「ニコニコ」
「……」
逃げたい。
騒々しかった1月は終わり、もう2月が始まろうとしていた。人里ではすでに春物が売り出され人気を博しているらしい。今買ったところで室内でしか使えないが、先に確保しておきたいか、それでも見せる相手がいるのだろう。フランドールに春物を見せる自分を想像し、少し口元が綻んだ。
「何ニマニマしてんだ、気色悪い」
盛況を見せていた想像世界に、それが殴り込んでくる。世界トップクラスのクソ野郎、天邪鬼の鬼人正邪だ。不躾に思考を汚した罪は万死に値する。
「んー? でも正邪ちゃんもあんな感じの顔してるときあるよ?」
横からするりと入り込む、無意識の表象。古明地こいしは今日も気配を感知できない。私も曲りなりに大妖怪だ。そのはずなのだが、彼女に会うたびにその矜持は揺らぐ。本当に私は崇められるほどだっただろうか。
「