平和な地底の集合住宅に、爆発音がこだまする。地上ならば野次馬が召喚できるであろうその音は、地下では日常茶飯事である。爆竹を持ち込む馬鹿なぞよくいるという話だ。
 いつもなら切れるところだが、今日ばかりは助かった。本物の爆弾の爆発音でも気づかれないのだから。
 「これでラスト……っと!」
 瓦礫がそこらじゅうに吹き飛ぶ。四人はそれぞれの方法で身を守った。
 一人は炎剣で溶かした。
 一人は巨大な手で止めた。
 一人は細かく粉末にした。
 そして私は布を纏った。思ったよりも大きい爆発で、布の効果時間が足りるか不安だったが、ギリギリいけた。もうもうと粉塵が上がる。ここにもしみとりがいたら大ダメージだろう。が、知ったことか。潰れる方が悪いのだ。粉塵が晴れていく。
 そこには、誰もいなかった。
 「えっ?」
 「……ちょっと、どういう事?ここにいるはずじゃなかったの?」
 封獣があたりを見回す。地下はたしかに暗いが、妖怪の視力なら余裕で見える。私が見えるのだからこいつらはもっと鮮明に見えるだろう。だが全員が驚いた顔をしていた。つまり誰もみとりを見つけられなかったのだ。
 「もしかして私が吹き飛ばしちゃったのかしら」
 「今更気にするのか、お前が」
 フランドールが口に手をやる。一番ノリノリに吹っ飛ばしていたフランドールが。
 「家が吹き飛ばされたから拗ねてるんじゃないですか?それでどっかで隠れているとか」
 「いや、これは不可抗力だろ。それにそれで拗ねてるなら私としては嬉し……おおっ!?」
 後ろからのっそり現れたのは、巨大な赤い巨人、ではなくみとりだった。手には何か箱詰めを持っている。
 「!!ッ、驚かせるな、この赤河童!」
 「すみませんねぬえさん。菓子折りを買っていたら遅くなりまして」
 よく見れば箱にはデカデカと『白玉饅頭』と書いてある。これ旧都で一番人が群がってたやつじゃないか。
 「わっ、パルスィートの『白玉饅頭』じゃない!大変だったでしょ?」
 「あっはっは、地下はいいですよね。力づくでどかしても何も言われないんですから」
 そして旧都で一番人が吹っ飛んでいたところである。さすが無法地帯。力こそ正義。上も下もないという点では地下は好きだが、その点はいつまでも好きになれない。
 「で、」
 みとりの糸目が少し開く。初めて見るその瞳は服と同様に赤い。そして少し黒い。……あれ、怒ってる?
 「私が調査して欲しかった、私の家はどこですか?」
 「……」
 「……」
 「……」
 「……」
 皆一斉に目を逸らした。だが逸らした先には現実がある。家の跡地ですらない、家の更地という現実が。
 「全部用意終わって、買い忘れたお茶請けを買いに旧都に行って、帰ってくるだけだったんですけどねえ。まあ確かに途中で離れたのは悪かったですよ。こいしさんがいるから家の場所も分かるだろうと思ってましたし。それに後々のかす予定でしたし、瓦礫を撤去してくれたのは実に嬉しいのです。あと一歩でもう一度崩れて全壊するだろうなとは思っていましたし。ですが、その瓦礫の中を調べていただきたかったのですが。」
 みとりの表情は変わらない。笑みを浮かべている。目を除いて。
 「不幸の原因はあの家の中にあると私は踏んで頼んだのです。あの家の中で起きた事が始まりですし。というか、どういうどかし方を致しましたら木っ端微塵になるのですか?ぜひともお教えいただきたいですね」
 「わ、私たちはみとりを助けようと……」
 「その割には派手にやりましたね。巻き込んだらどうするつもりだったんですか?」
 「うぐっ」
 「そこの天邪鬼が爆弾で吹っ飛ばしました」
 「ちょい!?」
 涼しい顔で封獣が言う。
 「……ほう?」
 みとりがこちらに歩み寄る。やはり表情は変わらない。それどころかさらに笑っているように見える。
 「まてまてまて!あいつらだってやってたから!私だけのせいじゃない!」
 「ええ、分かっていますとも。」
 口が横に、上に裂けてゆく。そして棒の先に円い鉄板がついたものを取り出した。おおきく振りかぶって言う。
 
 
 「全部、見てましたから。」