「……ということがあったのだ」
「へえ、世の中広いねぇ。まさかこころちゃんの力を人間がひと目で見破れるなんて」
旧都の真ん中とも、奥地とも言われる場所に建つ質素な館、地霊殿。無法地帯のその場所に建っているが故に、場所代として時々人外オンリーのパーティを開くことがある。そのためのホールの中心に、古明地こいしと秦こころはいた。
「結局やつについては行商人ということしか分からなかったしな。次に会ったらつっこんでみる」
「はぐらかされそうな気もするけど」
こいしが得点板を設置する。香霖堂から輸入した直したてだ。
「わかってるけどねえ」
「ま、次は私もついてってあげるよ。なんだか面白そーだし」
「ありがとう。では本題です。」
こころが得点板の横にマットを敷いている。ここはホールだ。滑らないようにマットを敷く必要性がある。テコンドーマットというものらしい。
「キータンのお面を欲しがる人物だっけ?時期的にいくらでもいそうだけど」
得点板を設置し終えたこいしがマットにテープを貼っていく。ラインテープという名前らしい。両方香霖堂の店主が得意気に説明していた。
「その中でもっとも買いそうな奴がいいな。そうすれば一回で終わる」
「んー、スキマ妖怪の式の式の化け猫とか?狐欲しがりそうだけど」
こころもテープ貼りを手伝う。さほど大きいコートではないのですぐに終わる。
「あー、確かに。子供だし。」
「貴方はそれを……言えるね。千二百年だっけ」
「千四百年だ。図に乗るなよ、小娘。」
「おー、それっぽい。……よし出来た!」
地霊殿ホール。そこに出現したのは謎のフィールドだった。四角が隣りあって二つ。その二つの四角を作っているテープと平行に、四角の中にテープが二本。左右に真ん中のテープと垂直に二本ずつテープが貼られていた。どちらの四角もドッジボールのコートを少し縮めたくらいの大きさだ。
「……霊力とかで描いた方が早かったんじゃないか?わざわざコードまで使ってこのテープを貼らなくても」
それだけの大きさのコートを作れたのは、古明地こいしがサードアイコードを駆使してテープを貼っていったおかげである。前から器用に棒に巻き付けたりすることはあったが、最近ではもはやこいしの手の一部と言ってもいいほどになっている。というかたまに手の形をしている気がする。そんなこころの錯覚を振り払うように、こいしが勢いよくコードをしまった。
「分かってないね、こころちゃん。熱い筋肉のぶつかりあいはテープでなきゃ」
「こいしに何が見えているかわからない」
「今にわかるよ。今に。まだ私たちは登り始めたばかりだ、この果てしないメビウスの輪を」
「本当に果てがないぞ」
打ち切りかと思いきやループものである。そんなものは稗田ですら書かない。
「とりあえず、ありがとね。手伝ってもらっちゃって。こころちゃんも参加する?」
「いや、私は審判をやるよ。」
審判椅子を出す。そしてサンバイザー。室内だが気分が出る。試合に出ないのは理由がある。
「さすがにカバディに参加する気は無いからな。面が割れて死ぬ」