「君は死にました」
真っ暗な部屋の中、光の玉がそう言った。
「……死んでるのはあなたの方では?」
つい、そう言ってしまった。けれど誰でもそう思うだろう。暗い部屋の中で光の、というより火の玉が浮いているのだ。ご丁寧に光の上の方は細く揺らめいていて、周りの埃を細かく焼いている。もはや実際の炎との違いは燃料の有無くらいだ。それが意味するものは一つ。
「人魂ですよね?」
「違います。私は神です」
神と名乗る不審人魂は、首を振るように小さく左右に揺れた。それだけで部屋の壁が照り返してくるのが見える。火。埃。狭い部屋。
「とりあえず窓開けていいですか? 死にたくないので」
「もう死んでるので問題ないですね」
「これから死ぬので関係ないですねじゃなくて?」
「違います。頑なですね」
やれやれとため息でもついたのか、人魂からぼふと火の粉が弾ける。大変危ない。
「いいですか? 8月27日未明、雛山鈴音は死にました。心臓の差し込みを無視してジョギングした結果の心臓麻痺です。私はその魂を拾ってこの空間に連れてきて、今転生させようとしています。質問はございますか」
「ウチは神道なんで転生とかは対象外でして」
「
転生は我が社にどのようなメリットをもたらしますか」
「
「はい」
「良い質問ですね、雛山さん」
「まだ何も言ってませんが」
「あなたの様な人が聞くことは決まってます。特典の話ですよね」
「いえ、私は死んでないので人違いという件ですね」
「特典についてですが、貴方に合った固有スキルとなります」
「クソっついに無視された」
「
「この部屋、窓がないんですが」
事務的な説明を聞き流し、ペタペタと壁を手で伝う。真っ暗闇で何も見えないが、かろうじて大きさだけは分かった。私達は十八メートル立方あるかないかの部屋にいる。
「もしかして、質問したら一酸化炭素中毒で殺す気ですか」
「死んでますし、そんな脅迫しませんし、窓がないのはコストカットのためですね」
「ドアも無いんですが、これもコストカットですか」
「そうですね」
「もしかして、ずっと暗闇なのも」
「そうですね」
「その人魂も」
「人魂じゃないですが、これはいい感じの体を出すのが面倒くさかったからですね」
「つまり全裸ですか」
「……」
「質問は以上とさせていただきます」
「待ってください。
「そうですね。興奮しますか」
「何かもらえるなら興奮しますが」
「
揺らめいていた人魂が、それを少しずつやめる。やがて時間を止めたようにピタリと止まり、そのまま人魂は天井に吸い込まれていった。代わって、何か大きいものが落ちてきた音がした。
「……ちゃんと着てきました。
「全裸の自称神の火の玉に、私は監禁されて暗闇の中でスピリチュアルを流し込まれているということですか」
「そうで……はない……いや……」
人魂の揺らめきが大きくなり、時折天井に炎が到達する。延焼して今度こそ死ぬだろうかと少し身構えるが、一向にそんな様子はない。けれど危険は感じられた。どんどんと天井が赤色に光り始めたからだ。
「……そうですが、何か問題がございましたか?」
「そうですね。命を狙われている実感があります」
「もう死んでるので問題ないですね」
「死者が一名なので味気ないですねではなくて?」
「そんな脅迫は……今はしてないですね」
「なるほど」