私が月と同等だとでも」
「私はっ、ただ戻したかったんだ!私の罪を雪ぐために!」
「は?」
「スペルカードルールを広めることなんて不可能だったのに!私が!あの言葉を変えさえしなければ、みんな!」
「だから、全世界を私にして、それから私を消せばいい」
「そんな真似したって、誰も帰って……」
「私は戻せる!この『名前を司る程度の能力』さえあれば!」
「そうか、私は――錯ってしまったのか」
「どうやら、私達は遅かったか」
「決着はついたようだな」
「……そうか。バックアップの事を知ってしまったか」
「言い訳はしない。これは我らの罪だ。そしてこれからも続けることだ」
「そんな、バックアップを切るだと!? 貴様、解って言っているのか!?」
「違う! 存在否定は確かにそうだ、だがそれ以前の問題がある!」
「バックアップを使うということは、蓬莱人形と対峙するということだぞ! それがどれほど危険か……」
「誰か殺したなら、殺されなくちゃな」
「お前、誰だ」
「ボクは蓬莱人形だ。はじめまして、臆病者」
違う。
違う。
冴月麟も異質だった。姿は無く、声は誰かを借りたもの。考えだけが独り歩きしているような存在だった。
でも、これは、違う。
居てはいけない。
「サエツキ、サツキ、なつかしい。誰だったか。ああ……何だったかな?」
「バックアップだって? やらせないよ。君は過去こそが至高だとでも思ってる懐古主義者かい?」
「詰んだからリセットなんて効かないんだよ」
「どんなに辛い現実だって、受け入れて先に進まなくちゃ。そうだろう」
「いつまでも新しいまま生きていこうよ!」
「封獣ぬえ。古明地こいし。摩多羅隠岐奈。河城みとり。冴月麟。フランドール・スカーレット。鬼人正邪。……ボクを入れて、八人だ」
「さあ、誰が最後に出て行くんだろう?」
「終符『スードパラダイス』!」