『スキルは数とLvが正義だ』

 ここ十年で生まれ、瞬く間に人々の間に浸透したその文章は、もはや常識として定着していた。その後に生まれた俺たちにとって、その前など想像することも出来ないほどに。

「……しかしながら、現代の私達は発展した社会に生きており……」
「……それは、先人がまとめた数々のスキルに倣うことで続いている……」
「……ゆえに……待ってまだ話したい……あ、はい……」

 先人に感謝せよ。そんな話だった。踏み台とともに引きずられていった、小さな校長の話を要約する限り。

数。スキルは教えてもらったり、本を読んだり、あるいは何か目立つことをする程度でも貰える。だから高い金を払っていくつもの習い事を掛け持ちさせる親がいたり、ほぼ毎秒図書室にこもり出てこない同年代がいたりする。スキルを増やすためだけに。それは極端な例だけど、もう少し一般的な方に目を向けても、旅行ゲーム自由研究ボランティア同人イベントライブ配信。こいつら大学生か何かかと思うほどにスキル集めに奔走する人間が、どこを向いても満ちている。

Lv。スキルは使い方を知るなり、仕組みを知るなりでレベルが上がる。使い続けるだけでも上がっていく。なのでたった一つの習い事を家族総出で極めてノウハウを交換し合う家があったり、ほぼ毎秒剣を振り続けている同年代がいたりする。誤解を避けておくと、図書室で振っているわけじゃない。

さて。こんな世界にあっては、数とLvはプライバシーに当たる情報だ。勝手に他人のスキルを公開すればマナー違反。その重みを知る同年代たちが襲い掛かって、もとい自治をしに来る。それは誰もが分かっていることだし、実際入学初日に自治の例も見ている。だから堂々とそんなことをする奴は居ないだろうと油断しきっていた。もとい安心していた。

「死ねぇぇぇ彿川ァァァァァ!」

でもどこにだって馬鹿はいた。

事の発端は昼休みだった。