俺にも優しくしてくれよ。
今弾かれた握手、肩から捥げそうな勢いで吹っ飛んだんだけど。
前の席の人にものっそい怪訝な目を向けられたんだけど。
なんか中で筋がプチ切れるような痛みを感じるんだけど。
……いやいや。ここで折れるわけには行かねえよ、五良木愛土。
話しかけたのは俺なんだから、途中で投げ出すわけにはいかないだろう。
せめてこの
「もしかして、結構取り戻してる?」
「学園長がフサフサだったおかげですね。」
確信するでしょ、彼女、戦闘用アンドロイドだって。
「あ、あぁ。悪いな。窓を開けてたらカメムシが入ってきてな」
「すみませんね。もう捕まえたので大丈夫ですよ」
「そうか、なら良いんだ。悪いな、変なこと聞いて」
変じゃなかったよ。
あんたの勘は正しいよ、前の席の人。
肩から捥げそうな勢いで握手が吹っ飛んだもん。
腕から新鮮な卵割るときの音鳴ったもん。
皮膚の下からプチプチ聞こえんの。あれ? 筋肉千切れてね? みたいな。
「きっ、気にすんなよ! えっと……」
「槞咲四明だ。君たちは?」
「五良木愛土。愛土でいいよ。で、こっちが」
「アンドロイド二条です。アンドが名前で、ロイド二条がフルネーム」
「アンドの存在意義を全否定!?」
「長いな。ロイドでいいか?」
「それだとイツラギと被ります。嫌ですよ、アイドロイドなんて呼ばれるの」
「……」
「なるほど。じゃあ、二条と呼ぼう。愛土、二条、これからよろしくな」
『異性扱いをしてこなかったけど、ある日突然夕立に振られていまいち人のこないバス停で二人雨宿りしてから、何だかお互いに気まずい関係になってしまって苦悩している幼馴染』なんてどうですか」
「えぇ……アレを狙うんですか。全く、イツラギさんの食欲には困りますね」
「君は何ポジションなの?」
「マリー・セザリーヌ・ヴィアーヌなんていかがでしょう」
「昆虫記って食がメインじゃないからね?」
「よく通じるな」
「悪いな! えっと、あの虫がいるとこって、もっと高蛋白のアレがいるの思い出したから! だから虫は今追わなくていい! 気持ちだけ受け取っておくよ! な!」
「そうか。なら、このベーコンパンは俺が食おう」
「手伝うって蛋白質摂取の方!?」
「前席人、
積極的に何とかしてあげたほうが良くね? って。
やっぱさ、ここまで来ると思うよな。
この子このままにしたら、女子の輪どころかクラスごと解体されちゃうんじゃね? って。
「あ、あぁ。悪いな。窓を開けてたらカメムシが入ってきてな」
「すみませんね。もうこっちの人が美味しく頂いたので大丈夫ですよ」
「生では食べないよ!?」
「そうか、なら良いんだ。悪いな、変なこと聞いて」
いや、変ではなかったよ。
あんたの勘は正しいよ、前の席の人。
肩から捥げそうな勢いで握手が吹っ飛んだもん。
腕から新鮮な卵割るときの音鳴ったもん。
「きっ、気にすんなよ! えっと……」
「槞咲四明だ。そっちは?」
「五良木愛土。愛土でいいよ。で、こっちが」
「アンドロイド二条です。アンドが名前で、ロイド二条がフルネーム」
「アンドの存在意義を全否定!?」
「長いな。ロイドでいいか?」
「それだとイツラギと被ります。嫌ですよ、アイドロイドなんて呼ばれるの」
「いいな、キャッチーだ。覚えておこう」
「畜生琴線に触れた」
二条、感情持ってね?
まあ、でも、激情だけじゃ感情って言わないしな。
多分些細な機敏とか、そういうのを学びに来たんだろうな。
「では、二条と呼ぼう。
「槞咲。コンビの渾名より、先に一人ずつの渾名を考えるべきだと思うぜ」
「一理あるな。一人一人が親しみやすければコンビはより輝く」
こいつ、止まらないな。
「前提にコンビ置くの止めてもらっていいですか」
「確かにそうだな。コンビは結果だ」
こいつ、本当に止まらないな。
「……イツラギさん! 実は私の好物はニンニクアブラマシマシ山盛り野菜ラーメンなんですよ!」
「なるほど! タケノコミネラル満載肉抜き牛肉蕎麦が好物の俺とは致命的に合わないな! コンビ解散!」
「素晴らしいコントラストだ。これから頼むぞ、アイドロイド」
こいつ、はなから止まる気無いな。
「……分かった、分かりました! 二条奏海です! これでいいですか!」
「
「一利あるな。初対面の利点は様々なユニットが組みやすいことだ」
「いやお前どっ……ああ。今の、両方成り立つな」
「そういうことだ。愛土、二条。お前たちのネーミングセンスを貸してくれ」
「ライツ保持で良ければ」
勘がいいな、前の席の人。
ところで、人体の可動域って神がかってるよな。
「あ、あぁ悪いな。あんたの方に虫が飛んでいったもんで」
「『貴重な蛋白源を逃すまい』とイツラギさんが」
「二条さん!?」
「む、それは大変だな。良ければ手伝おうか」
「本当ですか? 助かります、前の席の人」
あのっ、話、進めないで。
俺の食生活をエキゾチックに進めないで。
いや、虫食文化は割と普遍的だけど。
それを料理するスキルなんてないよ、俺。
「それじゃ呼び難いだろう。槞先四明だ。君たちは?」
「二条奏海です。彼は?」
「五良木愛土……いや、名前は大事だけど!」
「分かっている。蛋白質なら心配するな。これをやろう」
「おお! 美味しそうなベーコンパンじゃないですか!」
「あ、あぁ……そっちか。ありがとう。……二条? 感情……二条さん?」
あの、目がキラキラに輝いてるんだけど。
もう感情学ぶ必要なさそうなんだけど。
あと、めっちゃ可愛いんだけど。
もう忘れそうだよ。吹っ飛ばされたほうの腕、ミシミシいってんの。
「気にしなくていい。俺はパンを焼くのが趣味でな。これも今朝の試作品だ」
「へえ、それが槞先の専攻か?」
「センコウ? まあ、そんな感じのものだ。良かったら感想を聞かせてくれ。そうしたら、もっと美味しいパンが作れる」
「それは楽しみだな、期待が膨らむよ。……ところで、俺は別に貧困なわけじゃ」
「本当に有り難い。そろそろ家族以外の声も聞いてみたかったんだ。ああ、長くなくてもいい。一言でもかまわないよ」
「……」
外堀、埋まってね?
別にパンが嫌いなわけじゃないけどさ。
誤解は解いたほうがいいかなって思ったんだ。
でもまあ、いいか。誰も困ってないし。
「いいなあ。オリサキさん、私も感想を言うので貰っていいですか」
「いいとも! ……と言いたいが」
「どうした?」
「恥ずかしい話だが、俺の窯は小さくてね。朝は二つ焼くのが精一杯だ。つまり、二条にも焼いてしまうと、俺の昼食が霞になってしまう」
「あー……学生は金が無いしなあ。なら、しゃーない」
「そんな……こんなに、こんなに美味しそうなパンが……でも二つしかない方が稀少性があって美味しい……?」
美味しくても、食えなきゃ意味なくね?
なんて、流石に言わないけどさ。
「二条。お前にやるよ」
何その、ショッピングモール的な場所指定。
えっ、三階? この校舎の? 売ってるの?