あわや氷河期になるかと恐れられていた冬は、予想通り無事終わった。
今日は打って変わってうららかな陽光に包まれる、春のあけぼの。
半人前になった鳥は嬉しげにさえずり、久々に地上に戻った虫が少しずつ飛びたち、遠くどこからか春告精の声が聞こえる頃。
動植物全てに等しく朝を告げるその光が窓に差し込み、私の重い瞼をこじ開けた。
「……」
そして二度寝した。紅魔館自慢のふっかふかベッドと、最近流行りの安心快眠枕。二つのコンビネーションにより、波間にたゆたうような感覚へと私は飲まれていく。抵抗の気概は遠く彼方へ。おいでませマイドリーム。あー、これはいい夢見れますわ。おやすみー。
「おっはよう!見て見てみんな、今日すっごい快晴だよ!吸い込まれそうなくらい青色!ほら!」
バルコニーから叫び声が聞こえるけど知らねー。おー、やー、すーみー。
「……なあによ、こいし……っ、わあ……!綺麗……!」
ビー、クワイエー、フランドール。寝れるときに寝るっていうのは大事なことだぞ、動かなきゃいけないとき動けるようになるからな……だから寝かせろー。昨日何時までお前らとダイヤモンドゲームしてたと思ってんだ。なんでお前らはピンピンしてんだよ。八割チューリング完全の証明とかいうわけのわからんもんだったし……頭使い過ぎでまだ眠ーのよ。頼むから寝かせてくれ……。
「あら、これはなかなか素晴らしいわね。かわいそうねえ、ほんの少し動くだけでこんなに得するのに、一歩も踏み出せない奴がいるなんて」
「あー!全然眠くねえなー!もう目がギラついてしゃあねえなー!」
布団を跳ね飛ばしながら叫ぶ。あいつ私のやる気スイッチの場所良くわかっててマジ嫌い。滅びろ。
「相変わらず正邪ちゃんを煽らせたら一級品だねえ、ぬえちゃん」
「単純なのがいけないのよ。あなたがこの無意識の拘束を解いてくれたら、もっと他のこともできるのだけれど」
「それは私が許さないわ」
「わかってるわよ、フランドール。単なる冗談」
綺麗に布団をたたみ、バルコニーへ向かう。両開きの扉に手をかけ、私は扉が吹き飛びそうなくらい勢い良く開いた。
「どうせ言うほど美しくなんて……」
文句の一つ目を垂れようとすると、三人はこぞって空を指さした。つい顔を上に向ける。
そこには――
かつて、異変があった。
弱きを助け強きを挫く、反逆の異変。
その首謀者の一人は、まだ捕まっていない。
鬼人正邪。かつて異変を起こした、指名手配の天邪鬼。
これは、そいつのその先の物語。